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イーサリアム財団も被害を受けた暗号資産のMEVとサンドイッチアタックとは?

解説系記事

2023年10月、イーサリアムおよび関連技術をサポートする組織であるイーサリアム財団が、保有していた1,700ETH(約4億1,000万円)を売却しました。

その際、MEVbotによるサンドイッチアタックを受け、約135万円の被害を受けていたことが明らかになっています。

暗号資産(仮想通貨)の運用の中でも、特にイーサリアムを対象とした何らかの資産運用をしている方は多いでしょう。そのような方にとって、バリデーターの利益の源泉であるMEVや、MEVに付随して起こるバリデーターの行動について理解しておくことは重要です。

この記事では、イーサリアム財団が受けたMEVのサンドイッチアタックという一連の流れを理解するために必要な事項について、初心者の方にもわかりやすく解説します。

暗号資産のMEVとは

MEV(Maximal Extractable Value:最大抽出可能価値)とは、トランザクション処理の順序や内容を操作することで、バリデーターやマイナーが得られる収益、あるいは収益を得る手法のことを指します。

イーサリアムブロックチェーンではバリデーターがトランザクションの検証を行っており、そのおかげでチェーン自体の透明性や信頼性が保持されています。

そしてバリデーターは、検証という行為を通じてブロックチェーンの維持に貢献した対価として、ブロック生成報酬や取引手数料などの収益を受け取っています。

MEVの役割と仕組み

MEVはバリデーターが収益を受け取る手段ではあるものの、その本来の目的はイーサリアムブロックチェーンの透明性や信頼性を向上することにあります。

そこで、ここからはイーサリアムチェーンにおいてMEVが果たす具体的な役割について解説するとともに、MEVを通じてバリデーターが利益を受け取る仕組みについても説明します。

MEVがイーサリアムチェーンに対して果たす役割には、大きく分けて以下の2つがあります。

  • 取引手数料の最適化
  • DeFiにおける経済効率性の向上

これらについて理解するために、まずはMEVの基本的な仕組みから解説します。

MEVの基本的な仕組み

MEVについて理解するには、ブロックチェーンにおけるトランザクション処理の流れを理解することが不可欠です。

ブロックチェーンの処理能力には限界があるため、発生したトランザクションをすぐに検証してブロックチェーンに刻むことは必ずしもできません。

そこで、未承認のトランザクションはメモリープールという場所に一時的に保存され、処理待ちの状態になります。

メモリープールに溜まったトランザクションは、バリデーターが検証してからブロックチェーンに書き込まれます。ブロックチェーンに書き込まれたトランザクションはメモリープールからは消去されます。

この時にバリデーターは、メモリープールに保存されている未承認トランザクションの内容をあらかじめ確認した上で検証を行います。

トランザクションの内容を確認したバリデーターは、ユーザーが設定した取引手数料が大きいものから優先的に処理をすることができます。

このように、トランザクションの順序を操作したり、アービトラージの機会を利用することでバリデーターが獲得できる追加的な収益がMEVにあたります。

取引手数料の最適化

MEVが果たす役割の1つ目は、ブロックチェーンにおける取引手数料の最適化です。

イーサリアムチェーンのメモリープールには、大小さまざまな取引手数料が設定されたトランザクションが存在します。

バリデーターはMEVを利用し、最も大きな利益を得られるようにトランザクションを処理する順序を調整することができます。

具体的には、高い手数料が設定されたトランザクションや、特定のアービトラージの機会を享受できるトランザクションを優先的に処理することで、より多くの報酬を受け取ることが可能です。

一方でユーザー側も、自らのトランザクションが迅速に処理されるよう適切な手数料を設定するインセンティブを持つようになります。

この相互作用を通じて、取引手数料は徐々に最適化され、全体としてブロックチェーンの利用効率が向上することが期待されます。

DeFiにおける経済効率性の向上

DeFi(分散型金融)は、ブロックチェーン技術を活用した新しい金融の形態です。

MEVはこのDeFiのエコシステムにおいて、経済効率性を一層高める役割を果たします。

バリデーターはMEVを利用することで、異なるDeFiプロトコル間の価格差や流動性のギャップを検出し、アービトラージの機会を最適化することができます。

これにより、DeFiプロトコルで取引される暗号資産の価格はより正確になり、流動性が均等に分散される傾向が強まります。

この最適化は、より良い取引条件や高い収益性をもたらす可能性があり、エンドユーザーにとってもメリットになり得ます。

このように、MEVはDeFiの健全性と成熟をサポートする重要な要素としても機能しています。

MEVが抱える課題

MEV自体は、イーサリアムのエコシステムの維持において重要な役割を担っています。

その一方で、MEVに関連する一部のバリデーターの活動の中には、ブロックチェーン上での取引の透明性や公平性を損なうリスクを持つものもあります。

ここからは、MEVが抱える課題について解説します。

フロントランニング

フロントランニングは、バリデーターが自身の利益を追求するために、他者のトランザクションの前に自身のトランザクションを優先的に挿入する行為を指します。

価格変動や取引成立を先取りすることで不正に利益を得ることを目的としており、悪質な行為と見なされています。

暗号資産取引におけるフロントランニングは、主にDEX(分散型取引所)において行われます。

フロントランニングの基本的な仕組みは以下の通りです。

  1. ユーザーAが、DEXで特定のトークンを大量に購入しようとする
  2. この買い注文が実行されると買い圧力が高まり、価格が上昇する可能性がある
  3. バリデーターはメモリープールのトランザクションから、上記の動きを検知する
  4. バリデーターは、大量の買い注文が実行される前に高い手数料を設定して自分の取引(買い注文)を挿入する
  5. バリデーターの取引が優先的に処理され、その後に起こる大規模な購入取引による価格上昇の恩恵を受けられる
  6. 一方、ユーザーAのトランザクションが処理される頃にはトークン価格は既に上昇しており、予定よりも高い価格で購入を強いられることになる

