ラップドビットコインは、ビットコインと価値が連動する仕組みを持ったステーブルコインです。ERC-20規格で作られていて、イーサリアムのブロックチェーン上で構築されたサービスでも利用できます。
2023年8月16日現在の時価総額は17位と上位につけており、暗号資産(仮想通貨)ペッグ型のステーブルコインの代表的な存在といえるでしょう。
本記事では、ラップドビットコインの誕生から現在までの歴史、技術的な特徴や将来性を解説していきます。
この記事の構成
ラップドビットコイン(WBTC)とビットコイン(BTC)の特徴と違いとは
引用:https://wbtc.network/dashboard/order-book
ラップドビットコインとビットコインの特徴は以下の通りです。
ラップドビットコイン
- ビットコインの価値と連動(1WBTC=1BTC)する仕組みを持ったステーブルコイン
- ERC20規格のトークンで、イーサリアムのブロックチェーン上で利用可能
- BitGo社が発行、管理
ビットコイン
- ビットコインのブロックチェーンを基盤とした暗号資産
- 他のブロックチェーンとの互換性はない
- 管理者はおらず、マイニングによって生成
ラップビットコインはイーサリアムのブロックチェーン上で生成されたERC-20規格のトークンです。ビットコインは他のブロックチェーンとの互換性がありませんが、ラップドビットコインはERC-20規格のトークンであり、イーサリアムのブロックチェーン上で開発されたDAppsで利用できます。
ラップドビットコインの価格はビットコインにペッグされていて、基本的なレートは「1WBTC=1BTC」です。世界最大の取引所バイナンスのWBTC/BTCのチャートを見ると、上下しながらもおおよそ1WBTC=1BTC前後に落ち着いていることがわかります。
その他にも、ラップドビットコインはBitGo社という中央集権的な存在がいることに対して、ビットコインには管理者がいないことが違いとして挙げられます。
ラップドビットコイン(WBTC)の誕生〜現在までの歴史
引用:https://wbtc.network/
ここでは、ラップドビットコインが誕生した理由や、現在までどのような歴史を歩んできたかを解説していきます。
創設者
ラップドビットコインは、2018年10月26日にBitGo社、Kyber Network社、Ren社の3社合同で開発と運営を行うことが発表され、2019年1月31日にリリースされました。
BitGo社は大手の暗号資産資産管理会社であり、担保となるビットコインの管理とラップドビットコインの発行を行う、全体を主導する存在です。Kyber Network社、Ren社はラップドビットコインのプロトコル(仕組み)部分を担います。
運営チーム
運営チームは具体的に明記されていません。ラップドビットコインの仕組み部分を担う
Kyber Network社やRen社、もしくは公式サイトに記載のあるコミュニティによって運営が行われているものと考えられます。
出資者
ラップドビットコインへの出資者は確認できませんでした。
ラップドビットコインを主導するBitGo社は、2018年にデジタル資産分野で初の認定カストディアン(資産管理会社)となり、顧客から100億ドル(約1兆4,600億円)を超える資産を預かっているように、相当な資金力があると予想できます。
直近でも1億ドル(約146億円)を調達しており、暗号資産に関連するさまざまなサービスに投資をしています。
ラップドビットコイン(WBTC)の目的
ラップドビットコインは、ビットコインをイーサリアムのブロックチェーン上で利用することを目的に作られました。
イーサリアムのブロックチェーンでは、DeFiやNFTなど多岐にわたるDApps(アプリケーション)の開発がされており、ERCの規格に基づいて作られたトークンの送金が行われています。
しかし、ビットコインは他のブロックチェーンと互換性がないため利用できません。例えば、イーサリアムのブロックチェーン上に構築されているDeFiのUniswapで、トークンを直接ビットコインに両替することは不可能です。
そうした問題を解決するために生まれたのがラップドビットコインです。ラップドビットコインは、ビットコインに準ずる価値を持ったERC-20規格のトークンであり、イーサリアムのブロックチェーン上で開発されたDAppsでも利用できます。
ラップドビットコイン(WBTC)の技術的特徴
引用:https://wbtc.network/
次にラップドビットコインの技術的な特徴を解説していきます。
ビットコインと価値が連動するステーブルコイン
ラップドビットコインは、暗号資産のビットコインと価値が連動するステーブルコインです。
