事例としてアート作品が取り上げられる「NFT」ですが、NFTに用いられている技術はさまざまな分野での活用が期待されています。
いまいちNFTの価値が分からないという方に向けて、実生活に結びつくジャンルにNFTを活用する事例をご紹介します。
アート以外の活用事例を知っておくことで、NFTの将来性や期待されている理由を理解できますよ。
この記事の構成
【NFTとは】知っておくべき3つのポイント
はじめに、NFTについて知っておくべき3つのポイントを解説します。
- デジタルデータの唯一性を証明できる
- コピーできないわけではない
- 転売利益を得る仕組みがある
NFTが幅広い分野で活用される理由でもあるので、上記3つのポイントは理解しておきましょう。
デジタルデータの唯一性を証明できる
NFTとは、Non-Fungible Token(ノンファンジブル・トークン)の頭文字で、日本語にすると「非代替性トークン」を意味します。
非代替性は「替えが効かない唯一無二の」、トークンは「印、象徴」という意味です。
デジタルデータをNFTにすることで、唯一無二のものであると証明できます。
唯一性を証明できる理由は、取引履歴や発行元がブロックチェーンに記録されているからです。
ブロックチェーンは、参加ユーザー全員で履歴を保管・承認しているため、誰かひとりが不正操作や改ざんをしようとしても現実的には不可能とされています。
そもそもデジタルデータはコピーが簡単で、NFTではないデータがインターネット上に拡散した場合、原本を特定したりコピー品でないことを証明するのは困難です。
それがNFTの登場によって、NFTと紐づいたデジタルデータであれば、そのデータが唯一無二のものであると証明できるようになったのです。
コピーできないわけではない
NFTはデジタルデータの唯一性を担保する技術ですが、「デジタルデータをコピーできないようにする技術」ではありません。
簡単にいうと、コピーしても所有の正当性の有無がわかるということです。
NFTにするデータは画像であればjpgやpng、動画であればmp4やGIF、音楽はWAVやmp3など、これまでと変わらない保存形式を使用します。そのため、NFTに使用するデータ自体を、コピーやダウンロードすることは可能です。
ただし、コピーしたデータをあたかも自分の所有物であるかのように出品しても、NFTであれば発行元や取引履歴がブロックチェーンに記録されているため、アドレスをたどればコピー品であることを特定できます。
コピー可能なデジタルデータが価値を持つ理由は、ブランド品のバッグやアクセサリーと同じで、コピー品が出回ってもNFTによってオリジナルであることを証明できるからです。
転売利益を得る仕組みがある
NFTはマーケットプレイスという場所で、ユーザー同士が取引をしており、マーケットプレイスによっては、販売者が「ロイヤリティ(権利使用料)」を設定することも可能です。
たとえば、販売時に価格:1万円、ロイヤリティ:10%に設定した場合。Aさんに販売したときは、価格の1万円が販売者の手元に入ってきます。次に、AさんがBさんに2万円で転売したとき販売価格の10%、つまり2,000円が販売者にも支払われるという仕組みです。(手数料は無視)
ロイヤリティの支払いはプログラムによって自動で行われるため、販売時の設定だけで転売利益の一部が販売者に還元されます。くわえて、NFTはブロックチェーン上で管理されているため、不正に転売額を設定変更することは事実上困難です。
このように、NFTは転売利益が自動で還元され、不正転売が起きにくい特性をもつため、チケット販売や著作権が関わる分野での活用が期待されています。
NFTの活用事例【ジャンル別10選】
NFTの活用事例を10個のジャンルに分けて解説していきます。
- 個人情報
- 真贋証明
- 医療データ
- 学歴・経歴証明
- 特許・知的財産
- 投票権
- サプライチェーン
- 不動産
- 各種チケット
- メタバース
事例1:個人情報
個人情報は生年月日や性別、居住地などの個人が特定できるものから、Webサイトの閲覧履歴や購入履歴なども含まれます。
近年では、インターネットで収集した個人情報をもとに、過度に広告表示させることが問題視されているのが現状です。
そこで、商品の購入やサービスを体験した人にNFTを発行して、NFTを持っている人に対して広告や宣伝、お得情報を通知する手法が開発されています。
ブロックチェーン上に履歴が残り続けるNFTの特性を活かし、個人情報ではなくNFTの有無でプロモーションするという手法です。
もちろん、ユーザー側でNFTを手放しても問題ないため、必要な情報のみを受け取ることができます。
参照:NFT(Non-Fungible Token)の技術を活用し、個人情報を持たず特定の個人にPUSH型の情報提供を可能とする次世代マーケティングソリューションをリリース(株式会社Bennu)
事例2:真贋証明
真贋証明とは、製品がオリジナルかどうかを判断し証明することです。
OECD(経済協力開発機構)によると、偽造品の被害額は2019年時点で「世界全体の貿易額の3.3%を占めている」と発表しています。
