日本国内では銘柄の健全化への取り組みとして、取引所でトレードできる銘柄の評価基準を金融庁が設けています。また、日本暗号資産取引業協会でも独自の銘柄評価基準を策定しています。協会の基準をクリアした銘柄は取引所での上場が容易になります。
本記事では暗号資産の評価基準として知られる「ホワイトリスト」と「グリーンリスト」の概要や違いを分かりやすく解説します。
この記事の構成
ホワイトリストとは?
ホワイトリストは金融庁が行う審査を通過した暗号資産のみが掲載される銘柄リストです。2017年の資金決済法の改正を受けて、暗号資産を取り扱う業者は金融庁の登録が必須となりました。改正に伴い、ユーザー保護の観点からホワイトリストが策定されました※1。
ホワイトリストには世界的に取引量の多いメジャートークンがリスティングされており、流動性リスクなどは比較的低いとされています。
※1 「ホワイトリスト」という言葉自体は通称です。改正資金決済法で使用されている言葉ではありませんが、暗号資産業界やWeb3ビジネスなどで広く認識されています。
リストの決定プロセス
ホワイトリスト銘柄の申請は取引所が金融庁に対して行います。申請を受けた金融庁は下記条件を考慮して最終的なリスティング判断をします。
- 暗号資産の仕組みや用途、流通状況
- テロ資金やマネーロンダリング等に利用されるリスク
- 暗号資産取り扱いによって生じるリスク
ホワイトリスト銘柄一覧(2023年9月1日時点)
銘柄 | 取扱会員数 | 銘柄 | 取扱会員数 | 銘柄 | 取扱会員数 |
ADA | 12 | ENJ | 8 | NIDT | 2 |
ALGO | 2 | FCR | 1 | OAS | 2 |
APE | 1 | FIL | 2 | OKB | 1 |
ARB | 1 | FLR | 6 | OMG | 4 |
ASTR | 4 | FNCT | 1 | ONT | 3 |
ATOM | 5 | FNSA | 1 | PLT | 5 |
AVAX | 7 | FSCC | 1 | QTUM | 9 |
AXS | 3 | FTT | 1 | ROND | 1 |
BAT | 10 | GALA | 1 | RYO | 1 |
BCC/BCH | 23 | GRT | 1 | SAND | 7 |
BNB | 1 | GXE | 1 | SHIB | 5 |
BOBA | 2 | HBAR | 1 | SOL | 5 |
BSV | 1 | HT | 1 | TRX | 7 |
BTC/XBT | 30 | IOST | 8 | XCP | 1 |
CHZ | 5 | JMY | 3 | XDC | 1 |
CICC | 1 | KLAY | 2 | XEM | 8 |
CMS:ETH | 1 | LINK | 9 | XLM | 13 |
CMS:XEM | 1 | LSK | 4 | XRP | 20 |
COT | 2 | LTC | 20 | XTZ | 10 |
DAI | 7 | MANA | 1 | XYM | 6 |
DEP | 4 | MATIC | 10 | ZAIF | 1 |
DOGE | 7 | MKR | 7 | ZIL | 2 |
DOT | 16 | MONA | 7 | ZPG | 3 |
EFI | 1 | MV | 1 | ZPGAG | 1 |
ETC | 8 | NCXC | 1 | ZPGPT | 1 |
ETH | 29 | NEAR | 1 |
注意点
- 安全性の保証
- 投資は自己責任
- ホワイトリストからの除外リスク
ホワイトリストは金融庁のガイドラインに沿って作成したものですが、銘柄自体の安全性を保証するものではありません。銘柄自体のリスクや投資責任、またホワイトリストからの除外リスクなどを認識しましょう。
安全性の保証
ホワイトリストに載っている銘柄は一定の審査を経て選ばれていますが、安全性を保証するものではありません。市場の変動や外部の要因により、価値が大きく変動する可能性が常にあります。
投資は自己責任
どの暗号資産に投資するかの最終的な判断は、各個人の自己責任になります。ホワイトリストはポートフォリオを計画する際に参考になりますが、それだけを頼りに投資判断を下すのはリスクが伴います。十分なリサーチと自身のリスク許容度を確認することが大切です。
ホワイトリストからの除外リスク
特定の銘柄がホワイトリストに掲載されたとしても、規制の変更やその他の事情で、銘柄がリストから除外されることも考えられます。定期的にホワイトリスト銘柄は更新されています。リストの更新情報は金融庁のWebサイトで確認できます。
グリーンリストとは?
