ここ数年、急激に「推し活」という消費行動に注目が集まっています。
「推し活」とはアイドルや俳優、スポーツ選手といった実在の人物はもちろん、アニメや漫画のキャラクターを応援するファン活動を意味する言葉。
このような事例はこれまでも存在しており、一昔前では「追っかけ」や「オタク」といった言葉で表現されていました。
インターネット環境が現在ほど整備されていない時代においても、一部の熱狂的なファンは自身の「好き」を追求していたのです。
しかし、その消費行動自体は局地的なものであり、一部の熱狂的なファンのみを対象としたセールス展開が通常でした。
しかし、スマホ端末の普及に伴い従来のオタク文化が一般にも広がったことで、ターゲット層となる消費者が拡大。
幅広い年代にまで自分の「好き」を追求する文化が広がり、その対象はあらゆる分野にまで拡大していったのです。
その中で、アイドル文化に由来する「推しメン」という言葉が派生し、現在のファン行動を意味する「推し活」に変化していきました。
特に、コロナ禍による巣ごもり需要によって、新たな「推し」を見つけた若年層は多く、この流れは今後も続くことが想定されます。
そして、「推し」とファンを繋ぐアイテム、ファン同士のコミュニティを結束させる技術としてNFT技術の活用が注目されています。
本記事では「推し活」とNFTの相性に加え、実際の事例からコンテンツビジネスを拡大させる方法について解説。
今後大きく拡大する可能性を秘めているNFTは、「推し活」によってその流れを急激に加速させるかもしれません。
この記事の構成
NFTが推し活を活性化させる
NFT(Non-Fungible Token)とは、非代替性トークンと呼ばれる「唯一無二の価値」を持つデジタルデータです。
2023年9月現在、デジタル上のデータであるNFTアートが、現実世界の美術品同様にいくつも取引されています。
本来無限にコピー可能であるデジタルデータに対して、価値が発生する理由はNFT技術によって「一点物」という価値を付加しているためです。
そして、このNFT技術を活用することで、ファン心理をくすぐる限定品を簡単に提供できます。
特定の推しを応援するファンにとって、自身が手にするグッズが「限定品」であれば嬉しいという心理は誰もが理解できるでしょう。
しかし、そういった使用品や限定品といったグッズは頻繁に売りに出せるものではないでしょう。
特に、数量が限られるグッズは生産コストも掛かってしまいます。
NFTを利用したグッズであれば、元々がデジタルデータということもあり生産コストは僅かです。
また、実際のグッズとその所有権を持たせるNFTを連動させることも可能ですので、様々な施策が実現できます。
時代と共に変化するファングッズ
自身の推しをアピールし、それを自己表現に繋げることを目的として様々なファングッズが販売されています。
こういったグッズ販売は推し活以前から存在しており、その形は時代と共に変化しています。
中でも、いつでも自分の推しを感じられるアイテムとして画像情報は人気です。
推し活の起源をたどると80年代のサブカルを遥かに遡り、歌舞伎といった伝統芸能にまでたどり着きます。
当時も浮世絵という形で推しの「絵」が頒布されており、ファンはその情報から多大な影響を受けたといいます。
現在でもスマホの待ち受けを推しの写真に設定するなど、時代が変わっても根本的な心理は変わらないといえるでしょう。
そして、時代を超えて現在にまで受け継がれているグッズの代表としては、「ポスター」や「写真」、「Tシャツ」といったものが挙げられます。
当然ですが、推しが発表した作品などもグッズの1つに数えられるでしょう。
近年では「缶バッチ」や「ぬいぐるみ」なども目立ち、若年層を中心にカバンを装飾するアイテムとして活用されています。
また、メンバーのイメージカラーを模した服やグッズを身につけることで、密かに推していることをアピールする例も。
常に変化し続けるファングッズ市場なので、NFTといった新しい技術がすぐに受け入れられる可能性は十分にあるでしょう。
NFTの活用によりクリエイターへの恩恵も
アイドルがライブで使用した小物、スポーツ選手が試合で着用したユニフォーム、既に販売されていない貴重なグッズなど、希少性が高ければ高いほどファンはそれらの購入に高い金銭を支払います。
このような「限定品」や「一点物」に対する人気が高まると、二次流通市場も大きく盛り上がります。
既に亡くなっているアーティストの遺品などがオークションにて高額販売されることなどがいい例かもしれません。
しかし、二次流通の現場では作品を生み出したクリエイター、またはそのグッズに価値を生み出したアーティスト本人にまったく還元されないという問題も抱えています。
売り手はファンに販売した時のみ利益を手にしますが、それ以降の価格高騰分の利益とは完全に切り離されてしまいます。
さらに、現在では悪質な「転売」も存在しています。
推しのグッズはなんとしても手に入れたいという心理を悪用し、人気が出るであろうグッズを事前に買い占め、高い価格でファンに売りつける行為のことです。
この場合においても、本来金銭が還元されるべきクリエイターは蚊帳の外。
自身が作ったグッズであるにも関わらず、他人の懐に莫大な利益が流れ込んでしまう状況を眺めているしかありませんでした。
しかし、NFTであればこういった二次流通、転売に関する問題を一気に解決できます。
NFT技術において利用されているスマートコントラクトに対し、「二次流通時の利益の内〇〇%はクリエイターに分配する」と書き込めば、取引の度に一定金額が還元されます。
購入するファンとしても、自身が支払った金銭の一部が確実に推しに渡っていると実感できるでしょう。
二次流通での価格設定については販売者の意思に委ねられますが、取引分に対する一定の割合が確実に回収できる点はクリエイターにとって大きな魅力です。
NFTを中心としたファンアート
推し活の一環として、日本の創作活動の中には「二次創作」というジャンルが存在します。
