デジタルマーケティングの新たな領域としてメタバースが注目されています。すでにメタバースでは商品展示やイベント開催はもちろん、3Dで再現された新車の試乗もできるようになっています。
本記事ではメタバースマーケティングの概要や導入プロセス、成功させるポイントや実際の事例を解説します。Web3プロジェクトを進めるビジネスパーソン、マーケティング担当者の方々に向けてお役に立てる情報となれば幸いです。
この記事の構成
メタバースマーケティングとは?
メタバースマーケティング(Metaverse Marketing)はメタバースにおけるマーケティング活動を指します。メタバースはインターネット上に構築された仮想空間です。2023年時点において、多くの国内外企業がメタバースにおけるプロモーションやブランディングを進めています。
デジタルマーケティングのドメイン
従来のデジタルマーケティングの主な領域はWebやSNS、アプリやデジタルサイネージなどでした。特にWebやSNSを用いたマーケティングは「Webマーケティング」や「SNSマーケティング」という分野が確立しており、マーケティング担当者/チームにとって重要な取り組みとなっています。
メタバースはデジタルマーケティングにおける新たなドメインとして注目されています。メタバースマーケティングへの理解を深めることはこれからの企業成長にとっても重要です。
メタバースマーケティングの役割
メタバースは企業にとって新たなチャネルとしての側面もあれば、新規事業としての側面もあります。新しい市場や顧客層へのアプローチとして大きな役割を果たします。
ファッションブランドは実際の衣服だけでなく、アバター用の仮想アイテムを販売することで、新たな収益源が開拓できます。旅行ビジネスでは仮想旅行をメタバースで提案し、実際のツアー契約につなげます。
メタバースマーケティングは企業と顧客のコミュニケーションを再定義していきます。企業はインタラクティブな体験やイベントを通じて、顧客との深いエンゲージメントを築くことができます。
メタバースの拡張技術「XR」
XR(Extended Reality)は仮想現実(VR:Virtual Reality)、拡張現実(AR:Augmented Reality)、および混合現実(MR:Mixed Reality)を総称した用語です。XRを実現させるデバイスはすでにMicrosoftやApple、Metaなどから発売されています。
XRはメタバースのコア技術の一つとして、没入型の仮想空間を実現します。メタバースマーケティングではXRを活用した仮想イベントの開催や、製品の3Dデモンストレーションを行うことができます。よりリアルな仮想体験を提供することで、顧客の関心とロイヤリティは高まります。
メタバースマーケティングの導入利点
- アバターによるエンゲージメント
- リアリティの追求
- トレーサビリティの確保
- グローバルなリーチ
- 知的財産の新しい活用
企業がメタバースマーケティングを導入する上で得られるメリットを具体的に解説します。メタバースマーケティングの利点をイメージアップして頂きます。
アバターによるエンゲージメント
メタバースマーケティングではアバターを用いたインタラクティブな商品体験が提供できます。メタバースで商品を3Dモデルとして展示し、アバターが試着や試用できるようにします。オンラインショッピングでも実店舗に近い体験が可能になります。
リアリティの追求
VRやARの技術を活用して五感に働きかける没入体験を提供することができます。Sonyはすでに「匂い」を再現する装置(NOS-DX1000)を開発しています。視覚情報だけでなく、嗅覚情報もメタバースで再現される可能性があります。リアリティの追求は顧客ロイヤルティを促進するでしょう。
トレーサビリティの確保
ブロックチェーン技術を活用することでメタバースにおけるトレーサビリティが確保できます。決済履歴はもちろん、デジタルアセットの所有などに正当性を持たせることも可能です。ユーザーの行動や反応をリアルタイムで分析することで、即座にフィードバックが得られます。
グローバルなリーチ
メタバースには地理的な制限がありません。国境や地域を超え、世界中の顧客にアクセスすることが可能です。新しい市場への進出や国際的なブランディングが容易になります。一般的に企業の国際進出には言語の壁がありますが、メタバースでは翻訳ツールをリアルタイムで活用できます。
知的財産の新しい活用
