2021年は「NFT元年」と呼ばれるほど、NFTが世界的なトレンドとなりました。現在でも数あるニュースの中、NFTアートに関連する話題はたびたび大きな注目を集めています。
NFTがアートと結びつけられるのはなぜなのか、NFTがアートの世界をどのように変えたのか、疑問に思っている人は少なくないでしょう。
この記事では、黎明期から現在に至るまでのNFTアートの歴史を振り返り、NFTとアートの関係の発展を解説します。現代アーティストの参入や、NFT美術館の設立などの主要なニュースを取り上げながら、NFTが既存の美術業界に与えた影響を浮き彫りにしていきます。
この記事の構成
NFTアートの歴史
NFTは、ビットコインに始まる暗号資産(仮想通貨)とブロックチェーンの文脈から派生して登場した概念です。NFTは当初よりデジタル画像データに結びつけられる形で始まり、発展してきました。現在「NFTアート」と呼ばれているものは、ブロックチェーン上に刻まれた、代替不可能なデータのことを指します。
本章では、現在「NFTアート」と呼ばれるものがどのように発展してきたのかという観点から、歴史的に重要な出来事をピックアップして解説します。
2014年【初のNFTアートが登場】《Quantum》
現在発行されているNFTは、2017年に登場したERC-721というイーサリアムの規格に基づいているものがほとんどです。
しかし最初のNFTと言われているものは、イーサリアムが登場する以前からすでに登場していました。それが2014年に制作された、アーティストのケヴィン・マッコイによる作品《Quantum》です。
《Quantum》はニューヨークのニュー・ミュージアムで開催されたライブ・プレゼンテーションにおいて発表されたデジタルアートです。コードによってランダムに図柄が生成されるジェネラティブアートで、八角形の図形の色と模様が絶えず変化しています。
この作品は、ビットコインのコードから派生したブロックチェーンであるNameCoin
で作成されました。NFTという言葉やイーサリアムが登場する以前の最初のNFTとして価値が認められ、サザビーズの「NativelyDigital」オークションでは、2021年6月に147万ドルで販売されました。
2015年【イーサリアムがリリースされる】
現在発行されているNFTのほとんどはイーサリアムのブロックチェーンで発行されているため、イーサリアムの登場はNFTアートの発展にとっても重要です。
イーサリアムは、当時19歳の少年だったカナダ人のヴィタリック・ブテリンによって考案されました。高校生の頃からビットコインに興味のあった彼は、大学でコンピューターサイエンスを専攻しながら、イーサリアムのプロジェクトを考案し、取り組み始めました。
2013年に、彼はイーサリアムの思想をまとめたホワイトペーパーを公表。翌年には開発資金を集めるために、イーサとビットコインを交換するプレセールを行いました。
結果として約32,000BTCを集めることに成功し、本格的な開発に着手。2015年7月に一般公開されました。
2016年【NFTムーブメントの発端】「Rare Pepe Wallet」
現在のNFTによるデジタルアート人気の発端となったアイコニックな存在として、「Rare Pepe(レア・ペペ)」が挙げられます。
ぺぺ(Pepe)は、マット・フェリーによる「ボーイズ・クラブ(Boy’s CLub)」という漫画の中で登場するカエルのキャラクターです。
2005年に登場したこのキャラクターは、ネット掲示板を発端として人気に火がつきました。
人気が高まる中で次第にファンアートが多数登場し、中でも人気になったイラストは「Rare Pepe(レア・ペペ)」と呼ばれ、通販サイトで売買されるようになりました。
そんな人気の高いイラストの希少価値を高めるために、2016年にトークンとしての「Rare Pepe」と、専用のプラットフォームである「Rare Pepe Wallet」が誕生しました。Pepeのカードをブロックチェーン上のトークンとして発行・売買することでファンが楽しむようになったのです。
Rare Pepeの盛り上がりはトレーディングカードの売買と似ていますが、それがゲームの分野ではなくイラストの売買であるという点で、NFTアートの発端として位置付けられています。
2017年【イーサリアムの規格ERC-721が生まれる】
