「食×テクノロジー領域」でのサービスを提供する目的で設立された株式会社comealは2022年10月28日、グルメ会員権NFT「comeal」をリリースしました。NFTを活用して「新境地の食の体験」を届けようという意欲的な試みです。デジタルと物理的な特典を組み合わせて幅広いユーザーに特別なグルメ体験を提供します。NFTが持つ柔軟性を活かした新しいビジネスです。
この記事の構成
comealとは?
株式会社「comeal」には、「食材が喜ぶ世界を作る」「食材が持つ価値を最大化する」というコンセプトがあります。これを「食×テクノロジー」という領域でのサービスの展開によって実現しようというのが理念です。
引用元:comeal
「株式会社comeal」の理念
株式会社comealを創業した「石田イアン」氏は、旅行・観光に関する情報を発信するIT企業の「trippiece」社を立ち上げた起業家です。
石田氏が起業家として最も重視するのは「リアルの世界でのハッピーな体験」です。trippiece社は、旅行という非日常体験を通じてユーザーを笑顔にするというコンセプトを掲げています。
comealでは「食という体験」を通じて価値の提供をしたかったと石田氏は語っています。comealで目指しているのは飲食店と提携して食材流通の新しい形を作ることです。
2020年以降の飲食業界は、コロナをきっかけに大きく変化しました。飲食店はデリバリーやテイクアウトに力を入れるようになりましたし、消費者は外食の機会が激減しました。「レシピサイトを見て献立を考える」「食材をECで注文して調理する」という自炊のスタイルもコロナ禍で定着しています。
石田氏は変革期にある今こそ、「『美味しい』の選択肢はもっとたくさんあっていい」と考えています。選択肢のひとつが食に関わる会員権NFTの発行です。
会員権NFT「comeal」をリリース
株式会社comealは、美食コミュニティ「comeal」をリリースし、2022年11月23日にメンバーシップNFTの販売を開始しました。生産者も巻き込んで、飲食店とユーザーがともに関わる様々なプロジェクトを展開する予定です。
引用元:comeal
具体的な活動内容として以下の3点が挙げられています。
- プロセスの共有:食材・生産者を選定し、料理として味わうまでのプロセスを可視化する
- 多彩なメニューの提供:固定概念に縛られない自由な発想の料理にチャレンジしていく
- コミュケーション:飲食店やシェフと直接コミュケーションすることで新しい体験価値を生み出す
comealは、会員権となるNFTを発行して保有者によるコミュニティを形成します。コミュニティではホルダー限定のコマースが開設され、ホルダー限定の予約を取れるような設計になっています。
第1弾は「天ぷら秘密結社テンプラス」のメンバーシップNFT
引用元:comeal
comealの第一弾のプロジェクトは「10+(テンプラス)」という「天ぷら秘密結社」です。
10+は、「天ぷらで世界平和を」をスローガンに掲げ、天ぷらを革新させて世界へ美味しい体験を届けることをミッションとしています。中心となるのは東京都の人気馬肉屋・ミシュラン獲得経験のあるレストラン2軒のシェフ3名です。
メンバーシップNFTホルダーは、秘密結社テンプラスのメンバーとなり、都内に設けられた「天ぷら基地」でシェフたちが振る舞う新体験の天ぷら料理を味わい、オンラインコミュニティで希望の食材やコースにふさわしい食材の提案などのコミュニケーションを行います。
「天ぷらで世界平和」というシャレの効いたスローガンや、秘密結社を名乗る姿勢などから、「分かる人だけに通じる」コミュニティになることが推測されます。
まずはコアとなるファンを集めて、コミュニケーションしながら徐々に「食の楽しさ」「体験価値」を広げていこうという計画と考えられます。
「comeal」が誕生した背景
「comeal」の誕生は、飲食業界におけるNFTのトレンドやコロナによる社会情勢の変化を反映しています。NFT会員権という発想は、すでに多くの業界で取り入れられています。ここでは、「comeal」が誕生した背景となる「飲食におけるNFTの注目度」や「消費者のニーズの変化」について解説します。
飲食関連NFTはすでにトレンドになりつつある
NFTを付与した会員権は「世界にひとつしかない」「会員の情報管理に適している」というメリットがあるため、飲食業界との相性は良いと言われています。
