2023年8月10日、米国の暗号資産大手取引所であるCoinbaseが自社で開発したL2ネットワークである「Base」を全ユーザー向けに公開したことを発表しました。
この後、大手暗号資産取引所であるバイナンスもL2ネットワークの開発を発表し、L2ネットワークに改めて注目が集まっています。
新たに注目されてきたL2ネットワークはWeb3にとってどのような利点をもたらすのか、Baseの特徴とL2ネットワークの仕組みを紹介していきながら解説していきます。
この記事の構成
「Base」メインネット公開
Coinbase社がBaseの開発を発表したのが2023年2月23日で、この時点では既に開発者向けのテストネットはローンチ済みで、テストを重ね同年8月10日、全ユーザーへ向けての発表となりました。
引用元:https://twitter.com/coinbase/status/1689320915937705985?s=20
目的
CoinbaseがBaseを開発した目的は、
「新たな100万人の開発者と10億人のユーザーを暗号資産の経済圏にどのようにして呼び込むこと」
としています。
そしてそれを実現するためには、
「安全で低コストで触れることができる環境を整えることが重要である」
という理念のもと開発に至っています。
具体的には、ブロックチェーン上に構築されるdApps(分散型アプリケーション)の開発者にとってより開発しやすい環境を用意するだけではなく、使用するユーザーにもより安く、より安全に利用してもらえる環境を整えるということです。
そして「Web3」の世界へ、より多くのユーザーが安心して参加できる環境を構築していくことを目指しています。
分散化への道のり
Baseは今後2年間で完全な分散化を目指すロードマップを公開しています。
先述したように、Baseの開発目的は「新たに100万人の開発者と10億人のユーザーを暗号資産の経済圏に呼び込むこと」です。
Baseのブログではこの目的を達成させるために必要なことが「分散化」であるとしています。
ブロックチェーンにおける分散化とは、端的に説明すると管理者が存在しない非中央集権的に構築されたネットワークにデータを分散させることを言います。
このことからブロックチェーンは日本語で「分散型台帳」と表現され、ブロックチェーン技術の大きな特徴の一つであります。
分散化におけるユーザーの取引データは、ネットワークの参加者に共有(分散)し、不正などが起きないよう管理されます。
これは特定の管理者が存在している場合に発生する、データの検閲や不正の他、盗難、漏洩などの被害が限りなく低くなることを可能にしました。
この分散化の概念をビジネスに活用し、社長などの管理者や上司が不在のコミュニティで形成された社会構造がWeb3の特徴の一つでもあります。
Baseが目指す暗号資産の経済圏は、分散化の社会でこそ達成されるとしており、世界中で誰にも制限を受けずに、自由に経済活動ができるオープンな市場を構築することを目指しています。
L2ネットワークとは
ここからL2ネットワークの基本的なことについて説明していきます。
L2ネットワークとは何か
L2はレイヤー(Layer)2の略語で、ブロックチェーン技術で構成されたネットワークであるL1(レイヤー1)の外側に位置するネットワークのことを指し、ブロックチェーン技術を使用しないことからオフチェーンとも呼ばれます。
Baseはイーサリアムブロックチェーンの外側に位置するL2ネットワークですので、ここからL1は全てイーサリアムブロックチェーンとして紹介していきます。
なぜL2という概念が生まれたのか
レイヤー1であるイーサリアムブロックチェーンにはいくつか問題点が指摘されていました。
それはガス代の高騰とスケーラビリティ問題です。
スケーラビリティ問題
もともとイーサリアムネットワークでは1秒間にトランザクション(取引)を処理できる数に限りがあります。
現在では一日あたり100万件以上のトランザクションが発生しているのに対し、イーサリアムブロックチェーンは約15トランザクション/秒という少ない量しか処理することができません。
これがスケーラビリティ問題です。
ガス代の高騰
そこでもう一つの問題点であるガス代の高騰が関わってきます。
イーサリアムブロックチェーンでは取引手数料をオークション原理で決定している為、処理する取引数が増えるほど手数料であるガス代が高騰してしまいます。
この2つの問題を解決するために開発されたのがL2ネットワークです。
L2はL1であるイーサリアムネットワークの外側で動くことにより、L1で問題となったガス代を低くおさえ、トランザクションの処理を早めることを実現しています。
L2ネットワークの仕組み
L2ネットワークとは、先述したようにL1であるイーサリアムブロックチェーンの外側で働く、ブロックチェーンではないネットワークで動いていることからオフチェーンと呼ばれます。
オフチェーンであるL2でトランザクションをまとめて処理し、L1ネットワークに定期的に送信(バッチ処理)します。
この時のL1とL2の役割は、
- L1:セキュリティとデータの可用性、及び分散化を処理
- L2:スケーリング(トランザクション)の処理
となります。
サイドチェーンについて
ここでサイドチェーンについて少しだけ紹介します。
サイドチェーンとは、イーサリアムのスケーラビリティやガス代の問題を解決するという目的はL2と同じですが、その仕組みが全く異なります。
