2022年度は”メタバース元年”とも言われたほど、メタバースサービスの登場やニュースが話題になりました。KDDIも2022年に「デジタルツイン渋谷」を発表し注目を集めました。
そして、2023年現在、KDDIがさらに新しい試みとしてaU(アルファーユー)を公開。このaUは多額の投資のもとに開発が進められており、そのサービス内容も本腰を入れていることがわかるほどに本格的な内容になっています。特に、マスアダプションを狙った戦略が垣間見られる上に、aUが提供するウォレットの仕組みには興味を引くものがあります。
この記事ではaUについて解説した上で、KDDIがメタバース事業でとっている戦略を解説していきます。
この記事の構成
aUとは?
結論、aU(アルファーユー)とは、KDDIが作る”総合型”メタバースサービスです。というのも、aUは複数のサービスから成り立っているためです。現在2023年の段階でaUが発表している主要サービスは以下の5つです。
- 完全デジタル空間
- aU metaverse
- aU live
- 現実×デジタル空間
- aU place
- webサイト
- αU market
- ウォレット
- aU wallet
上記の5つのサービスを通じて、「aUは、誰もがクリエイターになりうる世界に向けたメタバースである」とKDDIは発表しています。また筆者がaUを使ってみた感想としては、日常生活、特に娯楽に関してはaUを使うことでより楽しい体験ができそうだと感じました。では、具体的にそれぞれのサービスを見ていきましょう
αU metaverse
aU metaverseは、完全なデジタル空間上でエンターテイメントや友人との会話をアバターを使って楽しめるサービスです。
デジタル空間上に渋谷や大阪が再現されており、そこで音楽イベントなどが行われます。また、自分のアバター専用のルームも用意されており、そのルームの模様替えもできます。KDDIは2020年に「バーチャル渋谷」、2022年には「デジタルツイン渋谷」を発表していることから考えても、デジタル空間上に街を再現するのはKDDIが得意とするところでしょう。
ブロックチェーンが関係している部分としては、アバターが身につけるアイテムがNFTとして管理されている点です。また、音楽ライブのチケットもNFTとして発行されるため、記念としてデジタル上に保存しておけます。
αU live
aU liveは、2023年の夏に公開予定となっており、現在はまだ利用はできません。
aU公式の情報を見ると、デジタル空間上で、アーティストのライブを360度の視点で楽しめるサービスと発表されています。さらに、高画質でライブの映像を見れるとも記載があるため、デジタル空間上ならではのライブ体験が楽しめそうです。
αU place
aU placeも、aU liveと同じく2023年の夏にリリース予定となっています。
aU placeは、実店舗と連動したバーチャル店舗でショッピングができるサービスです。実店舗のデータを3Dデータとしてスキャンして、そのデータをデジタル空間で再現しています。「実店舗の店員が、iPhoneで撮影することでデジタル空間を作れる」とHPにも書いてあるため、iPhoneのLiDERスキャナを使うのではないかと考えられます。
また、実店舗を訪れた場合には、商品をスマホにかざすことで、商品に関する情報が携帯で表示される機能もリリースされる予定です。
αU market
aU marketの特徴は、以下の2つです。
- webサイト上でNFTを購入できる
- auかんたん決済やクレカの支払いに対応
正直、webサイトを触ってみた感想としては、他のマーケットプレイスより優れているポイントはほとんどありませんでした。コレクション数やUIを見ても、OpenSeaと比較するとまだまだ弱いです。
ただ、KDDIがもつコネクションを生かしたコレクションや、auかんたん決済でNFTを購入できるのは強みと言えるでしょう。
αU wallet
aUのサービスで一番面白く感じたのが、aU walletというウォレットサービスです。特徴は以下の3つ。
- aU marketと連動して、所持しているNFTを確認できる
- MATICのみ送金・入金ができる
- ニーモニックフレーズはKDDI側が管理している
メタバースサービス内で、同時に自社のウォレットまで提供するのはコストがかかるため、ウォレットの提供をしているサービスは多くないです。
ただし、aUの場合は、aU内で「aU market」を所有しているため、ユーザーの利便性を考えれば自社のウォレットがあった方が楽でしょう。また、MATICのみの対応に限定しているのも、複数の仮想通貨に対応するよりも1つに絞った方がユーザーが扱うのにわかりやすくて負担にならないからでしょう。
ニーモニックフレーズを管理している点については、後ほど詳しく解説します。
aUが取るマスアダプション戦略
ここから、aUがどのようにユーザーを獲得しようとしているかの戦略について解説していきます。
総合型メタバースと利便性
まず、他のメタバースサービスと違う点として、aUは、総合型メタバースであるという点が挙げられます。特に、友人とのチャットやボイスでのやり取りができたり、音楽イベントが開催されたりという点で、日常生活や娯楽をaU上で楽しめるのが強みです。
また、買い物もデジタル空間上で行えるため、幅広い行動をaU上で行えます。そのため、従来メタバースには興味がなかったユーザー層の獲得がしやすい特徴があります。
その他にも、買い物や音楽イベント参加の際に仮想通貨を利用する必要があっても、aU walletがあることで、MetaMaskのような外部ウォレットサービスに接続する必要がありません。そのため、ユーザーがメタバース上で娯楽を楽しむ際にweb3やCryptoの知識があまり求められないのもマスアダプションを可能にしている特徴です。
web3に馴染みがないユーザーでもわかりやすいUI