これは、著作権があるキャラクターを第三者のクリエイターが流用し、新しい作品を生み出すという手法です。
ファンが作品を新しく作り出す「ファンアート」とも呼べる文化ですが、この利用方法には法律的にグレーな部分が多く含まれています。
しかし、提訴するための費用の問題や、そもそも一次創作者が暗黙の了解で認めているケースなどがあり、今もなお活発に行われています。
中には二次創作から新しい才能を発掘するという稀なケースもありますが、中々作者の目に留まることは難しいもの。
しかし、NFTをファンアート文化と結びつけることで、より幅広いクリエイター活動に繋がることが考えられるのです。
既に公式公認二次創作NFTといったサービスがリリースされており、小規模ですが徐々に浸透しつつあります。
このサービスでは自身の二次創作作品を申請し、許可が下りることで公式公認の「お墨付き」をもらえます。
そうすることで、公式認定の二次創作として幅広い活動、推しをより応援できる環境をクリエイターに提示することができます。
まだまだ発展途上の分野ではありますが、一次創作者にとっても売上の一部を回収できるといったメリットもあるため、今後広がる可能性は十分にあるでしょう。
推し活×NFTの活用事例
すでにNFTを活用した推し活応援の事例は存在しています。
その業界はアニメやアイドル、さらにはスポーツ業界と徐々に広がりを見せています。
こちらではその中の一部として、以下の事例をそれぞれ紹介します。
Perfume
ももいろクローバーZ
来場者証明NFT
IDOL3.0 PROJECT
Perfume
3人組アイドルユニットとして国内外から人気が高いPerfumeは、2021年よりNFTアートを随時販売しています。
オークションサイトに出品された第一弾の落札価格は日本円にて300万円(2021年時点)になり、推し活グッズとして考えると非常に高額な商品となりました。
NFTグッズの内容としては、2020年に披露した「Imaginary Museum “Time Warp”」の振り付けの中から、メンバーの特徴的なポーズを3Dデータ化したもの。
ダンスというコンテンツ自体をグッズ販売するという、デジタルデータであるNFTだからこそ実現できた事例だといえるでしょう。
PerfumeはTシャツやトートバッグといった一般的な推し活グッズも販売していますが、最も印象的なダンスを購入するという体験は今後一般化していくかもしれません。
ももいろクローバーZ
メンバーカラーを設定するなど、ファンが推しやすい環境を提示しているももいろクローバーZもNFTを使用したグッズを販売しています。
「10周年記念東京ドームLIVE」の様子をNFT化し、トレーディングカードとして提供したのです。
1パック10枚入りで価格は10,800円(2021年時点)と、カードとしては高額ですがファンからは好評を博しました。
カードを集めるほど増えるインセンティブの設定など、ファン心理をくすぐる施策がちりばめられています。
購入者は単にカードを所有するだけではなく、SNS限定ではありますが個人アイコンとしての利用も可能です。
来場者証明NFT
playground社が提供する「来場者証明NFT」は、顔認証とNFT技術を活用したサービスです。
このサービスでは、イベントへの来場者自身が登録したチケットを持参し、入場時に本人確認を取ることで「来場者証明NFT」が取得できます。
証明書はデジタルアルバムに保管されるため、ツアーライブの全制覇を証明するといった利用方法が可能です。
また、顔認証技術が利用されていることから、チケットの不正販売といった対策にもなります。
現在は国内のバレーボールチーム、野球チームと協業しており今後もその利用箇所は増加していくことが考えられます。
イベントへの参加という推し活を正確に把握することは困難でしたが、本サービスの活用によって貢献度の高いファンが明確になるでしょう。
IDOL3.0 PROJECT
「IDOL3.0 PROJECT」は、Web3.0やNFT技術を駆使した活動を前提としたアイドルグループです。
AKB48グループなどをプロデュースする秋元康氏が手掛けており、2023年9月現在では1万人の応募者から29人の最終候補が決定しています。
リアルとバーチャルを行き来する新アイドルということで、今後の推し活にこれまでになかった影響を与えることが考えられるでしょう。
既に独自トークンであるNIDT(Nippon Idol Token)の発行準備も進められているなど、アイドル業界に本格的なWeb3.0時代の到来を予感させるグループです。
従来どおりの握手会、ライブといった活動に加えて、メタバース上での活動も積極的に行うということで今後どのような活動が展開されるのか注目が集まります。
現時点では詳しい活動内容は明らかになっていませんが、NFTを絡めた推し活を訴求する可能性は高いといえます。
まとめ
一昔前まではごく一部のマニアが局地的に行っていた消費活動ですが、現在は「推し活」という名称で幅広い層にまで広がりました。
その対象は実在する人物にとどまらず、世の中に存在するありとあらゆる物を対象にしています。
2023年7月に実施された調査によると、若年層が推し活に消費する費用は月額平均で約16,000円ということが判明しました。
中高生などの若年層においても、6人に1人が月間10,000円以上を使うなど、その消費行動はすでに無視できない規模となっています。
本記事でも紹介したように、自身の活動をデジタル上に記録できるNFTと推し活の相性は非常に良いといえます。
唯一無二であるデジタルデータの所有は、推しへの貢献度を確認するだけではなく、他ファンとの差別化といった優越感にも繋がります。
「IDOL3.0 PROJECT」のようなWeb3.0を前提としたグループが登場するように、NFTが推し活市場を席巻する日は近いといえます。
このタイミングを大きなビジネスチャンスに繋げられるよう、今後の動向を注視すべきでしょう。