グリーンリストは金融庁登録の取引所が審査なしで上場できる銘柄リストです。上場を効率化するために日本暗号資産取引業協会が策定しました。具体的には下記4条件をクリアした銘柄がリスティングされます。
- 3社以上の会員企業が取扱いをしている暗号資産
- 1社が取扱いを開始してから6ヶ月以上の期間が経過している暗号資産
- その取扱いにあたって、協会が付帯条件を設定していない暗号資産
- の他、協会にて本リストの対象とすることが不適当とする事由が生じていない暗号資産
参照URL:日本暗号資産取引業協会 各種資料
グリーンリストの決定プロセス
特定の銘柄が暗号資産取引業協会の設定した条件をクリアすると自動的にグリーンリストへ追加されます。銘柄決定プロセスは自動的なもので、申請等は必要ありません。協会は定期的にグリーンリストを更新します。
グリーンリスト銘柄一覧(2023年9月1日時点)
銘柄 | 取扱会員数 | 銘柄 | 取扱会員数 |
ATOM | 5 | MATIC | 10 |
AXS | 3 | MKR | 7 |
BAT | 10 | MONA | 7 |
BCC/BCH | 23 | OMG | 4 |
BTC/XBT | 30 | PLT | 5 |
DAI | 7 | QTUM | 9 |
DOT | 16 | SAND | 7 |
ETC | 8 | SHIB | 5 |
ETH | 29 | XEM | 8 |
ENJ | 8 | XLM | 13 |
IOST | 8 | XRP | 20 |
LSK | 4 | XTZ | 10 |
LTC | 20 | XYM | 6 |
参照URL:日本暗号資産取引業協会 各種資料
注意点
ホワイトリスト銘柄同様に銘柄自体の安全性などを日本暗号資産取引業協会が保証するものではありません。また、グリーンリスト銘柄は3社以上の会員(取引所)が取扱いをしている暗号資産で構成されます。取り扱っている会員が少ない銘柄の場合、リストから外れる可能性も大きくなります。
ホワイトリストとグリーンリストの違い
ホワイトリストとグリーンリストの違いを分かりやすく解説します。基本的にホワイトリスト銘柄は国内の暗号資産取引所の銘柄を全て網羅しています※2。一方で、グリーンリストはホワイトリスト銘柄の中から条件をクリアしたものが選出されます。
※2 ホワイトリストに無い銘柄がトレードされている取引所は海外を拠点としている可能性があります。
目的
ホワイトリストの目的はユーザーの保護が第一です。暗号資産詐欺などのリスクを低減させ、日本市場や取引所の健全化を目指します。
グリーンリストは金融庁登録の取引所が銘柄をよりスムーズに上場させることを目的に導入されました。
評価基準策定者
ホワイトリストの評価基準策定者は金融庁です。厳密にいうと、金融庁の作成したガイドラインに沿ってホワイトリスト銘柄は評価されます。
グリーンリストの評価基準は日本暗号資産取引業協会が設定しています。
銘柄数
2023年9月時点において77銘柄がホワイトリストに入っています。一方で、70以上の銘柄を扱っている取引所はありません。一番多い銘柄をそろえる取引所はBinance Japan(34銘柄)です。
2023年9月時点において26銘柄がグリーンリストに入っています。リスティング条件は明確になっており、次にグリーンリストに入りそうな銘柄を予測することができます。逆にグリーンリストから除外される銘柄も推測することができます。
暗号資産の評価基準が導入される背景
- 市場の安定化
- ユーザー保護
- AMLとCFT
ホワイトリストやグリーンリストといった評価基準は日本独自のものです。一方で、世界でも金融を管轄する部署が暗号資産に対する規制を進めています。規制を進める背景にはユーザー保護という面の他に、AMLやCFTといった国際犯罪への対応という一面もあります。
市場の安定化
既存の暗号資産銘柄をフィルター無しで全て上場させた場合、上場廃止も頻繁に起こるようになります。銘柄の上場や廃止が頻繁に行われると、市場が混乱する可能性があります。
暗号資産銘柄の評価基準が導入されることで、上場や廃止の判断が一定のルールに基づいて行われるようになり、市場の安定化につながります。
ユーザー保護