NFT会員権を保有している会員・ファンは特別な思いを抱くことができるので、店舗やサービスに対する愛着や親密さが強くなり、エンゲージメントを高めます。そのため、飲食業界ではNFT会員権はすでに流行しつつあります。
たとえば、ニューヨーク・マンハッタンでは「フライフィッシュクラブ」という世界初の「NFTレストラン」がオープンしています。
引用元:Flyfish Club
完全会員制のフライフィッシュクラブは、カクテルラウンジとメインダイニングルーム、「おまかせ」カウンターの3つのエリアで構成されています。
メニューは寿司を中心としたシーフードです。寿司ネタは新鮮な魚介類を日本から毎日空輸して入手します。「NFT×食」のチャレンジのひとつとして各界から注目されています。
また、ハンバーガーの世界的チェーンのバーガーキングもNFTを資金調達手段として活用し始めています。ハンバーガーのパッケージにQRコードを印刷しており、ユーザーがスキャンするとポイントが獲得できます。ポイントが一定数貯まるとタレントのデジタルブロマイドやオリジナルゲームなどのNFTがもらえる仕組みです。
シェフのレシピをNFTとして販売するプロジェクトが立ち上がるなど、現在のアメリカの飲食業界ではNFTが新しい顧客サービスとして広がりつつあります。
現在進行中のトレンドが日本にもやってくるのは時間の問題と言われています。
NFTの急速な浸透
NFTは日本でも急速に浸透しつつあります。政府も国の競争力を高めるため、次世代インターネットであるweb3にいち早く取り組む姿勢を見せています。2022年7月には「web3.0政策推進室」が設立され、法整備やweb3環境作りを強化しています。
アメリカの調査会社「Verified Marcket Research」社のレポートによると、NFT市場は2030年までに年間平均33%以上で成長し、2030年には2300億ドルに達すると予測されています。
日本では2021年頃からイラストやアート系、ゲーム分野でのNFTの利用が拡大し、総取引額が1億円を超えるようなプロジェクトが多数誕生しています。
NFTの利用拡大は様々な領域に影響を与えることが予測されており、アートやゲームだけでなく文化や消費に関わる多くの分野でNFTが利用されるだろうと言われています。
コロナによるライフスタイルの変化
コロナによる自主規制や行動制限によって、消費者のライフスタイルは大きく変化しました。特に飲食業界は大きな影響を受けています。
コロナ禍の2021年3月に政府が発表した「新型コロナウイルス感染症禍の外食産業の動向」によると、外食支出は2020年に平年比マイナス28%と大きく下回っています。
引用元:内閣府
コロナ禍で進行していた外食控えの傾向は、2023年に入ってやや鈍化したものの、ネットショッピングの利用の増加やテイクアウトやデリバリーなどのサービス利用の増加の傾向は続いています。コロナ禍を経て消費者の行動は明らかに変容しています。
飲食業界全体も、コロナ後の世界に合わせて変化していくことが求められている時代です。
NFT会員権が特効薬になるとは言えませんが、少なくとも「変化」であることは確かで、これからの飲食業界でキーワードになる可能性はあるでしょう。
comeal社は「NFTだからこそできる体験」を追求している
comeal社は、NFTグルメ会員権「comeal」を手始めとして新しいプロジェクト「PORT」も立ち上げています。NFTとリアルの企業をマッチングして新しい体験を生み出すというプラットフォームです。
引用元:PORT
PORTは「NFTだからこそできる体験」を追求しています。普段遣いできるクーポンやホルダーだけが使えるソーホーハウス、業界を横断したロイヤリティプログラムなどが計画されています。
comeal社が考えているのは「NFTをサービスのハブにする」というコンセプトです。デジタルを起点としてリアルの体験やサービスを巻き込んでいくという考え方です。
今までにない新しい体験をNFTをきっかけに生み出そうという壮大な計画をcomeal社は持っています。NFTグルメ会員権「comeal」も「NFTをハブとしたサービス」として考えると、誕生の背景はよく理解できるでしょう。
飲食×NFTの可能性と問題点
飲食店が顧客にクーポン券を発行したり、会員制にして特別な体験を提供するサービスは今までも存在しました。良質で確かな顧客の囲い込みは、飲食サービスでは大きな価値を持ちます。NFT会員権は顧客の囲い込みにおいて力を発揮すると期待されています。
とはいえ、NFT会員権と従来型のサービスとの違いがわかりにくいかもしれません。そこで、NFTを導入することにはどういった意味があり、どういった問題点が立ち現れてくるのか解説します。