NFTアートの発展において重要な出来事として、2017年9月にイーサリアムの規格「ERC-721」が生まれたことが挙げられます。
「ERC-721」とは、「Ethereum Request for Comments」の略称で、イーサリアム上で行われる開発やトークンの標準(スタンダード)として定められている規格です。
NFTなどのトークンを扱う際、MetaMaskやOpenSea、Foundationなど、さまざまなプラットフォームを利用しますよね。
イーサリアムをはじめとするブロックチェーンの世界においては、異なるプラットフォーム間での互換性と利便性を高めるために、標準化が積極的に行われています。
ERC-721は現在、NFTを発行する際に最もよく利用されている規格になっています。
2017年【イーサリアムブロックチェーンにNFTが登場】「Curio Cards」
2017年5月には、イーサリアムブロックチェーン上に初めてのNFTが生まれます。
「Curio Cards」と呼ばれるそれは、3人の共同創業者によって、さまざまなデジタルアートのトレーディングカードを紹介するオンラインアートギャラリーとして登場。
彼らは7人のデジタルアーティストにカード制作を依頼し、それらをイーサリアム・ブロックチェーン上のスマートコントラクトでNFTとして発行しました。
数万枚にも及んだそれらのカードは、果物などを描いたシンプルな絵から始まり、発行を重ねるごとに風刺や漫画の要素が入るなど、次第にアーティストの遊び心が作品に反映されていくこととなります。
そして2021年10月にはCurio Cardsの30枚のカードと17bと呼ばれるミスプリントが、ニューヨークのクリスティーズオークションで393ETH(当時約130万ドル)で販売されました。
このオークションは、イーサリアム上に初めて登場したNFTを扱ったという意味だけでなく、法定通貨ではなく暗号資産を使用して行われた最初のオークションとしても重要な意味を持っています。
(出典:https://www.nftculture.com/history/curio-cards-a-look-back/)
2017年【「CryptoPunks」の登場】
イーサリアムブロックチェーンに初めてNFTが登場したほぼ同時期に、ジョン・ワトキンソンとマット・ホールが設立したニューヨークの企業「Larva Labs(ラルバ・ラボ)」が「CryptoPunks(クリプトパンクス)」を発表しました。
(出典:https://www.larvalabs.com/cryptopunks)
24×24ピクセルで作られたデジタルキャラクターであるCryptoPunksは、限定10,000個のアバターです。プログラムによって自動でパーツを組み合わせて生成されるジェネラティブアートの一つで、同じ見た目のものは一つもありません。
当初は無料で配布されていましたが、徐々に価格が付き、現在では最古のNFTアートとして希少性と価値が認められ、高額で取引されています。
このNFTの#5822が、2021年2月にシリーズ過去最高額の8,000ETH(約27億円)で取引されました。#5822は、10,000個ある作品のうち9個しかないエイリアンをモチーフにしたもので、クラウド・ブロックチェーン・インフラストラクチャ企業「チェーン」のCEOディーパック・タプリヤルにより購入されました。
CryptoPunksの登場と熱狂はNFTアートの歴史にとって重要です。
最古のNFTアートとして認知されて価格が高騰し、世界の著名人や資産家に購入されたことは、NFTがもたらす可能性を世界に広く知らしめるきっかけとなりました。
本物のCryptoPunksをツイッターなどのSNSのアイコンに設定することで、高額なNFTを所有しているというステータスの証明にもなります。
CryptoPunksはこうしたNFTの持つステータス性やコミュニティの創造、そしてpfp(プロフィールフォト)向け作品の流行の発端ともなったのです。
2017年【OpenSea設立】
CryptoPunksが登場して少し後の2017年末〜18年初めにビットコインとイーサリアムが急騰し、NFTアートに注目が集まり始めました。
そんな中、2017年12月に2人の創設者によって、NFTオンラインマーケットプレイスであるOpenSeaがニューヨークで設立されます。
