2023年10月25日、JPYC株式会社(以下、JPYC社)と株式会社あるやうむ(以下、あるやうむ社)の2社が業務提携をしました。
JPYC社は日本円に価格が連動するステーブルコイン「JPYC」の発行企業、一方のあるやうむ社は、NFTを活用して地方創生を推進するスタートアップ企業です。
本記事では、上記2社の提携がweb3業界にもたらす影響、および今後期待されるNFTの新たな活用方法について、現在明らかになっている事実を元に具体的に解説します。
この記事の構成
JPYC・あるやうむの提携の概要
引用元:PR TIMES
JPYC社とあるやうむ社の提携の概要は以下の通りです。
- 返礼品NFTに特化したふるさと納税ポータルサイト「ふるさと納税NFT」上でのJPYC決済の導入
- JPYCによる住民税の納付を実現するための自治体への共同提案
この2点の実現に向けて業務提携を行うとともに、JPYC社はJPYCエコシステムの拡大を目的とした「JPYC Ventures」の第一号出資案件として、あるやうむに出資も行っています。
上記の提携内容をより深く理解するために、まずは2社が提供する主要なサービスである「JPYC」と「ふるさと納税NFT」について説明します。
JPYCとは
引用元:JPYC
JPYCは、同名の日本企業「JPYC株式会社」が開発・運営を手掛けるプリペイド型日本円ステーブルコインです。
まずはステーブルコインの概要を解説し、次にJPYC独自の特徴について説明します。
ステーブルコインとは
ステーブルコインは、価値の安定を目指して作られた暗号資産(仮想通貨)の一種です。
一般的に価格変動が大きいとされる他の暗号資産と異なり、法定通貨や貴金属など価値が安定している資産に通貨の価値を連動させています。
代表的なステーブルコインであるUSDTやUSDCは、1米ドルに価値が連動しています。USDTであれば、常に1USDT=1米ドルとなるように価格の維持が図られています。
ステーブルコインの主な目的は、暗号資産市場における価格の安定性を提供することです。
これにより、暗号資産取引における価格変動リスクを低減し、日常の商取引や資産の保管手段として利用しやすくなります。
また、ブロックチェーン技術を用いていることから、国際送金や決済システムにおける効率性と透明性の向上も期待されています。
日本円ステーブルコイン「JPYC」
JPYCは、日本円に価値が連動したステーブルコインです。
1JPYC=1円の価値が保たれるように設計されており、購入の際も日本円を利用することができます。
JPYCは日本の法律上、厳密には「暗号資産には該当しない」という特徴があります。
JPYCはイーサリアムブロックチェーン上で流通しているERC-20規格のトークンであり、メタマスクなどの暗号資産ウォレットを用いて個人で管理する必要があるなど、技術的な特徴は他の暗号資産とほぼ同じです。
しかし、日本の法律上は、資金決済法に準拠して株式会社によって発行される「前払式支払手段」と呼ばれる通貨建資産とされています。
つまり、法的には暗号資産には該当しない扱いとなっています。
ふるさと納税NFTとは
引用元:ふるさと納税NFT
ふるさと納税NFTは、「株式会社あるやうむ」が運営している「NFT×ふるさと納税」という新しいスキームです。
ここからは、まず一般的なふるさと納税の概要を解説し、次にふるさと納税NFTの仕組みについて説明します。
ふるさと納税の仕組みと意義
ふるさと納税は、日本の地方自治体を支援するための制度です。
特定の自治体に寄付を行うことで、その寄付額に応じて翌年の所得税や住民税から控除を受けることができます。
つまり、寄付をすることで「翌年の税金を前払いする仕組み」であるとも言えます。
具体的な金額を例に説明します。
- A市に対して5万円の寄付を行う
- 翌年の税金から4万8,000円が控除される(=支払い額の減額)
- 加えて、自治体の特産品などの「返礼品」が受け取れる
このように、寄付金額から2,000円を差し引いた金額が翌年の税金額から控除されるため、実質的には2,000円の自己負担で地方自治体を支援でき、加えて返礼品を受け取れるのがふるさと納税の基本的な仕組みです。
「ふるさと納税NFT」とは
このふるさと納税の返礼品にNFTを導入したのが、あるやうむ社が運営する「ふるさと納税NFT」です。
基本的な仕組みは他の返礼品と同様であり、実質2,000円の自己負担でオリジナルのNFTアートを受け取り、さらにNFT保有者だけの特典も受けることができます。
あるやうむ社がふるさと納税NFTを運営している趣旨について、あるやうむ公式ブログには以下のように記載されています。
近年、日本で拡大をみせるふるさと納税は本来、「地域を応援するため」に制定された制度でした。
しかし、家電や食材などの生活必需品を入手するための手段としての側面が強まっています。その結果、各自治体は返礼品を通じた地域の魅力発信に重きを置けない状況に陥っています。
一方、ふるさと納税NFTでは、デジタルアート作品を返礼品として用意することで、地域の景観・名産物など、地域の魅力を表現することが可能です。
さらには、返礼品NFTを持って観光に訪れることでアートの絵柄が変化する仕組みを施したり、NFTの保有者特典を設けて特別な体験を提供したりすることで、地域の魅力を発信します。
これまでの返礼品と異なり、「消費」が前提とされず、応援し続けられる地域づくりに貢献することが、ふるさと納税NFT普及の鍵となっています。
引用元:あるやうむ公式ブログ
このように、ふるさと納税の返礼品にNFTのデジタルアートを活用することでNFT保有者に地域の魅力を伝え、より深く地域とのつながりを持ってもらうことを狙いとして、ふるさと納税NFTは運営されています。
本提携が業界にもたらすものとは?