DeFiやオンラインウォレットの普及により、従来のドルや日本円などの法定通貨ではなく、暗号資産ペッグ型のステーブルコインも誕生しています。ユーザーは、ラップドビットコインのようなステーブルコインを持つことで、DeFiやメタマスクでの利用やステーキングで配当を稼ぐというメリットがあります。
他の暗号資産ペッグ型のステーブルコインには、主に以下があります。
- ラップドイーサリアム(ETH)
- コインベースラップドステークドイーサリアム(CBETH)
- ラップドリップル(WXRP)
- レンビットコイン(renBTC)
さまざまな種類のステーブルコインがありますが、暗号資産ペッグ型ではラップドビットコインが市場シェアの81%を占めます。他の種類は時価総額が低く、暗号資産との価値が連動していないものもあるため、保有する際は注意が必要です。
ビットコインを担保にしている
引用:https://wbtc.network/dashboard/order-book
ラップドビットコインは、担保となるビットコインを預け入れて発行する仕組みです。
発行の手順は以下の通りです。
①wbtc.networkで、Kyber Network社やRen社などのラップドビットコイン取扱い業者を選ぶ
②ユーザーがビットコインを送る
③取扱い業者がビットコインを預かり、ラップドビットコインを発行する
④ユーザーがラップドビットコインを受け取る
ビットコインに戻す際の手順は以下の通りです。
①ユーザーがラップドビットコインを取扱い業者に送る
②取扱い業者が送られてきたラップドビットコインを焼却する
③取扱い業者が預かっていたビットコインをユーザーに返す
ラップドビットコインはユーザーがビットコインを預けた分だけ発行され、返ってきたら取扱い業者によって焼却されるシンプルな仕組みです。
ERC-20規格で作られたトークン
ラップドビットコインはERC-20規格のトークンであり、イーサリアムのブロックチェーン上で開発されたDAppsや、レイヤー2ソリューションでも利用できます。
主には以下が挙げられます。
- Uniswap
- Compound
- WeiDex
- メタマスク
- ポリゴン
ビットコインをラップドビットコインにすることで、用途が大幅に広がります。
ラップドビットコイン(WBTC)の発行と管理はBitGo社が担う
ラップドビットコインの発行と管理は、BitGO社が担うこととなっています。
「ビットコインを担保にしている」の見出しで説明した通り、ラップドビットコインはビットコインを預けた分と同数発行される仕組みです。発行と管理を行うBitGo社は、市場に流通しているラップドビットコインの分、ビットコインを保有しています。
BitGo社は、保有資産は米国で認可された信託会社によって保管されており、万が一倒産したとしても、預けているビットコインがなくなることはないと主張しています。
ラップドビットコイン(WBTC)の将来性
引用:https://wbtc.network/
ここでは、ラップドビットコインの将来性について解説していきます。
ビットコインの用途が広がる
近年は、暗号資産に関連するさまざまなアプリケーションがリリースされており、DeFiやNFT、Play to Earnのゲームがトレンドになるなど、ニーズが大幅に広がりました。
ビットコインは世界で初めて生まれた暗号資産であり、あくまで決済を想定としています。他のブロックチェーンとの互換性までは想定していません。分散的な仕組みで動く一方で、機能がアップデートされないことから、利便性の面では後発の暗号資産に大きく劣ります。
そうした問題がある中でラップドビットコインが誕生し、アルトコインからビットコインに準ずる暗号資産に直接両替できるようになりました。ラップドビットコインはERC-20に対応したウォレットに送金してビットコインのように扱えるため、さまざまなシーンで利用されています。
ディペッグが頻繁に発生している
引用:https://www.binance.com/en/trade/WBTC_BTC
ラップドビットコインは、ビットコインと同じ価値を持つように設計されていますが、ディペッグ(ペッグが外れること)が頻繁に発生しています。
直近3ヶ月では「1WBTC=0.9970〜1.0042BTC」の範囲で推移していて、乖離率に直すと「-0.3%〜0.42%」となります。現時点では「1WBTC=1BTC」近くまで戻ってきていますが、不安定な動きをしてることは否めません。
2022年5月には急速な売りによって、ステーブルコインのUSTが「1UST=1USD」から外れたまま戻らず、ほぼ無価値になる事件がありました。ステーブルコインを持つ際は、こうしたリスクがあることを理解する必要があります。
BitGo社に対する信頼性
BitGoは世界最大規模の暗号資産管理会社であり、ここ数年は目立った不祥事や流出などの重大な事件は発生していません。しかし、過去には2016年8月のビットフィネックスのハッキング事件で、BitGoソフトウェアの脆弱性に原因があったとして指摘を受けています。