同社はNFTブームを牽引する形で急成長を遂げ、評価額は設立からわずか4年で133億ドル(約1兆5,338億円)という驚異的な金額に達しています。
現在では世界的に最も利用されているマーケットプレイスであり、出品手数料の安さやシンプルで見やすいUIなどから、初心者でも使いやすいために人気を博しています。
(引用元:OpenSea)
2021年【Beeple高額落札】
2021年3月に行われたクリスティーズのオンラインオークションで、デジタルアーティスト・Beeple(ビープル)のデジタルアート作品《Everydays – The First 5000 Days》が約6,935万ドル(約75億円)で落札されました。
この作品はクリスティーズが販売した初のNFTであり、この価格は現存するアーティストの中でもトップ3に入るほどで、かつデジタルアート作品としては史上最高額となっています。
Beeple ことマイク・ヴィンケルマンは、2007年5月にアーティスト・Tom Judd(トム・ジャッド)に触発され、毎日作品を投稿するというプロジェクト「Everyday」を開始。
5000日以上続いたプロジェクトの期間中に制作された作品を組み合わせて一つのコラージュにしたのが《Everydays – The First 5000 Days》です。
Beeple作品が歴史あるアートオークションで高額落札されたという出来事は、アート界に大きな衝撃を与えました。
彼は現代アート界においても、NFTアーティストとしても重要な人物の一人であると言えるでしょう。
2021年【NFT市場の活性化】Visaの参入
2021年8月、クレジットカードの国際ブランドVisaがCryptoPunksを15万ドル(約1650万円)で購入すると、その直後にNFT市場が活性化しました。
現在では大手企業が続々とNFTやブロックチェーン事業に参入していますが、Visaの参入はその初期の出来事でありNFTブームに火をつけた重要な出来事です。
またVisaは2022年、音楽やファッション、映画などの芸術関連の起業家向けに、NFTを使ったビジネスの支援プログラム「Visa Creator Program」を開始し、さらなる事業拡大を試みています。
NFTを活用している代表的な現代アーティスト
ここまで見てきたように、NFTアートはこの10年にも満たない短い期間で急速な発展を遂げており、現在でも市場規模が著しく拡大しています。
この大きなムーブメントの中で、既存の現代アーティストたちも続々とNFTに取り組み始めていることは無視できない事実です。
この章ではNFTを活用した制作を行なっている、代表的な現代アーティストを紹介していきましょう。
バンクシー
Banksy(バンクシー)は今や世界的に有名な、イギリス出身の匿名ストリートアーティストです。
正体不明の彼は世界各地のストリートや壁、橋などに痛烈な社会風刺の効いた作品をゲリラ的に残したびたび大きな話題となっており、その作品はアートオークションで非常に高値で取引されています。
2005年には、美術作品の所有権を分割して販売するアメリカのベンチャー企業「Particle」が絵画作品《Love Is in the Air》を1万個のNFTに分割して出品。
分割されたNFTはそれぞれ約1500ドル(約17万円)で販売され、各ピースが作品のどこの位置のものかを示すコレクターカードも付属しています。
ピースは比較的安価であることから、多くの人がバンクシー作品のオーナーになれるという構造になっています。
ダミアン・ハースト
イギリスの現代美術家であるDamien Hirst(ダミアン・ハースト)は2021年7月にNFTプロジェクト「The Currency(通貨)」を発表しました。これは手書きのカラフルなドットで埋め尽くされたA4サイズの作品で、一つひとつの見た目に大きな違いはありません。
作品それぞれには偽造防止のために、ホログラムイメージやサイン、シリアルナンバーの代わりに小さな個別メッセージが施され、その名の通りまるで貨幣のような性質を持った限定1万枚のアートとして発表されました。さらに、そのそれぞれにNFTが添えられています。
(引用元:https://media.and-art.jp/art-appreciation/the_currency/)
この作品の興味深い点は、作品を購入・所有する際の仕組みにあります。
