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CBDCを導入している国は?国家主導の暗号資産が果たす役割

解説系記事

2022年の北京冬季五輪でデジタル人民元の試験運用が行われ、大きな話題となりました。米国では2022年3月にバイデン大統領が研究の加速を指示し、日銀もCBDCの実証実験を進め、決済の利便性向上や外部システムとの連携を検証しています。

CBDCは国家主導の暗号資産として、金融システムにおける現金以上の役割が期待されています。本記事では、CBDCの概要、果たす役割、CBDCの導入を進める国について分かりやすく解説します。

CBDCとは何か

CBDC(Central Bank Digital Currency:中央銀行デジタル通貨)とは、中央銀行が発行する暗号資産のことです。

スマホなどのデジタル端末から直接送金や支払いができ、金融取引や国際送金の迅速化、キャッシュレス化の促進などが期待されています。世界中の中央銀行がCBDCの研究や実験を進めており、普及が進むことで金融システムの変革が予想されます。

CBDCの特徴は?

CBDCの特徴は以下の3つです。

  • 中央銀行主導
  • ブロックチェーン技術
  • 決済の簡略化

中央銀行主導

CBDCは中央銀行が主導し、発行・管理します。中央銀行主導なので、CBDCの信用は非常に高いものになります。また、従来の中央銀行が行っていた金融政策も実行できます。CBDCの発行や供給を統制することで、インフレやデフレなどの金融リスクを抑制することが可能です。

ブロックチェーン技術

CBDCの運営には、ブロックチェーン技術が活用されます。ブロックチェーンは、取引情報を分散型のデータベースに記録する技術で、改ざんが非常に難しいとされています。これにより、CBDCの取引は安全かつ透明性が高く、信頼性が確保されます。

決済の簡略化

CBDCは、従来の電子マネーなどと同様に、スマートフォンやデジタルデバイスを使って簡単に決済ができます。遠く離れた相手に対してもCBDCによる支払いが可能です。

CBDCが生まれた背景は?

2008年にビットコインが誕生し、仮想通貨(暗号資産)が注目を集め始めました。これを受けて、各国政府や中央銀行はデジタル通貨への関心を高め、研究を開始しています。

2014年には中国人民銀行がCBDCの研究を開始し、2016年にはスウェーデン中央銀行も「E-Krona」プロジェクトを始動しています。2020年代に入り、各国のCBDC開発は本格化しました。2020年にはバハマが世界初のCBDC「サンド・ドル」を導入しました。

電子マネーと何が違う?

比較項目 電子マネー CBDC(中央銀行デジタル通貨)
発行主体 民間企業 中央銀行
信用性 企業信用に依存 国の公式通貨で信用性が高い
通貨価値 法定通貨と等価が担保 法定通貨と等価
決済手数料 企業により異なる 無料もしくは、低い取引手数料
国際決済 国内決済に限定 国際決済の効率化が期待される
金融政策への影響 なし 金融政策に直接影響を与える可能性
技術基盤 Web2.0技術 Web3.0(ブロックチェーン)技術
入出金 銀行が必要 銀行口座を持たない人々もアクセス可能

CBDCと似たような決済手段に電子マネーがあります。ペイペイや楽天ペイ、Suicaなどの電子マネーとCBCDは何が違うのでしょうか?上記表は電子マネーとCBDCの違いをまとめたものです。

電子マネー決済は主に事業主側がコストを支払います。決済手数料は数%に設定されており、ビジネスに使用する上で重い負担となっています。

CBDCであれば、無料もしくは少量のガス代(ネットワーク利用料)を支払うことで決済は完了します。ガス代はCBDCが採用するチェーンによって異なりますが、コストの安いチェーンであれば数円程度で済ませることができます。

CBDCのタイプ

CBDCには、消費者向けの「小売CBDC」、金融機関向けの「卸売CBDC」、両者を組み合わせた「ハイブリッドCBDC」、そして国際取引に利用される「国際CBDC」の4つのタイプがあります。それぞれ異なる目的と利用範囲があります。

詳しく見ていきましょう。

Retail CBDC(小売CBDC)