メタバースではデジタルアセットがNFT※1としてトレードされます。企業は独自のNFTを作成することで新たな知的財産を築くことができます。企業独自のNFTはブランディングにも役立てることができます。
※1 関連記事:「NFTは自作可能?スマートコントラクトの作成からミントまでを解説」
メタバースマーケティングの導入プロセス
- 目標の設定
- メタバースプラットフォームの選定
- コンテンツ戦略の計画
- 開発と実装
- ローンチ
- 分析と最適化
通常のマーケティング戦略のプロセスとの大きな違いはチャネルの選定です。メタバースマーケティングではメタバースをチャネルとして設定します。また、メタバースは既存のプラットフォームを利用する場合と独自のメタバースを構築する場合があります。
目標の設定
マーケティングのターゲット層を特定します。企業戦略と照らし合わせて、齟齬が生じないようにしましょう。目標設定にはKGI※2やKPI※3などで具体的数値を示します。
※2 KGI (Key Goal Indicator)は組織やプロジェクトの最終的な目標達成度を示す指標です。例:売上100万円到達など
※3 KPI (Key Performance Indicator)はビジネスやプロジェクトの進行状況を定量的に評価するための指標です。例:コンバージョン率など
メタバースプラットフォームの選定
メタバースプラットフォームの選定はメタバースマーケティングにおける重要なプロセスです。既存のプラットフォームを選定する場合と、自社で作成する場合があります。ユーザーの多い既存メタバースプロジェクトを利用するのがコストを抑えてマーケティングを進める上で有効です。メタバースのカスタマイズ性や管理面を追求するのであれば、自社開発を選択します。
コンテンツ戦略の計画
メタバース内でのコンテンツやエクスペリエンスを設計します。具体的にはメタバースでのイベント、製品デモ、インタラクティブな体験などの計画/設計です。魅力的なコンテンツはメタバースマーケティングの成功において中心的な役割を果たします。
開発と実装
選定したメタバースプラットフォーム上でコンテンツやエクスペリエンスの具体的な開発作業を進めます。3Dモデリング、プログラミングなどの専門的なプロセスとなります。また、ローンチ前に重要なのがテストの実施です。バグのチェックやユーザビリティの評価を行い、問題点を特定して修正を完了させます。
ローンチ
メタバースのコンテンツやエクスペリエンスをメタバース上で公開します。メタバース内での新商品配置やイベントの告知を行い、ターゲットオーディエンスの興味や期待を高める取り組みをします。イベントを開催する場合は日時を告知することが特に大切です。ローンチ前からプロモーション活動は進めておきましょう。
分析と最適化
メタバースマーケティングの成果を評価し、改善を目指します。KGIやKPIの到達度、ユーザーの行動、エンゲージメントのパターン、コンテンツへの口コミなどを詳細に調査していきます。分析結果を基に、メタバースマーケティング戦略の調整やコンテンツの最適化を行います。
メタバースマーケティングの事例
メタバースマーケティングの事例を紹介します。各企業はXR技術の活用やアバタースタッフの配置など、様々な工夫をしてメタバースマーケティングを展開しています。
三越伊勢丹
参考画像URL:https://www.rev-worlds.com/
三越伊勢丹は独自のメタバース「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」を構築しています。ユーザーはアバターを使ってショッピングをすることができます。店員アバターも配置されており、リアルタイムでの接客も実現させています。
ショッピング以外にも定期的にイベントを開催し、集客効果の向上を図っています。「REV神社 夏祭り」イベントではアバターによる盆踊りやゲームも楽しめます。コラボ企画なども積極的に取り入れており、人気お笑い芸人コンビ「EXIT」とのタイアップやバーチャル東京ドームなどが有名です。
大丸松坂屋百貨店
参考画像URL:https://winter2021.vketcloud.com/world.html?worldid=daimaruvket2021(開店期間終了)
松坂屋は期間限定で「バーチャル大丸・松坂屋」をメタバースで出店しました。ショッピングはもちろん、大丸松坂屋百貨店の歴史を学ぶイベント、3Dデジタルアセットの展示などが実施されています。
店員アバターがアルバイトとして募集されたことも話題となりました。マーケティングの視点からだけでなく、働く場としてもメタバースの可能性が示されました。
