沖縄県には豊富な観光資源がある一方で、立地的なハンデがあり、観光収入に偏っているという課題がありました。そうした中で、沖縄県はIT企業の拠点となるエリア「沖縄IT津梁(しんりょう)パーク」を作るなどして積極的な誘致を行い、ここ20年間で関連企業が約900社ほど増加しています。
ITが盛んになる中で、NFTなどの新しい技術を用いた試みも多く行われています。直近2年ほどの間でNFTに関連する事例は一気に増えました。
本記事では、沖縄県で生まれたNFTのユースケースを詳しくまとめました。NFT導入に至った経緯から、概要、導入後にどうなったかを詳しく解説していきます。
この記事の構成
紅型(びんがた)
引用:https://bingataconsortium.com/lp/intro/
紅型(びんがた)とは、沖縄県の伝統的な技法によって染色された手染物のことです。「紅」は色「型」は手染物に表現された形を意味します。
紅型の模様は、ストール、ブックカバー、手ぬぐいなどさまざまなものにデザインされており、沖縄のお土産としても定着しています。
NFT導入の経緯
人口減少と時代の変化により、日本の伝統工芸の職人は減りつつあります。紅型も例外ではなく、職人の数は毎年減少し、技術が継承されない事態が続いています。
また、紅型に施されたデザインの著作権の管理も十分に行き届いていないため、作品が無断で流用されているケースも存在します。そのため、技術に対して十分な対価を得られず生活に困窮し、結果的に存続が困難になることも少なくありませんでした。
このような課題がある中で、紅型のデザインをNFT化することで販売が促進し、新たな収益機会が生まれるのではないか、という考えのもとで「琉球びんがたNFT」が誕生しました。
NFT導入事例
琉球びんがたNFTは、デザイン会社の株式会社ピハナコンサルティングと、紅型に関する企業で構成される一般社団法人琉球びんがた普及伝承コンソーシアム、知念紅型研究所が運営しています。
琉球びんがたNFTでは、デザイン性の高い琉球びんがたをNFT化することに加え、購入者だけが招待される工房の視察や、紅型というコンテンツを中心としたコミュニティの形成を目指していきます。
NFT導入後
琉球びんがたNFTは、NFTマーケットプレイスのOpenSeaやFoundationで販売されています。OpenSeaでは合計4アイテムに対して1個の販売、Foundationでは合計2アイテムに対して1個の販売があったことを確認できました。
両マーケットプレイスはしばらく更新がなく、コミュニティが作られ拡大している様子も確認できませんでした。現在は公式サイトを見られなくなっており、プロジェクトが順調に進んでいると判断するには難しい状況が続いています。
UMUI~うむい~
UMUIは、フルオンチェーンのNFT発行サービスである「NFT-Drive」を利用し、ブロックチェーン上に画像・動画を保存できるサービスです。沖縄で撮影したデータを、いつでもスマートフォンなどの端末から確認することができます。
利用料金は初期費用だけが発生し、後から請求されることはありません。基本プランでは「3,300円(NFT発行手数料、0.5MB以下)」+「11,000円(専用ページ作成・保守費) = 14,300円」から利用できます。
NFT導入の経緯
UMUIは、沖縄で「想い」を意味します。沖縄で経験した大切な想いを、いつまでもあなたのそばに置いてほしい、という願いからこのサービスが誕生しました。
UMUIはNFTやブロックチェーンを身近に感じ、技術の素晴らしさを知って欲しいという目標を掲げています。ブロックチェーンの知識がない人や、暗号資産(仮想通貨)を持っていない人であっても、簡単に利用することができます。
NFT導入事例
UMUIは、Symbolのブロックチェーンを利用している、観光や結婚式などで沖縄を訪れた方向けのサービスです。
申し込みページから必要情報を入力した後に掲載したいデータを送信し、手続きが完了すると、自分専用ページのリンクが送られてきます。そのリンクをクリックすることで、いつでも簡単にアクセスすることができます。
NFT導入後
UMUIは、2023年4月7日から始まったばかりのサービスです。期間が短く、現時点で効果を実測する材料は少ないため、今どれほど普及しているかを判断することはできません。
UMUIに関する情報は、運営にも携わる@いーおきなわというアカウントで積極的に発信が行われています。
写真の保存サービス自体は真新しいものではありません。これから普及させるためには、なぜブロックチェーンでありNFTなのか、従来のサービスにない何が実現できるのか、の訴求が必要になると考えられます。
GALLERY HENZA
引用:https://www.henza-official.com/