サイドチェーンは独自のコンセンサス・アルゴリズムを採用したブロックチェーンネットワークで動いています。
イーサリアムブロックチェーンと同様にトランザクションの検証、処理を行い、ブロックを生成し、オフチェーンのようにデータをイーサリアムネットワークに送信することはしません。
このことから、サイドチェーンはL2ネットワークに分類されないことが一般的ですが、L2ネットワークとして紹介されている場合もあります。
オフチェーンとサイドチェーンをまとめると
- オフチェーン
- ブロックチェーンを使用していないネットワーク
- 処理したデータをL1ネットワークへ定期的に送信処理している
- サイドチェーン
- ブロックチェーンを使用しているネットワーク
- データはイーサリアムネットワークへ送信されない
となります。
ロールアップ技術について
L2ネットワークには複数のソリューションが存在しますが、優先ソリューションであるロールアップ技術について詳しく解説していきます。
ロールアップはL2にて数百ものトランザクションを1つに束ねて(ロールアップ)実行し、処理したトランザクションデータをL1に送信(書き込み)する技術です。
L2で処理されたデータは、最終的にL1に送信することによりイーサリアムの強固なセキュリティが採用され安全性が確保されています。
この技術により、処理できるトランザクションの量を圧倒的に増やし、ガス代を最大で100倍削減できることが証明されています。
このロールアップ技術には下記の二つの技術があります。
- オプティミスティック・ロールアップ
- ゼロ知識ロールアップ
ゼロ知識ロールアップについては、ゼロ知識証明について解説した記事があるのでそちらをご参照いただいて、ここではオプティミスティック・ロールアップについて解説していきます。
オプティミスティック・ロールアップ
オプティミックス・ロールアップは、今回のテーマである「Base」が採用している技術でもあります。
オプティスミステック・ロールアップはイーサリアムのオフチェーンとして別のプロトコルで存在してはいるものの、そのセキュリティの属性はイーサリアムに依存しているため、とても堅牢なセキュリティが確保されています。
オプティミスティック・ロールアップの仕組み
ではその仕組みについて説明していきます。
その最大の特徴は
「L2で処理したトランザクションは正しい」
ということを前提にL1へ送信されるということです。
このことによりオプティミスティック(楽観的)という表現が使用されています。
詳しく説明していきます。
オプティミスティック・ロールアップではオフチェーンで複数のトランザクションを実行する「オペレーター」が存在します。
オペレータにより複数のトランザクションはロールアップしてまとめられ、定期的にL1へバッチ処理(送信)されます。
このロールアップの中には、トランザクションデータと正当性証明(Fraud Proof)のハッシュ値が含まれています。
正当性証明とは、L2で処理されたトランザクションはイーサリアムブロックチェーンのルールに基づいており、送信したトランザクションが正当であることを証明する書類のようなものです。
オペレーターは正当性証明を送信する担保として、bondと呼ばれる保証金を支払わなければいけません。
このbondという保証金がオプティミスティック・ロールアップの最大の特徴となっており、送信したトランザクションに不正が見つかった場合、該当オペレーターの保証金は没収され、不正を発見した検証者には報酬が与えられます。
このように、ブロックチェーンにおけるコンセンサス・アルゴリズムのような暗号経済的なインセンティブを活用したルールを採用し、オペレーターが常に正しいトランザクションを処理する仕組みを施しているのです。
オプティミスティック・ロールアップのメリットとデメリット
- メリット
- L1の負荷を軽減し、1秒間に数百以上のトランザクション処理を実現するなど、画期的なハイスループットの向上を実現
- スケーラビリティ問題が解決されると同時にガス代も大幅に軽減
- イーサリアム仮想マシン(EVM)と互換性のあるスマートコントラクトを実行できるため、既存のイーサリアムのdAppsをそのまま利用することができる
- イーサリアムと同様のセキュリティ
- 不正を証明する仕組みが整っている
- L2が万が一故障しても、ロールアップの状態はL1に保存されているためデータの可用性が保証されている
- デメリット
- 万が一オペレーターの不正が疑われた場合、その不正を証明するために数日から数週間にわたるチャレンジ期間が設けられ、その期間は資金移動ができないなどの影響が出る可能性がある
Baseの特徴
ここまで紹介してきたように、オプティミスティック・ロールアップを採用したBaseはイーサリアムとの互換性を生かし、スケーラビリティ問題を解決した非常に有効なネットワークです。
なお、現段階でBaseでのオリジナルトークンの発行はないため、トークンによるインセンティブなどはありませんが、誰でも同じ条件で利用できるという利点も持ち合わせています。
Baseエコシステム
コインベースという大手暗号資産取引所が開発したBaseエコシステムの魅力に惹かれ既に100を超えるdappsがローンチしています。