一般消費者が直接利用可能なCBDCです。デジタルウォレットなどを通じてCBDCの購入、保有、支払いができます。

すでにCBDCを導入している国の多くがRetail CBDCを採用しています。

Wholesale CBDC(卸売CBDC)

銀行や金融機関が使用するCBDCです。金融市場での決済や資金移動に利用されます。

Hybrid CBDC(ハイブリッドCBDC)

小売CBDCと卸売CBDCを組み合わせた形態です。一般消費者と金融機関の双方が利用可能です。

日本や米国、欧州などはハイブリッド型のCBDCの研究を進めています。

Cross-border CBDC(国際CBDC)

国際間の取引に利用されるCBDCで、異なる国の中央銀行が発行するCBDCを相互に交換することが可能です。

CBDCの果たす役割

資金流通の効率化

CBDC導入でクロスボーダー決済は改善され、国際取引は迅速かつ低コストで行われるようになります。企業や個人が海外取引を行いやすくなり、グローバルなビジネスが活性化されるでしょう。

また、金融システムの透明性が向上することで、取引の安全性が高まります。金融機関や投資家が信頼できる環境で決済を行えるようになり、資金の流通が円滑になります。

課税、統制の容易化

CBDCはブロックチェーン技術を利用しているため、取引データの追跡が容易になります。不正な取引やタックスヘイブンの利用を抑制することができ、国の税収向上に寄与することが期待されます。

また、プログラマブルマネー※の仕組みを導入したCBDCは、税金や社会保障費の自動徴収を可能にします。これによって、財政運営の効率化をはかることができます。

※プログラマブルマネーは、​スマートコントラクトと呼ばれるプログラムによって自動的に決済が行われる仕組みです。​あらかじめ条件を設定しておくことで、​その条件が満たされた場合に自動的に決済が行われるため、​人間の介入は必要ありません。​より迅速かつ低コストな決済が可能になります。

金融包摂の促進

CBDCは現金と同様に誰でも使うことのできるデジタル通貨です。銀行口座を持っていない人でも利用できるため、金融包摂の観点から重要になります。

また、CBDCは送金や決済コストを削減することができるため、貧困層や遠隔地に住む人々にも金融サービスが届きやすくなります。スマートフォンやインターネットの普及が進むにつれ、より多くの人々がCBDCを用いた金融サービスを利用できるようになります。

金融包摂(きんゆうほうせつ)は金融サービスがより多くの人々に利用可能な状況となることです。金融包摂が進むことで社会全体の経済活動は促進されます。

CBDCの課題

CBDCの課題について解説します。サイバー攻撃や不正アクセスへの対策、国際的なセキュリティ基準の整備、金融政策の独立性維持、そして個人のプライバシー保護が大きな課題として挙げられています。

適切な対策が講じられることで、CBDCは金融システム全体の発展に寄与することが期待されます。

セキュリティの問題

CBDCにはサイバー攻撃や不正アクセスなどの脅威が存在します。デジタル認証が不完全であるとCBDCの信頼性が低下し、金融システムへの影響も懸念されます。

さらに、国際的なセキュリティ基準のばらつきにも注意が必要です。CBDCはクロスボーダー決済に使用が期待されるため、国際的なセキュリティー基準を早期に整える必要があります。

金融政策への影響

信用度の高いCBDCは世界中の人々から買い求められます。CBDCは誰でも低コストで購入できるので、特定の通貨に人気が集まり、通貨格差が広がっていきます。そのため、金融政策の独立性が損なわれる恐れがあります。

為替の安定化は国際経済にとって重要です。スマートコントラクトを適切に使用した国際協調が求められます。

私生活の監視の懸念

CBDC導入に伴い、個人の取引履歴や資産が中央銀行に記録される可能性があります。この情報が適切に管理されない場合、プライバシーの侵害や過度な監視が懸念されます。

また、政府や金融機関が個人情報を不当に利用するリスクや、個人の自由や権利が制限される恐れもあります。

CBDCの設計においては、プライバシー保護を考慮した技術や規制が重要です。匿名性を保つ方法や、情報アクセスに制限を設けることなどで、プライバシー懸念の緩和に繋がります。

