Astar Network(ASTR)は、Polkadotの主要なスマートコントラクトハブとして、web3の基幹インフラになることを目指しているパブリックブロックチェーンです。
日本人起業家の渡辺創太氏がCEOを務めるStake Technologies社が開発を手掛けていることから、日本国内でも特に注目されているプロジェクトでもあります。
この記事では、Astar Networkの技術的な特徴や今後の展望について説明した上で、2023年10月時点における最新動向も取り上げて解説します。
この記事の構成
Astar NetworkとASTRの違いについて
引用元:ASTAR
詳細な解説の前に、Astar NetworkとASTRの表記が持つ意味の違いについて確認しておきます。
個々の暗号資産(仮想通貨)の呼称において、「ブロックチェーン技術」そのものを指す言葉と、当該ブロックチェーンを技術的な基盤とした「通貨」を指す言葉が混在していることが多く見られます。
Astar NetworkとASTRについても、まずはその違いを理解しておきましょう。
Astar Networkについて
Astar Networkは、Polkadot上で開発されるマルチチェーンのdAppsハブとなることを目指しているブロックチェーンです。dAppsとは、スマートコントラクトを用いて作られる分散型アプリケーションを指します。
現在、私たちが利用しているブロックチェーンでは「Bitcoinのチェーン」や「Ethereumのチェーン」がそれぞれ別個のものとして存在しています。これらのネットワークやエコシステムは相互につながっておらず、ゆえに不便さが生じてしまっています。
そこで、この問題を解決するためにまず開発されたのがPolkadotです。
Polkadotは、ブロックチェーン同士をつなぐ「ハブ」の役割を果たすことで、異なるブロックチェーン間の相互運用を実現しています。
しかし、Polkadotにも難点があります。それは、スマートコントラクトを実装していないという点です。スマートコントラクトを実装していないブロックチェーンでは、dAppsの開発ができません。
このPolkadotの課題を補い、より機能的なブロックチェーンの相互接続を実現するのがAstar Networkです。
Astar NetworkはPolkadotに接続することで、Polkadotに対してスマートコントラクトの機能を提供します。これによりPolkadot上でもdAppsの開発ができるようになり、より多様なサービスを生み出すことが可能になります。
ASTRについて
ASTRは、通貨単位や取引における通貨記号として使用される表記です。
ASTR建ての金額を表示する際や、取引所での取引ペアの表示に使われます。
例えば「1ASTR」や「ASTR/USD」のように用いられます。
まとめると「Astar Network」はブロックチェーンそのものや暗号資産を総体的に指す名称であるのに対して「ASTR」は通貨単位や取引記号として使用されます。
この両者は厳密には文脈に応じて使い分けることが望ましく、したがって本記事でもこの2つの用語は区別して用いることとします。
創設者と運営チーム
引用元:CoinDeskJAPAN
Astar Networkは、日本人起業家の渡辺創太氏によって2019年に創設されました。渡辺氏は、2022年にForbes 30 Under 30 Asiaにも選出されたブロックチェーン業界のパイオニアです。
慶應義塾大学で経済学を専攻した後、サンフランシスコのIT企業であるChronicledでマーケティングスペシャリストとして勤務。暗号資産スタートアップを支援する投資会社Next Web Capitalなど、複数の会社を設立しました。
当初は「Plasm Network」の名で設立されたAstar Networkは、2021年にリブランディングを実施。その年の12月にはPolkadotのパラチェーンオークションを勝ち抜き、世界で3番目にPolkadotへ接続する権利を獲得しました。
そのAstar Networkを開発・運営しているのは、シンガポールに本社を置くStake Technologies社です。
Astar Networkの創設者である渡辺氏は、Stake Technologies社のCEOでもあります。
Stake Technolosies社は、Polkadotを開発するWeb3財団から助成金を受けたり、暗号資産取引所Binanceや米Microsoft社などからも支援を受けて、Polkadotのエコシステム構築に貢献してきました。
Astar Networkの技術的特徴
引用元:ASTAR