NIKELAND
参考画像URL:https://nike.jp/nikebiz/news/2021/11/22/4956/
世界的なスポーツ用品ブランドであるNikeはRobloxのプラットフォーム上にNIKELANDを構築しました。様々なスポーツやゲームを楽しむことができ、Nikeユーザーの顧客ロイヤルティを高めています。
NikeはWeb3に非常に理解のある企業です。2021年12月にはNFTスタジオのRTFKTを買収し話題となりました。公式アプリではAR技術を用いたスニーカーのバーチャル試着が利用できます。
博報堂
参考画像URL:https://www.hakuhodody-holdings.co.jp/topics/2022/06/3663.html
博報堂はメタバース内で広告枠の販売事業を立ち上げました。プラットフォームはRobloxです。広告主はRoblox内の建物や看板などのスポットに、自社の広告を掲載することができます。
Robloxを利用する若年層やゲーム愛好者といったターゲット層に対して、従来の広告手法では到達困難だった新しいアプローチを可能にします。国内大手広告代理店である博報堂の取り組みは、メタバースマーケティングの可能性を計るテストケースとしても注目されています。
日産
参考画像URL:https://www.nissan.co.jp/HYPELAB/(期間2023/3/08-2023/7/31)
日産は独自メタバース「NISSAN HYPE LAB」で自動車の試乗やカスタマイズといった仮想体験を提供しました。ユーザーはメタバース上の販売店に出向き、様々な車を比較できます。全ての車は3D表示で、色や装備も自由にカスタマイズできます。
メタバースには日産のアバタースタッフが勤務しており、個別に質問をすることも可能です。プライベートな空間なども設けており、ルームに友人を招いてコミュニケーションをとることもできます。
メタバースマーケティングを成功させる重要なポイント
- 3Dモデリングとバーチャルデザイン
- ブロックチェーンとFT/NFTへの理解
- VR/AR技術の統合
- セキュリティとプライバシーの強化
- リアルタイム分析と最適化
メタバースマーケティングではブロックチェーンとXR技術を活用します。専門的な知識と技術への理解が不可欠です。社内リソースに制限がある場合はアウトソーシングも利用してメタバースマーケティングを適切に進めましょう。
3Dモデリングとバーチャルデザイン
3Dモデリングは物体やシーンを三次元でデザインする技術です。3Dモデリングを基に、リアルタイムレンダリング技術を用いることで、メタバースで高品質なビジュアル表現が実現します。バーチャルデザインでは3Dモデルを使ってインタラクティブなエクスペリエンスを設計していきます。3Dモデリングとバーチャルデザインはユーザーがメタバース内でのブランド体験を深める上で重要な要素です。
ブロックチェーンとFT/NFTへの理解
ブロックチェーン技術はメタバースの透明性とセキュリティを向上させます。FT(Fungible Token)は分割可能で同等の価値を持つトークンであり、通貨やポイントのように利用されます。NFTはデジタルアセットや商品の所有権を証明します。FT/NFTを適切に活用することで、ユーザーはメタバース内での取引やアイテム取得を安心して行うことができるようになります。
VR/AR技術の統合
VR/ARデバイスとの連携を通じて、ユーザーはリアルな没入体験をすることになります。没入感はユーザーのエンゲージメントを大幅に高めます。また、メタバースにはマルチデバイス対応を実現させましょう。スマートフォンやPC、VRヘッドセットなど、様々なデバイスからメタバースエントリーを可能にし、ユーザビリティの向上を計ります。
セキュリティとプライバシーの強化
メタバースで使用されるDeFiシステムやNFTの機能はスマートコントラクトを利用したものです。スマートコントラクトに脆弱性がある場合、ユーザーは大きなリスクにさらされます。メタバースでのセキュリティを強化するためにはスマートコントラクトへの理解が不可欠です。
プライバシーの面でも配慮が必要です。個人情報保護法をはじめとする国/地域のデータ保護法に対応することで、ユーザーのプライバシー※4を尊重し、法的リスクを最小限に抑えます。
※4 関連記事:「プライバシーの移行?イーサリアムの個人情報保護対策を解説」
リアルタイム分析と最適化