作品を購入する人はまずデジタルデータであるNFTを2,000ドルで購入し、1年以内にその作品をNFTとして所有するか、物理作品と交換して所有するかのどちらかを選択しなければならないのです。
NFTというデジタルデータを所有するか、三次元の作品を所有するかをコレクターに選ばせることで、アートの根本を問い直したこのプロジェクトは、世界的に大きな話題を呼びました。
物理とデジタル、代替性と非代替性の境界を問うこの作品の登場は、NFT界だけでなく現代美術界にも旋風を巻き起こしました。
村上隆
最も有名な日本人現代アーティストの一人であり世界的な活躍を見せている村上隆も、いち早くNFTに取り組んでいます。
村上隆は2021年4月に代表作である「お花」をモチーフとしたNFT作品「Murakami Flowers」を発表しましたが、わずか11日で出品を取り下げ、世間を騒がせました。
取り下げたのは「さまざまなテーマに対して慎重な検討と議論を重ねて、より最適な形式でNFTをご提供して行くのが良いだろう」(引用:村上隆のインスタグラムより)という理由だったようです。
その後2022年4月5日にパブリックセールが実施された「Murakami Flowers」は、煩悩の数である108の二乗である11,664種類で構成され、中身が分からない「種(Seed)」の状態でOpenSeaにて販売、5月4日に「Reveal(開封)」が実施され、種の中身が明かされています。
さらに村上隆のNFT作品は、2022年5月にニューヨークのメガギャラリーであるガゴシアンで展示されました。
ガゴシアンはNFT市場の盛り上がりに慎重な姿勢を保っていましたが、ついに暗号資産取引所「Coinbase」との連携を発表。待望のNFT市場への参入とともに、村上隆の個展「An Arrow through History」を開催し、NFTへの積極的な姿勢を公にしました。
村上隆はガゴシアンでの個展に際し、改めてNFTに取り組む意義について取材に答えています。
「リアルアートの価値観は非常に中央集権的なんですね。一方で、ブロックチェーンなど分散型インターネット社会の「Web3」の概念において、NFTアートは非中央集権的です。その相反する業界に架け橋を架けることが今回の展覧会の目的です。それができるのは、中央集権的な価値観を十分に享受した自分ではないかと思いました。」
(引用元:https://news.yahoo.co.jp/articles/ebb9315bc81556db866b8d163f75729074945533?page=2)
村上隆の取り組みは、未だ古い慣習の残る美術業界に、「Web3」という「分散型」をキーワードとしたインターネットの新しい概念を吹き込んだと言えるでしょう。
森洋史
森洋史(もりひろし)は、名画やアニメ、漫画、ゲームから引用したイメージを組み合わせた作品を制作する日本の現代アーティスト。
2021年11月に銀座の蔦屋書店GINZA ATRIUMにて開催された個展で発表されたのが、新シリーズ「MORYGON KEWPIE(モリゴンキューピー)」です。
(引用元:https://store.tsite.jp/ginza/blog/art/23382-1702111112.html)
鏡面多角形とキューピー人形を組み合わせたこの作品は、立体、映像、版画で展開され、⽇本画とアニメ絵を組み合わせた「Japanesque」シリーズとともに発表・展示。両シリーズの映像作品はNFT化され、株式会社FRMのマーケットプレイス「XYZA」(https://xyza.io)で販売されました。
森洋史は個展に際してNFTについて次のように述べています。
「NFTアートなどはまだまだ⾏⽅が定まらないのは確かですが、それさえもシミュレーションの対象になり得るのではないかと考えています。過去のイメージを掘り起こし最新の⼯業テクノロジーを駆使しつつ、古今東⻄の⽂化をこき混ぜることによって出来上がるアート、私の軽薄さや節操の無さが織りなす異物感が熟成することで、オリジナリティとして確⽴出来ないか模索しています。」
(引用元:https://store.tsite.jp/ginza/blog/art/23382-1702111112.html)
せきぐちあいみ
せきぐちあいみは日本のVRアーティストで、タレントやYouTuberとしても活躍しています。
元々はタレント・歌手として活動していた彼女は、2016年から芸名をひらがなの「せきぐちあいみ」に改名し、VRアーティストとして活動を開始。