ここからは、Astar Networkの技術的な特徴について解説します。
また、ネイティブトークンのASTRについても、その役割も含めて説明します。
開発者が報酬を受け取れる仕組み(Build to Earn)
Astar Networkの特徴の1つめは、Build to Earnと呼ばれる仕組みです。
昨今のweb3の世界では、ゲームをプレイすることで暗号資産がもらえるPlay to Earnという仕組みがあります。Build to Earnの呼び名はそれになぞらえたものです。
Build to Earnの仕組みにより、Astar Networkの開発者は開発すること(Build)を通じて金銭的な報酬を受け取れるようになっています。
これは「dApps Staking」というAstar Network固有の仕組みによって実現しています。
dApps Stakingの特徴は、以下のように整理できます。
- 開発者に対するベーシックインカムに相当する
- ブロック生成報酬の50%がdApps開発者に分配される(残り50%はバリデーターに分配)
- 報酬はASTRトークンで支払われる
一般的なブロックチェーンでは、ブロック生成報酬は基本的にマイナーやバリデーターに分配されるようになっており、チェーンの開発者に分配される仕組みはありません。
一方、Astar Networkでは上記の通り、ブロック生成報酬の一定割合がdApps開発者に対してASTRで支払われるようになっています。
つまり、開発者はAstar Network上でdAppsやインフラの開発をするほど、より多くの報酬を受け取れる仕組みになっています。
これは、他のブロックチェーンには見られないAstar Network独自のインセンティブ設計だと言えます。
マルチバーチャルマシン(EVM・WASM)
Astar Networkの特徴の2つめは、EVMおよびWASMという2つの開発環境をサポートしている点です。
EVMは「Ethereum Virtual Machine」の略称です。EVMをサポートすることで、Ethereumで開発されたスマートコントラクトはほぼそのままAstar Network上でも実行することができます。
これにより、Ethereumの開発者はAstar Network上でもEthereumと同じように開発をすることが可能になっています。
一方、WASMは「WebAssembly」の略称で、GoogleやMicrosoftなどによって開発されている、広く「Web全般」を開発できる環境です。
WASMはEVMに比べて開発スピードやコストの面で優れている他、Go、C++、Pythonといった複数の開発言語をサポートしています。
Astar Networkはweb3の基幹インフラとして、Ethereumに限らず様々なブロックチェーン同士をつなぎ、数億人単位のユーザーにブロックチェーンの恩恵を届けることを目標にしています。
そのためには、EVMよりも広範な開発を可能にするWASMをサポートしていることが非常に重要になってきます。
ASTRの具体的な用途
Astar NetworkのネイティブトークンであるASTRには、具体的に以下のような用途があります。
- ガス代の支払い
- dApps Stakingによる報酬獲得
- ガバナンストークンとしての利用
- Nominated PoSによる報酬獲得
- Layer2アプリケーション利用のためのデポジット
この中で特徴的なのは、dApps StakingおよびNominated PoSによる報酬の獲得です。
この2つはいずれも「ステーキングによる報酬獲得」を目的とした行為ですが、それぞれステーキングする対象が異なります。
Nominated PoSは、ステーキング手法として見た場合は一般的なステーキングとあまり差がありません。
例えば、Ethereumでは自身が保有しているETHをEthereumの「ネットワーク」にロックすることでステーキングに参加し、報酬を得ることができます。
Nominated PoSにおけるステーキングも同様で、Astar Networkのネットワーク自体にASTRをロックすることで報酬が獲得できます。
一方、dApps Stakingは資産をロックする対象が異なります。
dApps Stakingでは、Astar Networkのネットワーク自体に対してステーキングを行うのではなく、Astar Network上で運用されている「個々のdApps」に対してステーキングを行います。
したがって、自身が得るステーキング報酬は「ステーキングをしているdAppsのパフォーマンス」に依存することになります。