データ分析ツールを活用することで、ユーザーの行動やトレンドを即座にキャッチし、マーケティング戦略を迅速に調整することができます。データ分析ツールには通常のWeb解析ツールの他に、ブロックチェーン解析ツールを使用する必要があります。
Google Analyticsなどを使用し、コンバージョン率を評価します。ブロックチェーン解析にはDuneなどを使用して暗号資産の流れや保有状況などを評価します。Duneを使用する際はブロックチェーンに関する専門知識の他、SQLへの理解が必要です。
メタバースマーケティングの課題
メタバースマーケティングではブロックチェーンとXR技術が中心的な役割を果たします。ブロックチェーンとXR技術はまだ開発途上にあります。多くの可能性を秘めている一方で、未解決の課題も存在します。そのため、メタバースマーケティング導入の際はブロックチェーンとXR技術の課題を理解し、適切に対応する必要があります。
スケーラビリティ
メタバースマーケティングにおける「スケーラビリティ」は、技術的要件とインフラの整備度に大きく依存します。高品質な3DレンダリングやリアルタイムインタラクションはGPUの高度な並列処理能力や、低遅延のネットワーク通信を必要とします。
ブロックチェーンにもスケーラビリティの課題があります。ブロックチェーンのネットワークが混雑すると、トランザクションの遅延やコストの増加につながります。
スケーラビリティの技術的課題を克服するためには、クラウドベースの分散コンピューティング、ブロックチェーンの最適化やレイヤー2ソリューション※5の活用など、技術的な取り組みが必要です。
※5 関連記事:「L2スケーリングへの移行とは?イーサリアムのネットワーク負荷対策を解説」
インタラクティビティの複雑さ
メタバースではユーザーが3D空間内で自由に動き、オブジェクトを操作し、他のアバターと対話します。3D空間でのユーザーインタラクションは従来の2DのWebやアプリとは異なり複雑になります。
この複雑さはXR技術の進化と深く結びついていきます。XR技術を活用することで、ユーザーはより没入感のある体験を得られますが、インタラクティビティはより複雑化していきます。
メタバースのUI/UXの設計の際はインタラクティビティの複雑さを解決するガイドシステムなども実装させましょう。
ハードウェアの制約
メタバースマーケティングにおいては、ユーザーの没入感を追求するためにXRデバイスが使用されます。しかし、XRデバイスは一般的に高額です。Microsoftの「HoloLens 2」は40万円以上、AppleのARデバイス「Apple Vision Pro」の値段は3,499ドルです。SonyのPlayStation®VR2でも 7万円以上します。
ハードウェアの高額な値段設定はメタバース体験へのアクセス障壁を形成する恐れがあります。ハードウェアに頼らないマルチデバイス対応のメタバースを選択し、より多くの集客を目指しましょう。
知的財産権の管理
デジタル空間での知的財産権は重要な課題です。メタバース内ではコンテンツの複製や配布が容易で、著作権や商標権のリスクが生じる可能性があります。
ユーザーが独自にブランドロゴを模倣したアイテムを作成/販売する行為や、他者のコンテンツを無許可で使用するケースが考えられます。これらの行為はブランドのイメージや価値を損なうだけでなく、法的な紛争の原因にもなり得ます。
メタバース内での知的財産権の明確なガイドラインの策定が不可欠です。商標や著作権の登録を監視/保護するための技術的なツール(NFTなど)やプロセスの導入が求められます。
文化的・社会的な配慮
メタバースは国や地域の境界を超え、多様な文化や価値観を持つユーザーが交流する場となります。マーケティング活動は異文化を尊重し、理解した上で進める必要があります。
特定の文化や宗教に関連するシンボルやイメージの誤用は、感情的な反発を生むリスクがあります。また、ジェンダーや人種、障害を持つ人々に対する配慮も欠かせません。これらの点を踏まえ、メタバース内のコンテンツやエクスペリエンスは多様性と包括性を重視した設計が求められます。
まとめ
メタバースマーケティングは新たなデジタル領域における最新のマーケティング手法です。ブロックチェーンやXRといったコア技術を中心に、新たなビジネスチャンスを創造していきます。
本記事ではメタバースマーケティングの概要や導入プロセス、成功させるポイントや実際の事例を解説しました。メタバースマーケティングへの理解を深めて頂き、皆様のビジネスにお役に立てる情報となれば幸いです。