暗号資産の市場には流動性の低い銘柄が多数存在します。これらの銘柄はトレード自体が困難になることがあります。ユーザーの資産を守るため、暗号資産の評価基準は重要です。
ホワイトリストでは流動性の高い世界的なメジャートークンが選出されています。流動性リスクを低減させ、ユーザー保護につなげます。
AMLとCFT
マネーロンダリング対策(AML:Anti-Money Laundering)やテロ資金供与防止対策(CFT:Counter Financing of Terrorism)は国際的な課題です。悪意あるスマートコントラクトやトレードの隠ぺいを防ぐため、取引所で扱われる銘柄には透明性が求められます。
暗号資産の評価基準を導入することで秘匿性の高い銘柄などを市場から排除し、より健全な暗号資産トレードを実現させます。
ユーザーによる暗号資産銘柄の評価方法
ホワイトリストやグリーンリストは権威ある組織による銘柄評価です。一方で、ユーザー独自に銘柄分析を進めることも大切です。ここでは、ユーザーが自分の力で暗号資産銘柄を評価する方法をまとめて解説します。
まとめサイトによる銘柄評価
「銘柄まとめサイト」は暗号資産の銘柄情報、価格、取引ボリューム、取引市場キャップ(CEXごとの)、過去データなどをまとめたサイトです。フィルタリング機能やランキング機能も使えることから、銘柄の調査や比較に役立ちます。
下記は代表的な銘柄まとめサイトです。
CoinMarketCap
世界で最も知名度が高い銘柄まとめサイトです。多くの暗号資産の詳細なデータやランキング、取引所情報などを提供しています。
公式サイト:https://coinmarketcap.com/ja/
CoinGecko
CoinMarketCapと同様に多くの暗号資産の情報を提供するサイトです。ユーザーレビューや開発活動の指標など、独自の情報も掲載しています。
公式サイト:https://www.coingecko.com/ja
FT/NFTローンチ情報による銘柄評価
FTやNFTのローンチ情報をまとめたサイトがあります。これらのサイトでは監査※3やミント事前申し込み情報などを見ることができます。トークンを発行する運営のSNS情報などもまとめられています。フォロワー数やコメント履歴なども銘柄評価に反映させてみましょう。
Pinksale
Pinksaleはトークンの新規発行をサポートするDAppsです。新規発行される銘柄の監査情報やKYC情報、プロジェクト公式サイト情報なども掲載しています。新規発行トークンを評価する上で役に立ちます。
公式サイト:https://www.pinksale.finance/
Binstarter
BinstarterもPinksale同様、新規発行トークンをサポートします。新規トークンの監査情報や運営情報も確認できます。
公式サイト:https://bsr.binstarter.io/
※3 監査がなされてもWeb3プロジェクトが途中で消える場合などがあります。
警告情報を用いた銘柄評価
ラグプルや不当なタックス、ハニーポッド情報をまとめた評価サイトがあります。こちらも主に新規発行トークンの評価に役立ちます。
一方で、これらのサイトが低リスクとして評価したWeb3プロジェクトでも安心はできません。実際にトークンの流動性が追加されても、ファウンダーなどによる保有がロックされていないとトークン価格がダンプ(大幅に下落)する場合もあります。
RugDoc
RugDocはWeb3プロジェクト全般の詐欺情報を追跡するサイトです。新規発行トークンにも目を光らせています。SNSを使ってユーザーがWeb3プロジェクトの評価を申請することもできます。
公式サイト:https://rugdoc.io/
ApeO’Clock
ApeO’ClockもRugDocと同様、Web3プロジェクトの警告情報を掲載しています。プロジェクトの遅延情報なども見ることができます。
公式サイト:https://www.apeoclock.com/
Q&A
ホワイトリスト、グリーンリストを含めた暗号資産に対する評価基準についての疑問をまとめて回答します。ホワイトリスト銘柄を取り扱うCEXについてもお答えします。
NFTホワイトリストの意味は?