CBDC導入国

CBDC準備国 説明
バハマ 世界初のCBDC導入
カンボジア 2021年より商業銀行によるサービス提供が開始
東カリブ諸国機構 徐々に参加国増加※2023年4月中で東カリブ諸国中8か国導入
中国 2023年にはECのためのスマートコントラクトを実装
ジャマイカ CBDCを法定通貨として認めた世界初の国
ナイジェリア 現金不足により急速に普及

既に小売りなどの決済でCBDCが使用できる国を導入国として解説しています。

東カリブ諸国機構は東カリブ地域における経済統合などを目的とした政府間組織です。2023年4月時点で8か国がCBDCを導入しています。

バハマ

引用画像:https://www.sanddollar.bs/

主導 バハマ中央銀行
CBDC名 サンド・ドル(サンドダラー)
使用チェーン バハマの決済ネットワークとリンクしたプライベートチェーン
種類 Retail CBDC
特記 世界で初めて使用されたCBDC

バハマ中央銀行は2020年にCBDC「サンド・ドル」を正式に導入しました。世界で初めて実際に利用されたCBDCです。

サンド・ドルはバハマ・ドルのデジタル版であり、モバイル端末を使って手軽に取引ができます。使用できるウォレットは政府認定のものだけです。現時点ではバハマ国内でのみ利用可能ですが、将来的には国際的な利用も視野に入れているとされています。

カンボジア

引用画像:https://www.nbc.gov.kh/english/index.php

主導 カンボジア国立銀行
CBDC名 バコンクンホン
使用チェーン 国内大手決済ネットワークと統合されたプライベートチェーン
種類 Retail CBDC
特記 「ドル化」経済への対抗策

カンボジアでは2020年よりカンボジア国立銀行が発行するCBDC「バコンクンホン」が実証実験を開始し、2021年より商業銀行に向けてサービス提供が開始されました。

​​バコンクンホンは、​​カンボジアの現地通貨リエルと米国ドルに対応しており、​​1バコンクンホンは1リエルまたは1ドルに相当します。​​​

カンボジアでは長く続いた内戦が大きな理由で、自国通貨リエルに対する信用が低下しました。国内には米ドルが多く流通する事態となっています。CBDC導入はドル化経済への対抗策としての一面もあります。

東カリブ諸国機構

引用画像:https://www.eccb-centralbank.org/

主導 東カリブ中央銀行(ECCB)
CBDC名 DCash
使用チェーン プライベートチェーン
種類 Hybrid CBDC
特記 個人と企業で手数料に違い

東カリブ中央銀行(ECCB)は、2021年3月31日からCBDC「DCash」の試験発行を開始しました。DCashは、専用のスマートフォンアプリ「DCash Wallet」で取得・利用可能で、現金・預金口座との両替が可能です。決済はQRコードを利用します。

個人間送金や企業間決済も可能で、手数料は個人には無料、企業には月額や取引ごとの手数料が適用されます。DCashの取得には銀行口座は不要ですが、本人確認が必須となっています。

中国

引用画像:http://www.pbc.gov.cn/

主導 中国人民銀行
CBDC名 デジタル人民元(e-CNY)
使用チェーン プライベートチェーン
種類 Hybrid CBDC
特記 西欧主導の国際決済システムに対抗、スマートコントラクト実装

デジタル人民元(e-CNY)は、中国人民銀行が発行するCBDCです。既存の現金通貨に代わる小口取引を目的としています。開発は2014年にスタートし、都市でのパイロットテストなどを経て、2022年の北京冬季五輪で使用できるようになりました。2023年末までに完全ローンチを目指しています。

2023年始めに民間のECプラットフォームで機能するスマートコントラクトを実装しています。デジタル人民元の使用を自動判断し、ウォレットにキャッシュバック(CBDCバック)される機能となります。

ジャマイカ

引用画像:https://boj.org.jm/

主導 ジャマイカ中央銀行
CBDC名 JAM-DEX(Jamaican Digital Exchange)
使用チェーン プライベートチェーン
種類 Retail CBDC
特記 CBDCを法定通貨として認めた世界初の国