どのようなdAppsがあるのか、Baseのサイトからいくつか引用して紹介します。
なお、それぞれのdAppsの説明は省略させていただき、画像のみの紹介とさせていただきます。
DeFi
引用元:https://base.org/ecosystem
Game
引用元:https://base.org/ecosystem
NFT
引用元:https://base.org/ecosystem
その他のL2ネットワークについて
コインベース以外で発表されたL2プロジェクトについて紹介します。
バイナンス(BINANCE)「opBNB」
2023年8月16日、コインベースに肩を並べる大手暗号資産取引所であるバイナンスが、L2ネットワークである「opBNB」をインフラプロバイダー向けにローンチしたことを発表しました。
引用元:https://x.com/BNBCHAIN/status/1691721686825980199?s=20
opBNBもBaseと同様、オプティミスティック・ロールアップを採用したネットワークで、イーサリアムブロックチェーンのスケーラビリティ問題を解決するネットワークとなります。
まずは開発者向けへのローンチとなり、今後opBNBを使用したdAppsが開発されていきますので、一般ユーザー向けにローンチされる頃には多数のdAppsが登場していると予想されます。
シバイヌ「シバリウム」
シバリウムは独立したブロックチェーンネットワーク、つまりサイドチェーンに属するので厳密にはL2ネットワークではありませんが、注目度が高いので紹介いたします。
2023年8月16日、ミームコインを代表する暗号資産の一つであるシバイヌ(SHIB)が、メインネットのローンチを発表、同年8月17日から稼働を開始しました。
シバリウムはポリゴンのフォークで、シバイヌコインのエコシステムを拡張するための新しいブロックチェーンプラットフォームです。
その仕組みはBaseやopBNBと違い、ロールアップを採用したものではなく、プルーフ・オブ・パーティシペーション(PoP)と呼ばれる新たなコンセンサスメカニズムを使用しています。
シバリウムの早期β版は3月11日にリリースされ、その後メインネットのローンチまでの数ヶ月間、約2200万件の取引が行われテストは成功と言える実績を残しました。
しかしメインネットローンチ後、ソフトウェアのバグが発生し数百万ドルが行き場を失うというトラブルが発生します。
その数週間後にトラブルが改善されると、8月23日を境に急激にトランザクションが増え2023年8月25日には13万2000件の新規トランザクションが実行されました。
引用元:https://www.shibariumscan.io/stats
なお、総トランザクションを見ると2023年9月17日時点で270万件のトランザクションに到達しており、顕著な伸びを示したあと、現在は横這いもしくは緩やかな上昇を見せています。
引用元:https://www.shibariumscan.io/stats
バイビット(Bybit)「Mantle」
シンガポール発の暗号資産取引所であるバイビットが開発したL2ネットワークが「Mantle」です。
2023年6月30日に「Mantle」の独自トークンである「MNT」の無料配布を発表しました。
Mantleもオプティミスティック・ロールアップを採用したL2ネットワークで、イーサリアムのスケーラビリティ問題を解決するネットワークです。
Mantleの他のL2ネットワークとの違いは、オリジナルトークンであるMNTトークンを中心にした、広範なネットワークであるDAOによって運営されていることです。
重要な懸案事項はMNTトークンの所有者による投票プロセスにより決定され、Web3を前面的にアピールしているネットワークとなっているのが大きな特徴となっています。
アスターネットワーク「Astar zkEVM」
2023年9月13日、シンガポールのWeb3カンファレンス「Token2049」において、ステイクテクノロジーズCEOの渡辺創太氏により、アスターによるL2ネットワークの発表がありました。
「Astar zkEVM」はポリゴンラボとの協業で開発されたことにより、正式名称としては「Astar zkEVM Powerd by Polygon」とも呼ばれ、さらに「Supernova」というプロジェクト名であることも発表されました。
このネットワークはzkとあるようにゼロ知識証明を活用したPolygon CDK(ポリゴン・チェーン開発キット)を使用して開発され、日本を中心としたWeb3事業の展開を強力に推進していくことを目的にしています。
発表直後、X(旧Twitter)上では賛否両論の意見が飛び交い、Asterトークンの価格も一時的に下落するなど混乱も見られました。
しかしQuickswapでAster zkEVMへのデプロイについて議論が開始されたとの話も紹介され、順調な滑り出しをしている印象がありますが、今後の動向について注目を集めています。
引用元:https://x.com/QuickswapDEX/status/1701910890130342227?s=20
まとめ
今回はBaseの紹介とあわせてL2ネットワークについて解説してきました。
Baseを始めとしたL2ネットワークが、Web3で多くのユーザーを獲得することに成功するのか、期待を持って注目していきたいと思います。