メンバーシップNFTは譲渡やリースが可能
飲食店のメンバーシップをNFT化することで可能になるのが譲渡やリースです。NFTはトークンを持っているユーザーの「資産」となり、市場に出して販売することも可能です。
先程紹介した「フライフィッシュクラブ」のホームページには以下のような記載があります。
「NFTは、トークン保有者の資産となり、流通市場で売却・譲渡・リースすることが可能です。NFTの活用によってフライフィッシュクラブは熱心な会員によるコミュニティを形成し、特別な体験を提供できるようになります」
NFTが市場で取引されるようになれば、飲食店の需要が上がりNFTの価値も上がります。一定期間だけ他人に貸し出して、資金を回収することも可能です。
デジタルのNFTで管理すれば、譲渡・リースといった権利の移動がフレキシブルになり、使わないときには他人に権利を譲って無駄を省くこともできます。
新しい客層の創出
「会員制レストラン」というと、客層はどうしてもお金を持っている年配の人たちになってしまいます。大企業の役員クラスが行くところというイメージも定着しています。実際にエスカイヤクラブなどの会員制レストランの客層は40代から50代の男性客と言われています。
この点、グルメ会員権NFTなら新しい客層を呼び込める可能性が高まります。NFTに興味を示しているのは主に若い層で、流行に敏感な人たちです。ツイッターで「@10plus(天ぷら秘密結社10+の公式アカウント)」に反応しているのは、NFTファン・新しいものに興味のある人・web3に関心がある人であって、「エスカイヤクラブ」の客層とは明らかに違っています。
世界に注目されている和食ですが、「天ぷら屋」「寿司屋」で会員制となるとはっきりと若年層向けを打ち出さない限り、客層は中高年層になってしまいます。
NFT会員権が今後の新しいグルメの形を生み出す可能性は充分にあると言っていいでしょう。
デジタルへの抵抗感をどのように払拭するかが課題
「フレキシブルな譲渡・リースが可能」「新しい客層を創出できる」といったメリットがある反面、NFTには決定的とも言えるデメリットがあります。
NFTを発行して会員とするという方法は確かに良い試みです。ただし、「NFTに抵抗感を覚える人が少なくない」という問題点が指摘されています。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング社が2022年6月23日に発表した資料によると、NFTの購入に対して「偽物NFTではないか」「価格操作されていないか」などの不安を挙げる人が多くいました。「関連サービスの終了などNFTが利用できなくならないか」を不安点として挙げる人も少なからず存在しています。
引用元:NFTの動向整理
会員権や特典がデジタル化されることに対して抵抗感を持つ人も多いかもしれません。伝統的な会員権や紙ベースの特典に慣れ親しんでいる人々にとっては、デジタル化・NFT化に価値を見出しにくい場合があります。そのため、デジタル化への認知や受容に対するユーザーの心理的な障壁が存在する可能性があります。
NFTに関しては技術的な障壁を感じている人も多くいますし、マーケットも充分に成熟しているとは言えません。今後は、NFTやweb3に対する心理的・技術的な壁を取り除く努力が必要でしょう。
まとめ
グルメ会員権NFT「comeal」を紹介し、「食×テクノロジー」の可能性について解説しました。最後にこの記事をまとめます。
- 株式会社「comeal」は、リアルの世界でのハッピーな体験を重視する石田イアン氏によって設立された会社である
- 株式会社「comeal」は美食コミュニティ「comeal」をリリースし、メンバーシップNFTの販売を開始した
- プロジェクトの第一弾は「10+(テンプラス)」という天ぷら秘密結社で、新体験の天ぷら料理を味わうコミュニティである
- 「comeal」が誕生した背景には、「飲食関連NFTがトレンドであること」「NFTが急速に浸透しつつあること」「NFTだからこそできる体験があること」が挙げられる
- メンバーシップNFTは従来の会員制と違うのは譲渡やリースが可能である点、新しい客層を創出できるという点が挙げられる
- NFTには抵抗感を覚えている人が少なくないというデメリットがあり、それを払拭していく努力が必要である
グルメ会員権NFTは「comeal」以外にもリリースされています。飲食業界は変革の時代を迎えており、今後の動向に注目が集まっています。