「JAM-DEX」は、​​ジャマイカ中央銀行が発行する中央銀行デジタル通貨(CBDC)です。​​ジャマイカドルのデジタル版としてLynkアプリを介して決済に使用することができます。

​​発行は2022年です。同時期にジャマイカはJAM-DEXを法定通貨として認めており、CBDCを法定通貨として認めた世界初の国となりました。

ナイジェリア

引用画像:https://www.cbn.gov.ng/

主導 ナイジェリア中央銀行
CBDC名 eNaira
使用チェーン プライベートチェーン
種類 Retail CBDC
特記 現金不足により急速に普及

ナイジェリア中央銀行が発行するデジタル通貨「eNaira」は、2021年10月に試験運用が始まり、2022年4月に正式に導入されました。これにより国内の金融システムを改善させ、現金取引を減らすことを目指しています。

eNairaはナイジェリアドルと同等の価値を持ち、スマホアプリで利用できますが、2023年4月時点ではナイジェリア国内での取引に限られています。国際送金には利用できません。

日米欧のCBDC導入は?

日米欧においてもCBDCの導入、実証実験は進んでいます。

日本

引用画像:https://www.boj.or.jp/

主導 日本銀行
CBDC名 デジタル円※検討中
使用チェーン 検討中
種類 Hybrid CBDC
特記 オフラインの支払い機能に重点

2020年10月に日本銀行はCBDCに関する報告書を発表しました。そして、2021年11月からCBDCの試験を開始しています。2023年春には、国内・地域銀行とのCBDCテストを行い、インターネット非接続地域でも機能することを確認する予定です。

日本のCBDCの特徴は、災害時のインフラ状況を想定したオフライン時の決済機能です。

米国

引用画像:https://www.federalreserve.gov/

主導 米国連邦準備制度理事会(FRB)
CBDC名 デジタルドル※提案中
使用チェーン 検討中
種類 Hybrid CBDC
特記 民間企業への影響を重視

アメリカでは、2022年からデジタルドルと呼ばれるCBDCの発行に向けた取り組みが進められています。2022年1月には米国連邦準備制度理事会(FRB)がCBDCに関する報告書を発表し、その利点や欠点、他国の事例などをまとめました。

2022年3月にはバイデン大統領が暗号資産に関する大統領令に署名し、CBDC発行への動きが加速しています。一方で、民間金融機関への影響を心配する意見が根強くあります。

EU

引用画像:https://www.ecb.europa.eu/

主導 欧州中央銀行(ECB)
CBDC名 デジタルユーロ※検討中
使用チェーン 検討中
種類 Hybrid CBDC※加盟国内で議論
特記 試験結果次第では発行見送り

欧州連合(EU)ではデジタルユーロ導入の検討が進められています。CBDCの開発とテストが2023年から約3年で実施される予定です。

一方で、ECBラガルド総裁の声明文で「デジタルユーロは現金を補完するもの」とあるように、CBDCの立ち位置はまだ検討中のようです。そのため発行は確定しておらず、問題が生じれば発行自体を見送ることもあるとされています。

まとめ

CBDCは資金流通の効率化や課税・統制の容易化、金融包摂の促進など、多くのメリットがある一方で、課題も存在します。CBDC導入において、サイバー攻撃への対策や国際的なセキュリティ基準の整備、金融政策の独立性維持や個人のプライバシー保護は重要なテーマです。適切な対策と規制、技術開発が進むことで、CBDCは金融システム全体の発展に大きく貢献できます。

以上、CBDCの概要、果たす役割、CBDCの導入を進める国について分かりやすく解説しました。本記事を通じて、CBDCへの理解を深めて頂ければ幸いです。

AMEHARE

AMEHARE

ITの最新トレンドを発信しはじめて十余年。Web2から3の時代の変革もいち早く察知し、2012年ごろから仮想通貨に注目をし始める。次世代の文化やテクノロジーを情報を掴みつつ、NFT・メタバース・DAOなどの領域であらゆる情報を発信中。
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