グローバルな問題である偽造品や海賊版製品に対して、NFTを活用して問題解決を図ろうとする取り組みがあります。
たとえば、cryptomall japanが提供する「鑑定証明システム(R)」では、デジタルとアナログの両方が揃わなければ証明できないシステムを構築しています。
まず、製品の画像をNFTにしてブロックチェーン上に記録し、製品には独自のICチップを埋め込み、同じICチップが入ったカードを購入者に渡すという仕組みです。
鑑定専用のプラットフォーム上で、NFTと製品とカードの3つが一致することで真贋証明が担保されます。
このように、現物とNFTの組み合わせで唯一無二であることを証明する取り組みは、ブランド品や絵画などの分野で広がっていくでしょう。
参照:【JCBA × クリプトモール】真贋証明を100%担保する特許取得済み “NFT型”「鑑定証明システム」発明企業であるcryptomall japan(株)が(一社) 日本暗号資産ビジネス協会へ加入
事例3:医療データ
NFTやブロックチェーンは、参加ユーザーで履歴を共有・保管するというのが特徴です。
この特徴を活かし、医療関係者のみが閲覧できるプラットフォーム上で、患者の医療データをNFTにして医療機関で情報共有するという活用方法も開発されています。
また、輸血に必要な血液の情報をNFT化し、ブロックチェーン上で管理する動きもあります。献血の提供者や採血者、輸送機器のデータ、温度などをNFTにすることで、献血から輸血までのコストや時間ロスを防ぐという取り組みです。
NFTのデータは改ざんできないため、ヒューマンエラーによる誤った輸血も防ぐことができます。
ブロックチェーン上で血液データを管理する仕組みは「Blood Chain」とも呼ばれています。
参照:Blood on the Blockchain: Tokenizing Can Make Donations More Effective
事例4:学歴・経歴証明
学歴や経歴の証明に、NFTは最適といえます。
出席や履修、在籍の記録をすべてNFTにすることで、証明書発行の手続きをする必要がなくなり、紙で提出する必要もありません。
実際に、スクール事業を展開する株式会社バンタンでは、卒業証書をNFTにする取り組みが行われています。
NFT化された証明書は、本人以外には閲覧制限があり、希望する場合のみ第三者へ提示することができます。
学歴や経歴の詐称で被害を受ける問題も、耐改ざん性の高いNFTによって解決されるでしょう。
参照:【バンタングループ】国内初!NFT化された卒業証書を発行~数年後、何億円もの価値になるほどのクリエイターへと成長してほしい~令和3年度バンタン卒業式-卒業生で写真家・映画監督 柿本ケンサク氏登壇-
事例5:特許・知的財産
特許とは、一般的に「発明」と呼ばれる技術的アイデアで、出願し登録することで特許権が与えられ法的に保護されます。知的財産とは、特許を含む幅広いアイデアやデザイン、システムなどのことです。
知的財産の所有権や使用権をNFTにすることで、権利自体を商品化して販売したり取引したりと、収益化できるようになります。また、第三者を仲介せずプログラム上で管理するため、権利を使用する際の時間コストを抑えることが可能です。
NFT化によるメリットは2つあります。
1.知的財産の著作権の所在を明確にできる
2.知的財産を所有または使用する権利を商品のような形で保有することができる
権利自体が金銭的価値をもつようになると、企業であれば新たな企業価値の指標として明確にアピールすることが可能です。もちろん、法人だけでなく個人にも当てはまります。
このような動きは、大手IT企業のIBMと特許取引プラットフォームを展開するIPweの連携で、開発が進められています。
参照:IBM-IPwe Partnership Hopes to Increase Patent Efficiency, Propel Transactions
事例6:投票権
投票権は公的な選挙権のほか、アイドルのファン投票など、お金を払って投票権を得るケースも含みます。
投票権のNFT化は、投票所や管理人を配置するためのコストや、有権者が投票所に行くまでのコストを省くことが可能です。
基本的に投票権は1人1つであるため、NFTの唯一性と相性がよく、二重投票を防ぐことができます。また、不正をすることが困難な点もNFTの強みです。
NFTではありませんが、ブロックチェーン上で投票権を管理するという実証実験がすでに行われています。アメリカのバージニア州とエストニア共和国、千葉県つくば市の事例が有名です。
参照:West Virginians abroad in 29 countries have voted by mobile device, in the biggest blockchain-based voting test ever
参照:Estonia leads world in making digital voting a reality
参照:ブロックチェーン×マイナンバーカード×顔認証技術によるインターネット投票を実施しました!