BCG(Block Chain Game)やNFTプロジェクト、メタバースプロジェクトで早期エントリーの権利をホワイトリストと呼ぶことがあります。例えば、NFTホワイトリストにエントリーできたら、プレセールでNFTを購入できます。BCGホワイトリストに参加できた際はテストプレイをする権利が与えられます。
これらのホワイトリストは日本の金融庁の指定するホワイトリスト銘柄とは一切関係がありません。ワードを使用する文脈で違いを判断しましょう。
CEXでリスティングできるのはホワイトリスト銘柄だけ?
国や地域の法体制によって異なります。例えば、日本においては金融庁に登録を済ませた取引所が金融庁の審査したホワイトリスト銘柄のみをリスティングできます。
一方で、海外の取引所の中には数千種類の銘柄を取り扱うCEXがあります。それらのCEXは当該国/地域の金融当局などの規制を受けていない可能性があります。その場合はCEXの判断で自由に銘柄をリスティングできます。
CEX自体の信頼性はどこで評価する?
日本においては金融庁に登録を済ませているというポイントが信頼性につながります。注意しなければならないのが、日本語表示の海外CEXサイトです。日本語でアカウント開設から取引が可能ですが、金融庁の監督下にありません。海外CEXの信頼性は自身の責任で評価する必要があります。
CEXの取扱い銘柄は多いほど良い?
CEXで取り扱う銘柄が多いほどユーザーにとっては投資チャンスが増えることになります。その意味では、取扱銘柄が多いほどユーザーにとってメリットがあるということになります。
一方で、ホワイトリスト銘柄だからといって価格の変動リスクが低いわけではありません。急激な価格変化によって大きな損失を生じる可能性もあるということを認識しておきましょう。
NFTの評価基準はない?
金融庁によるNFT上場の評価基準はありません。実際に国内のNFTマーケットでは自由に商品をリスティングすることができます。
本記事「ユーザーによる暗号資産銘柄の評価方法」で紹介したRugDocやApeO’Clockでは独自にNFTへのリスク評価をまとめています。
ブラックリストはある?
ブラックリストは各国で意味が少し異なります。米国では犯罪に関わるプライベートウォレットをブラックリスト認定し、トラッキングをしています。フランスでは違法なデリバティブ取引業者をリストアップする際に使用されます。テロ資金対策を進める国際組織「金融活動作業部会」(FATF:Financial Action Task Force)は国や地域をマネーロンダリングの主体としてブラックリスト化しています。
日本においては暗号資産を取り締まる際に使用されるブラックリストは公開されていません。
まとめ
ホワイトリストとグリーンリストは日本国内で取り扱われる暗号資産銘柄を健全化し、ユーザーの安全確保をサポートします。金融庁と日本暗号資産取引業協会の取り組みを理解し、Web3時代のポートフォリオを最適化していきましょう。
以上、ホワイトリストとグリーンリストの概要や違い、評価基準が必要とされる背景を解説させて頂きました。本記事がWeb3時代に資産形成を進める上でお役に立てれば幸いです。