このように、フロントランニングを実行するバリデーターは不当に利益を得られる反面、他のユーザーは不利益を被ることになります。

また、フロントランニングが頻繁に発生すると市場の公平性や信頼性が低下する可能性もあります。

このように、フロントランニングは禁止されるべき不正行為だと言えます。しかし、DEXは従来の中央集権的な暗号資産取引所と異なり、規制当局による直接の監視や介入が難しいという実情もあるため、十分な対処がなされているとは言えません。

サンドイッチアタック

サンドイッチアタックは、暗号資産取引における不正な取引戦略の1つで、フロントランニングと密接に関連しています。

この攻撃は、バリデーターがトランザクションの挿入順序を悪用し、他のトレーダーから不正に利益を得ることを目的としています。

サンドイッチアタックの基本的な仕組みは以下の通りです。

  1. ユーザーAが特定のトークンを購入しようとする
  2. バリデーターは、ユーザーAのトークン購入トランザクションを検知する
  3. 優先的に自身のフロントランニング取引を実行し、その後、ユーザーの取引を実行する
  4. トークン価格が上昇し、先にトークンを購入したバリデーターは含み益を得ている状態になる
  5. その後、バリデーターはそのトークンを売却するバックランニング取引を、手数料を高く設定して優先的に実行する
  6. この取引によってトークンの価格は元に戻り、バリデーターだけが利益を得る

このように、サンドイッチアタックは悪意あるバリデーターに利益をもたらす一方で、他のユーザーは不利な条件での取引を強いられることになります。

市場の公平性を著しく損なう行為であるため、DeFiプロトコルにおける重大な懸念事項と見なされています。

ユーザーが支払うガス代の高騰

MEVを追求する競争が激しさを増すと、トランザクション処理を実行するためのガス代が高騰し、ネットワーク利用者全体に影響を与える可能性があります。

特にフロントランニングを試みるバリデーターは、自分の取引が確実に実行されるように高めの取引手数料を設定します。

この影響でネットワーク上のすべての取引にかかるガス代が上昇する可能性があり、結果として一般のユーザーが支払うトランザクション処理のコストも高くなり、ブロックチェーンの利用が困難になることが懸念されます。

検証プロセスへの悪影響

MEVに関連する行為は、バリデーターの検証プロセスに悪影響を及ぼす可能性があります。

特定のトランザクションを優先的に処理することで、ブロックの処理順序やトランザクションの扱いに偏りが生じた結果、悪意ある参加者によるブロックチェーンへの攻撃が増大してセキュリティが脆弱になる恐れがあります。

悪質なMEVへの対策

悪質なMEV行為の増加とそれに伴う市場への悪影響を受けて、すでにいくつかの対策が模索されています。

その中で注目されるのが「MEV-Boost」と「Flashbots Auction」です。

MEV-Boost

MEV-Boostは、MEVから生じる利益を再分配することを目的としているツールです。

通常のMEVでは、バリデーターが個人的な利益を優先して獲得することが問題視されていますが、MEV-Boostはその利益の一部をプロトコルやユーザーに還元する仕組みを提供しています。

これにより市場の公平性が向上し、ユーザーやプロトコルが悪意あるMEV活動から保護されます。

Flashbots Auction

Flashbots Auctionは、ユーザーが取引手数料をオークション形式でバリデーターに提供できる仕組みです。

これにより、ユーザーは優先的にトランザクションを処理してくれるバリデーターに対して手数料を支払うことで、フロントランニングやサンドイッチアタックのリスクを回避できます。

Flashbots Auctionは、ユーザーとバリデーター間の透明性を高めることで、MEVに対抗する有力なツールとなっています。

MEVとサンドイッチアタックに関するまとめ

本記事ではイーサリアム財団が攻撃を受けた事例をもとに、MEVに関連する知識としてサンドイッチアタックやフロントランニングなどについて解説しました。

一般のユーザーが、自分自身の投資行動において本記事で解説したような事項を直接的に意識することはあまりないでしょう。

しかし、暗号資産の取引では、大口投資家の動向ひとつで市場が大きく傾くこともあります。

そして、そういった市場の動きをコントロールできてしまう悪意を持ったバリデーターの存在には、常々注意を払わないといけません。

MEVについて正しく理解し、暗号資産投資における過度なリスクを適切に避けられるように心がけましょう。

Sparrow

Sparrow

フリーランスのWebライター。ブロックチェーンの非中央集権的な世界観に惚れ込み、暗号資産・NFT・メタバースなどのWeb3領域に絞って記事を執筆。自らの暗号資産投資やNFT売買の経験をもとに、難しいと思われがちなブロックチェーンについて、初心者にもわかりやすい記事を書くことを心がけています。好きなNFTクリエイターは「おにぎりまん」氏。
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