事例7:サプライチェーン
サプライチェーンとは、製品の材料調達から製造、販売、廃棄に至るまでの流通経路のことです。
ブランド品などの真贋証明については前述しましたが、食品業界や衣料業界でもNFTを活用する動きがあります。
たとえば、スターバックスではコーヒー豆の栽培場所から焙煎工程、試飲データ、輸送経路などをブロックチェーン上に記録し管理する取り組みを行っています。
上記の例のように、食品の場合は異物混入や不適合品があった際に、迅速に問題追求のための初動が可能です。
NFTおよびブロックチェーンは、追跡可能性(トレーサビリティ)が高いという特徴があり、サプライチェーンへの活用に適しています。
参照:テクノロジを駆使してお客様とのパーソナルなつながりを構築するスターバックス
事例8:不動産
不動産をNFTにして、さらに小口化して販売するといった事例もあります。
Ouchi Financeは、東京都内のマンションの1室をNFTにして、小口販売することを発表しました。
不動産をNFTにすることで、所有権がブロックチェーンに刻まれるため、改ざんされる心配が少なくなります。NFTはマーケットプレイスで売買されるので、複雑な手続きが省略でき、海外の不動産であっても投資がしやすくなる点がメリットです。
もちろん、まだ事例が少ないため、中には詐欺まがいの投資案件もあるかもしれません。
とはいえ、不動産NFTが広まれば、不動産投資へのハードルが下がるきっかけになるでしょう。
参照:NFT不動産第3弾:ついに日本上陸 オーベル練馬区分一室のNFT不動産が販売決定!
事例9:各種チケット
電子化が進むチケットも、NFTにすることで思い出のコレクションとして残せるようになります。
コンビニチェーンを展開するローソンでは、「LAWSON TICKET NFT」という、ライブチケットのメモリアルNFTを提供するサービスを開始しています。
ファンは唯一無二のNFTを思い出として残すことができ、主催者はチケット販売に加え、NFTの販売収入も獲得できるようになるというものです。
ほかにも、電子チケット販売サービスを展開する「ZAIKO」では、NFTチケットを発行・販売できる「Digitama」というサービスを開始しています。
NFTチケットの購入者は転売も可能で、アーティストや主催者には転売利益が入る仕組みのサービスです。
これまでは、販売時だけしか収入が入らなかったチケット販売も、NFTチケットの登場で転売が繰り返された場合でも、利益を上げることが可能になりました。
参照:株式会社ローソンエンターテインメント「LAWSON TICKET NFT」
参照:ZAIKO株式会社「Digitama」
事例10:メタバース
メタバースとは、コンピュータ上に作られた仮想空間のことです。
これまでもゲームやVRチャットなど、3Dの仮想空間を遊べるサービスはありましたが、NFTの登場によって注目度が変わってきています。
仮想空間のアイテムやアバターをNFTにすると、唯一性を証明できるだけでなく、ユーザー同士で売買したり、NFTを換金したりすることができます。
遊ぶための仮想空間だった場所で、経済活動が始まるということです。
たとえば、メタバースゲームとして有名な「The Sandbox」では、ゲーム内の土地がNFTになっており、1区画あたり数百万円から取引されています。さらに、土地を貸して家賃のように収入を得ることも可能です。
すでにユーザーの多いゲームジャンルで、メタバースのNFTが普及すると、必然的に価値も高まると予想できます。
NFTの活用事例10選:まとめ
アートだけではないNFTの活用事例について、10個のジャンルを紹介しました。
NFTはデータの改ざんに対して強く、履歴がブロックチェーンに刻まれるため、追跡可能性が高いといった特徴があります。
今回挙げた事例は一部ですので、これから多くの分野で活用されていくはずです。
NFTによって変わる経済動向に期待しつつ、最新ニュースを見守っていきましょう。