GALLERY HENZAは、沖縄県北谷町にある、展示会に適したレンタルスペースのことです。ブランディングやマーケティング事業を営む株式会社HENZAによって運営されており、NFTアートや写真、イラストなどは、ディスプレイを通じて展示可能です。
また、NFTのクリエイターやアーティストが実際にスペースに立ち、来客者とのコミュニケーションを取ることも狙いの一つとしています。Web3.0領域でのビジネスマッチング、NFTのみならず、DeFiやDAOに関しての情報交換を行えるコミュニティの形成を目指しています。
NFT導入の経緯
世界ではWeb3.0領域の事業が爆発的な成長を遂げていますが、日本国内での認知度は低いままの状況が続いています。IT企業が多く進出する沖縄であっても、NFTなどのWeb3.0を知る人は一部であり、普及しているとはいえません。
また、内地から離れたところに位置しており、物流コストがかかるという課題もあります。飛行機や船で物を運んで準備するには時間とコストがかかり、展示会を行うことには向いていません。
そうした状況を、株式会社HENZAは逆にチャンスと捉えています。沖縄には温暖な気候と豊富な観光資源があり、才能あふれるデジタルクリエイターが集まってきています。また、北谷町という地域は、土地柄日本と米国の文化が混ざり合い、多様性の溢れるユニークなエリアです。新しいものでも受け入れられやすいという土壌があります。
株式会社HENZAは、GALLERY HENZAを通じて、多くの人が輝けるコミュニティを作ることを望んでいます。
NFT導入事例
GALLERY HENZAはNFTを含むさまざまな作品を展示できるレンタルスペースであり、利用するにはクリエイターが予約する必要があります。NFTの展示を希望する人は専用機材を借りたり、イベントの企画プロデュースを受けることも可能です。
また、NFTマーケットプレイスのOpenSeaではGALLERY HENZAというアカウント名で、NFTの出品もしています。現時点では8作品あり、何度か売買が行われている様子も確認できます。
NFT導入後
GALLERY HENZAでは、設備が整っており、ホスト側の対応がよかったことを伝えるレビューを確認できました。
しかし、これはNFTではない作品の展示会を行った人のようです。NFTの展示会を開催した情報は、オープニング時のセレモニーを除き、インターネット上では確認できませんでした。NFTのクリエイターが展示会を開催するまでは、まだ時間がかかるのかもしれません。
琉球アスティーダ
琉球アスティーダは、卓球のリーグであるTリーグに所属するチームです。地域への貢献活動も積極的に行っており、チームにはオリンピックに出場した張本選手や吉村選手も在籍しています。SNSでの情報発信に力を入れており、ツイッターでは1.4万人のフォロワー、YouTubeでは2.61万人のチャンネル登録者がいます。
琉球アスティーダは豪華アーティストも参加するフェスを開催するなど、イベントの実績も豊富です。イベントではNFTを販売し、購入者には実物のグッズも送られてくるなど、新しい取り組みを行っています。
NFT導入の経緯
琉球アスティーダは個別の暗号資産ではなく、ブロックチェーンの技術に注目しています。ブロックチェーンが、10年、20年後の未来を創り、持続可能な社会を実現するための一助となる、という考えのもとで、トークンやNFTを事業に取り入れています。
また、アスティーダフェスでは、NFTを通じて得た収益を子供の貧困問題解決のために寄付する意向も示しています。
NFT導入事例
琉球アスティーダのNFT導入事例は以下の通りです。
2021年12月:アスティーダフェスで選手のグッズをNFT化して販売
2022年8月:LIVE Sign. NFTの保有者限定で限定動画を配信
2023年1月:NFT作品Meta Akitaとのコラボ
2023年2月:NFTスタンプラリーの開催
2021年12月のアスティーダフェスを皮切りに、さまざまな形でNFTを活用したイベントを開催しています。
NFT導入後
琉球アスティーダは、直近ではNFTスタンプラリーのように無料で参加できるイベントも開催しています。NFTで儲けることよりも、まずは触れてもらうことに重きをおいて活動しているように感じます。
琉球アスティーダでは、今後もNFTやブロックチェーンを活用した新しい取り組みが行われることでしょう。気になる方はぜひSNSから情報収集してみてください。
まとめ
沖縄では、NFTを用いてさまざまな事業が行われています。今は先進的な取り組みを行う企業が中心ですが、NFTが普及することで裾野が広がり、将来的には多種多様な企業で導入されるかもしれません。
しかし、本記事では紹介していませんが、事例の中にはNFTを使う必要がないものも多く存在します。今後は「NFTでなくては実現できないサービス」に着目することで、活用のヒントが見えてくるはずです。