翌年にはクラウドファンディングにて世界初のVRアート個展を企画し、開催。以降注目が集まり、国内外にてVRアートの制作やライブパフォーマンスを行っています。
2021年3月にNFTアート作品《Alternate dimension 幻想絢爛》をOpenSeaに出品し、69.697ETH(約1,300万円)で落札され、国内では大きな注目を集めました。
また、2021年12月末には、フォーブス ジャパンが選出した「今年の顔100人」に彼女が選ばれるほどの反響があり、日本でVRアートやNFTが広く知られるきっかけにもなりました。
美術館・ギャラリーによるNFT活用事例
前章では、現代アーティストたちのNFT活用事例を見てきました。
NFTは既存の美術界で有名なアーティストたちも注目するほど、アート界にとって無視できない技術であることがお分かりいただけたと思います。
本章ではさらに視野を広げ、美術館レベルでのNFT活用事例について見ていきましょう。
エルミタージュ美術館
世界三大美術館の一つ、ロシア・サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館が2021年8月、初となるNFTプロジェクト「Your token is kept in the Hermitage」を発表しました。
これは同美術館が所蔵するレオナルド・ダ・ヴィンチやフィンセント・ファン・ゴッホなど、5点の名画のデジタルコピーをNFTとして販売するというものでした。
NFTは2点ずつ発行され、1枚は美術館の所有とし、もう1枚を一般に公開・販売。
NFTはBinanceのマーケットプレイスで販売され、販売益はすべて同館の活動に充てられました。
2021年9月7日に終了したオークションの結果は、5点合計で44万ドル(約4,800万円)の売り上げとなり、最も高額で落札されたのはダ・ヴィンチ《Madonna Litta》で、約1,650万円でした。
同館のピオトロフスキー館長はこのプロジェクトについて、次のように語っています。
「新技術、とくにブロックチェーンは、所有とその保証を中心としたアート市場の発展に新たな章を開いている。これは、人とお金、人と物の関係を発展させる重要な段階だ。NFTは、民主主義を実現する方法であり、高級品をより手頃な価格で提供すると同時に、特別なもの、高級なものを提供する方法でもある。私たちは、コレクションや宮殿を紹介するほかの機会、とくにデジタルな機会を拡大していく」
(引用元:https://bijutsutecho.com/magazine/news/market/24376)
名画のNFTをロンドンのギャラリーで展示「Eternalising Art History」
イタリアのウフィツィ美術館などの4機関が所蔵する名画6点をデジタル複製として展示・販売する展覧会「Eternalising Art History」が、ロンドンのギャラリー「Unit London」で2022年2月より開催されました。
フィレンツェのウフィツィ美術館をはじめとするイタリアの4つの主要な文化機関とのパートナーシップにより実現された展覧会で、実会場での展示のほか、各作品は9エディションのNFTとしても販売されました。
取り扱われたのはレオナルド・ダ・ヴィンチ、カラヴァッジョ、ラファエロ、モディリアーニなどといった古典から近代までの巨匠の作品で、販売益の50パーセントは美術館の作品保存のために活用されたといいます。
大英博物館 北斎作品のNFT200点以上を販売
イギリスの大英博物館がブロックチェーンプラットフォーム「LaCollection」と提携して販売したデジタル画像NFTは、葛飾北斎作品です。
これは2021年9月30日より大英博物館で開催された「Hokusai, The Great Picture Book of Everything」展のオープニングと「LaCollection」のローンチに合わせて行われたプロジェクトで、北斎の名作「神奈川沖波裏」「凱風快晴」「駿州江尻」などのデジタル画像を含む200点以上のNFTがオンラインで定価で販売されました。
ローンチした「LaCollection」は、美術館や文化機関が所蔵する物理コレクションをNFTとして収集・販売することに特化した新しいNFTプラットフォームで、アートとテクノロジーの発展が急速に進む未来のアートコレクター向けに運用されています。