自身がステーキングしているdAppsがAstar Networkのエコシステムに貢献するほど、より多くのステーキング報酬を受け取ることができます。
Astar Networkが有望銘柄とされる理由
引用元:ASTAR
次に、Astar Networkが有望銘柄とされる理由について、Astar Networkの技術的な特徴がもたらす利点に着目しながら解説します。
Build to Earnによる開発の持続性
1点目は、Build to Earnの仕組みによる開発の持続性です。
Build to Earnがもたらす最大の利点は、アプリケーションの売上が立つ前から開発者に対して報酬が支払われる点です。
前提として、多くのブロックチェーン開発においては「開発者に対して正当な対価が支払われていない(支払われにくい)」という構造があります。
開発者は、エコシステムの開発に最も貢献している存在であるにもかかわらず、彼らはアプリケーションの売上が立つまで収入を得ることができません。
それどころか、スマートコントラクトをデプロイするには高額なガス代が必要となるため、開発者は「開発を行い、さらには自分でコスト(ガス代)を払ってまでエコシステムに貢献している」ことになります。
この構造ゆえに開発者は売上を手にするまでの間、自らコストを払いながら開発をすることになるため、資金面の理由から開発を断念せざるを得ない可能性も出てきます。
一方、開発をすること自体が開発者の報酬につながる「Build to Earn」の構造を備えているAstar Networkでは、売上が立つ前の段階から開発者に対して継続的に報酬が支払われます。
この報酬を活用することで開発者はAstar Networkの開発を継続することができ、エコシステム全体としても持続的な開発が可能になっています。
EVM・WASMによる広範囲の開発可能性
2点目は、EVMとWASMの両方をサポートすることで、広範囲にわたる開発可能性を秘めている点です。
Ethereumの共同創設者であり、PolkadotのファウンダーでもあるGavin Wood氏は「WASMがスマートコントラクトの未来において重要な役割を果たすだろう」と述べています。
WASMは、Ethereum以外の開発者がすでに知っているツールや言語を用いてdAppsを構築することを可能にします。
一方、現在のブロックチェーン開発における主流はEVMであることも事実です。
Astar Networkはこの両方をサポートすることで、他のブロックチェーンが対応できない領域も含めて幅広く開発を進めることができます。
Astar Networkの最新事情
引用元:Astar Blog
次に、2023年10月時点におけるAstar Networkの最新動向について解説します。
Astar Networkを開発するStake Technologie社は、Polygon Labsと協業し、EthereumのLayer2となる「Astar zkEVM Powered by Polygon」を共同開発することを2023年9月13日に発表しました。
シンガポールで開催されたWeb3カンファレンス「Token2049」で発表された本内容は、Astar Networkにとって重大な発表になると事前告知されていた「Supernova」にあたる取組みです。
zkEVMは、EVMとゼロ知識証明を併せ持った技術で、Ethereum基盤のdAppsにおけるスケーラビリティ問題の解消に役立ちます。
具体的なメリットとして、zkEVMのおかげでEVM準拠のdAppsをAstar Networkへ容易に移植でき、その結果、Astar Network上での事業展開が加速する点などが挙げられます。
新たにEthereumのLayer2を開発・提供することで、Astar Networkは従来のLayer1開発も含め、Ethereum全体の成長に貢献していくことが期待されます。
Astar Network(ASTR)の今後の展望まとめ
本記事では、Astar Network(ASTR)の特徴について解説しました。
Astar NetworkはdApps開発のハブになることを目的とし、他のブロックチェーンとは異なる様々な特徴を持っています。
特に、dApps StakingがもたらすBuild to Earnによる開発の持続性は、Astar Networkの成長を支える重要な要素です。
また、Polygon Labsとの協業によりLayer2展開を強化していく動きも、今後のAstar Networkの動向を追う上で見逃せないポイントになるでしょう。
本記事を読んでAstar Network(ASTR)に興味が湧いた方は、ぜひASTRを手にして、様々なサービスを実際に利用してみてください。