上記は、aU walletの画面ですが、クレジットカードのようなデザインになっています。このデザインを見れば、MetaMaskのようなウォレットサービスを触ったことがない方でも、「aU walletでは仮想通貨を扱うんだな」と直感的に理解できます。
また、aU marketの購入画面も「ログインして購入」という記載になっており、極力ウォレットの存在を意識させずにNFTなどが購入できるような工夫を感じます。
NFTの購入が仮想通貨を使わずにできる
最近、国内のweb3プロジェクトでは珍しくない仕組みではありますが、aU内では、NFTの購入に際して仮想通貨ではなくても購入できる仕組みを導入しています。
aUでは、applepayまたはgooglepay、もしくはauかんたん決済を決済手段として利用できます。コードは公開されていないですが、筆者の開発経験から察するに、ユーザーがNFTを購入する際にapplepayなどで決済を行い、決済が成功したらNFTの発行をaUの運営側が行う手段をとっていると思われます。
NFTの発行時には、スマートコントラクトを動かすためガス代が発生しますが、aUの運営側が管理するアドレスがガス代を支払うことで、ユーザーがNFTを購入する時に自分のウォレットにガス代が十分にあるかどうかを考える必要がありません。これはメタトランザクションと呼ばれる仕組みが導入されていると考えられるでしょう。
ニーモニックフレーズの管理が不要
aU walletはウォレットサービスですが、ニーモニックフレーズをKDDI側が管理してくれる「バックアップ機能」が存在します。これを活用することで、自分の個人情報とニーモニックフレーズが紐付けられ、ニーモニックフレーズを忘れてしまっても、自分の個人情報を入力すればニーモニックを取り出せる仕組みです。
MetaMask等を使っている方で、このニーモニックフレーズを忘れてしまい、ウォレットを復元できなくなってしまう方がいらっしゃいます。その不安をaU walletは取り払ってくれるので、初めてウォレットサービスに触れる方でも安心して使いやすいでしょう。
秘密鍵を分散して管理する
先ほど、aU walletは、ユーザーのニーモニックフレーズを個人情報と紐づけているとお伝えしました。これは暗号通貨の取引所も同様で、ニーモニックフレーズを自社で管理することでユーザーに利便性を提供しています。
ただし、ユーザーのニーモニックを管理できるということは、最悪その会社が攻撃を受けたらニーモニックが流出する懸念もあります。
そこで、ニーモニックを管理する場合はその企業が十分な管理をしていることを保証するために、暗号資産交換業者に申請をしないといけません。ただし、aUは暗号資産交換業者に名前がありません。
暗号資産交換業者にaUがない
https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/kasoutuka.pdf
上記の金融庁が公開している暗号資産交換業者の一覧を見てみると、確かにaU(KDDI)の名前が暗号資産交換業者のリストには載っていません。
秘密鍵の分散化でカストディ業務を回避している
では、なぜaU(KDDI)は、暗号資産交換業者のリストに載っていないのでしょうか?
それは、aU walletのユーザーのニーモニックを「KDDI」と「KDDIデジタルデザイン株式会社」が分散して持っているため、ニーモニックをaU側が好き勝手に取り出せない仕組みになっているからです。
そのため、暗号通貨取引所などが課されるカストディ業務を回避できています。ただし、実際にはaU walletのバックアップ機能を使って、ニーモニックフレーズを取り出せるわけですから、実質的にカストディウォレットを扱っていると言えるでしょう。
今回のaUのように、実質的にカストディウォレットを提供していたとしてもニーモニックを分散して持ったり、複数の秘密鍵の署名がないと、あるアドレスの資産を移動できないという仕様にすることでカストディ業務を回避している事例は多々あります。
KDDIがメタバースで有利なわけ
最後に、KDDIがメタバース事業を進める上で、有利な点について触れて終わりましょう。
メタバースの定義
そもそもメタバースとは何か?という話があるのですが、EpyllionのCEOであるマシュー・ボール氏によって定義されたメタバースの7つの要素が有名です。
以下はポール氏のブログから引用した英語を翻訳したものです。
※引用元:https://www.mattdewball.vc/all/tdemetaverse
- 永続性
- 永遠に終わりがない世界
- リアルタイム
- 現実世界と同じようにリアルタイムで物事が進む
- 誰でも参加できる
- 同時接続数に制限がなく、誰でもイベントに参加できる
- 経済圏がある
- 幅広い仕事が存在していて、何らかの価値を生んでいる
- デジタルと物理、両方の体験
- 経験がデジタルにも物理世界にも及ぶ
- 他のプラットフォームに接続できる
- プラットフォームを跨いで資産、アイテムを動かせる
- 多くの経験・コンテンツが作られる
- 個人や企業によってコンテンツとプラットフォーム内での体験が作られている
特に上記の2つ目に挙げられている”リアルタイム”で述べられているように、”同時接続性”は1つの重要なキーワードです。メタバースを1つの大きな世界と捉えるなら、そこに接続できるユーザー数に限りがないほうがよりリアル世界のような動きが再現できます。
通信インフラを確保しているKDDI
KDDIは、自社で携帯事業や通信事業を持っているため、5G通信や光通信を強みとしています。そこで、先ほどのメタバースの定義である2つ目の”同時接続性”を考えると、圧倒的に低遅延の通信を提供できるKDDIは、メタバース事業において有利です。
KDDIがメタバースに参入する理由には、上記のように通信のインフラを確保しているという点が有利に働くことが挙げられるでしょう。