NFTの美術館が続々オープン
ここまで、NFTが世界の美術館で新しい試みとして活用されている事例を見てきました。誰もが知っているような由緒ある美術館でのNFT活用は、フィジカルな作品とデジタルデータの共存関係を構築していく上での重要な試みであると言えます。
一方で、NFT作品を専門で収集・売買・展示する美術館も登場し始めています。ここではその主要な例を見ていきましょう。
NFT鳴門美術館
2022年3月1日、総床面積1495.93平米の世界最大規模のNFT美術館「NFT鳴門美術館」がオープンしました。
「一般財団法人NFT鳴門美術館」が徳島県鳴門市にて運営する美術館で、2021年「鳴門ガレの森美術館」から改称して以降、内装リニューアル工事を経て開館。
オープン時には細田守監督のアニメ映画「竜とそばかすの姫」とファッションブランド「アンリアレイジ」のコラボ衣装とそのデジタルデータや、「DEEP ART展」にてAIによる自動制作アート作品などが展示されました。
また、同館はNFTの保管、保険、審査、発行、流通などのサービスも提供しています。
さらに、NFTを購入する際に必要な暗号資産の口座開設やウォレットの管理、NFT作品の購入、所有管理までの手続きを委託することも可能です。
シアトルNFTミュージアム
2022年1月、アメリカ・シアトルにNFTに特化したミュージアム、「シアトルNFTミュージアム(SNFTM)」がオープン。
アーティストやコレクターがNFTを展示する物理的な環境を提供するため、アメリカの起業家であるジェニファー・ウォンとピーター・ハミルトンによって設立されました。
会場には32インチから85インチの超精細画質のディスプレイ30台ほどが設置され、アーティストの作品やコレクターの保有するNFTなどが展示されています。
誰でもNFTアートにアクセスしやすくするために作ったというこのギャラリーは、シアトルの文化の発信地として機能していくでしょう。
(引用元:https://www.seattlenftmuseum.com/)
オンラインNFT美術館
購入したNFTの使い道として、メタバース空間に構築したギャラリーで展示するという楽しみ方があります。
メタバースのプラットフォームとして有名なのは「Decentraland(ディセントラランド)」や「oncyber(オンサイバー)」などです。
上記のようなプラットフォームでは個人でも簡単にNFTを展示したり、作品を見に行くことができます。
また最近の新しい動きとしては、ロシアに侵攻されているウクライナが戦争の記録をアートとして残すためのNFTアート美術館「META HISTORY」が開設され、2022年3月にウクライナ第一副首相兼デジタル改革担当大臣のミハイロ・フェドロフ氏によって発表されました。
このオンライン美術館では、ロシアが特別軍事作戦を開始した午前5時45分から、54作品が時系列で並んでおりこれらのNFTで得た販売益は支援金に充てられるそうです。
戦争のせいで破壊され失われてしまった美術作品は歴史上数多く存在しますが、作品をNFTとしてブロックチェーン上に刻むことで、万が一特定のサーバーが戦火で失われても、データは分散管理されているため、NFT作品自体とそれが売買されたという事実は消えません。
戦争の記録としての作品を半永久的に残すことができるブロックチェーンの技術は、歴史のあり方までも変えてしまったと言えるでしょう。
まとめ
暗号資産やブロックチェーンの技術とともにNFTは世界に新しい価値観をもたらしましたが、その発展と認知に大きく貢献したのは二次元のビジュアルアートです。
当初は、ブロックチェーンを理解し、暗号資産やクリエイティブな世界に通じた一部の層によって扱われていたNFTでしたが、次第に市場価値を帯び、今ではアートの新しい形として認めざるを得ないほど、大きなムーブメントとなっています。
世界的な現代アーティストや、美術館やギャラリーなどの公的な施設が続々とNFTに取り組み始めていることを考えると、この大きな渦は、今後もさらに多くの人を巻き込んでいくことになるでしょう。
幸いなことに現在NFTは、暗号資産やウォレットの使い方などの知識を身につければ、誰にでも発行・売買することができる環境にあります。
NFTが盛り上がりを見せている現代は、名もなきアーティストやクリエイターがWeb3の新しい文脈の中で、脚光を浴びることができるチャンスでもあるといえるでしょう。