またディペッグが起こるたびに、BitGo社の担保率を疑う声があがります。ステーブルコインへの信頼度が落ちる中、いかにビットコインとの乖離を減らして透明性の高い運用を行っていくかが、今後の課題と考えられます。
ステーブルコインの信用不安により供給量は減少傾向
ラップドビットコインの供給量は、2021年12月の時点で約25万3,876WBTCありましたが、現在は約16万2,306WBTCです。1年半ほどで30%以上減少しています。
これは法定通貨ペッグ型のステーブルコインにも同様に見られる傾向です。供給量の低下は、純粋にユーザーの保有量が減っていることを意味します。今後はステーブルコインのリスクであるディペッグを最小限にとどめ、ユーザーの信頼を取り戻すことが必要と考えられます。
ラップドビットコイン(WBTC)の時価総額推移
ここでは、Coinmarketcapのチャートを用いて、ラップドビットコインの流通量や時価総額の推移を解説していきます。
流通量と発行上限数
引用:https://coinmarketcap.com/ja/currencies/wrapped-bitcoin/
仕組み上、ラップドビットコインには発行上限がありません。預け入れされたビットコインと同数発行されます。
Coinmarketcapが提供する情報によると、約16万2,405WBTCが発行済みであることが確認できました。ラップドビットコインは海外取引所やDeFiで購入できます。
リアルタイムチャート
引用:https://coinmarketcap.com/ja/currencies/wrapped-bitcoin/
ラップドビットコインは暗号通貨ペッグ型のステーブルコインであり、基本的にビットコインと同じ値動きをします。
価格は2023年の始めを底にして、右肩上がりで上昇しています。
単体時価総額推移グラフ
引用:https://coinmarketcap.com/ja/currencies/wrapped-bitcoin/
引用:https://coinmarketcap.com/ja/currencies/bitcoin/
時価総額は「発行済み枚数 × 価格」で求められます。
ラップドビットコインの発行済み枚数は減少傾向であるため落ち幅が大きいですが、おおよそビットコインの時価総額と同じ動きをしています。
他の上位銘柄との時価総額比較
ラップドビットコインは、2019年1月にリリースされてから一度も時価総額でTOP10に入ったことがありません。現在の時価総額は約6,272億円で、10位トロンの約9,448億円とはまだ大きな差があります。
ラップドビットコイン(WBTC)を取り扱っている暗号資産取引所
最後にラップドビットコインを取り扱っている取引所や取得、保管方法を紹介していきます。
ラップドビットコイン(WBTC)の取扱いがある国内取引所の例
ラップドビットコインの取扱いをしている国内取引所はありません。
ステーブルコイン全体で見ても、国内取引所で取扱いがあるのはダイのみです。
ラップドビットコイン(WBTC)の取扱いがある海外取引所の例
ラップドビットコインの取扱いがある海外取引所は以下の通りです。
- バイナンス
- コインベース
- クラーケン
- クーコイン
- ビットフィネックス
- ビットトレックス
- バイビット
基本的に、取引高上位に入る海外取引所では取扱いがあります。
ラップドビットコイン(WBTC)の取得・購入および保管方法
ラップドビットコインの取得、購入方法は以下の通りです。
- wbtc.networkでビットコインを預ける
- 取引所で購入する
- ステーキングする
保管方法は以下が挙げられます。
- 取引所で保管する
- メタマスクなどのソフトウェアウォレットで保管する
- レジャーナノなどのハードウェアウォレットで保管する
ラップドビットコインはディペッグのリスクがあるため、長期間の保有はおすすめできません。必要な時だけ両替し、利用する予定のない場合は返却してビットコインに戻すといいでしょう。
ラップドビットコイン(WBTC)の今後の展望とまとめ
ラップドビットコインは、ビットコインの価格とペッグしたERC-20規格のステーブルコインです。今後、DAppsが普及した場合にはさらに需要が増加し、供給枚数が今よりも増える可能性があります。
しかし、ディペッグを頻繁に起こしていることも事実です。2023年3月にバイナンスでは、一時「1WBTC=0.1995BTC」の80%以上の乖離を記録しました。
ラップドビットコインは、世界最大の暗号資産管理会社によって運営が行われており、担保率も公開しているため、体制としては整っているといえます。しかし、短期的に売りが集中した際は、他のステーブルコインと同様に、基準となる価格と大きく離れる可能性があることには注意しましょう。