引用元:あるやうむ公式ブログ
ここからは、JPYCとふるさと納税NFTに関する基本的な理解を踏まえた上で、改めて2社の提携が暗号資産業界にもたらすものについて考察します。
特に今回は、提携内容の2つのポイントのうち「返礼品NFTに特化したふるさと納税ポータルサイト『ふるさと納税NFT』上でのJPYC決済の導入」に着目して解説します。
暗号資産業界の課題
日本における暗号資産決済の利用は年々増加していますが、それでもなお、日本円の決済が必要となるケースがいまだ多く存在します。
その代表例が「納税」です。
多くの個人や法人が資産の一部を暗号資産で保有するケースが増加している一方で、納税の際には必ず日本円を用意する必要があります。
しかし、暗号資産から日本円への変換プロセスには時間と労力、さらに手数料等の負担が伴います。
これは、web3の普及に向けた大きな課題となっており、日本政府の成長戦略にも影響を及ぼしています。
暗号資産の流動性と効率的な利用が求められる中、現行のシステムでは上記の課題が暗号資産業界の成長を阻害する要因となっています。
「ふるさと納税NFT」のJPYC決済
このような状況下で、JPYC社とあるやうむ社が連携して始めた取組みが、あるやうむ社が運営するふるさと納税ポータルサイト「ふるさと納税NFT」上でのJPYC決済の導入です。
現在、ふるさと納税NFTでは、寄付の支払方法としてクレジットカードのみが対応しています。つまり、通貨としては日本円で納税をしていることになります。
しかし今回の提携により、今後はJPYCでも寄付が可能になる予定です。
JPYCでの寄付が実現すると、暗号資産の保有者は以下のようなメリットを享受できるようになると考えられます。
- JPYCで直接納税が可能になる(日本円への変換が不要)
- 日本円への変換にかかっていた様々なコストが削減できる
これまでは、現実世界の「納税」というスキームが暗号資産とリンクしていなかったため、暗号資産で直接納税をすることはできず、必ず日本円を用意する必要がありました。
ところが、保有している暗号資産を円に替えて納税をする場合、現在の日本の法律では暗号資産から円への変換行為自体に税金がかかってしまいます。
つまり、「納税用の円を用意するために納税をする」という本末転倒なことが起こり、暗号資産の保有者にとって多大なコストになっていました。
しかし、ふるさと納税NFTのスキーム内でJPYCによる寄付が実現すれば、暗号資産保有者は自身が保有する暗号資産を円に替えることなく納税ができるようになります。
ふるさと納税NFTへのJPYCの導入は、暗号資産の世界と現実世界の仕組み(納税のスキーム)をつなげることで、一般層へのweb3の浸透を推し進める取組みになると言えるでしょう。
JPYCとふるさと納税NFTの今後の展望
本記事では、あるやうむ社が運営する「ふるさと納税NFT」上でJPYC決済が可能になることの意義について解説しました。
デジタルデータであるNFTを現実世界の仕組みとどのように結びつけて活用するか。このテーマについて、現在様々な企業が取り組み始めています。
その中で、NFTのみならず日本円ステーブルコインであるJPYCも絡めたこの取組みは、日本におけるweb3のマスアダプションを進めるという点において非常に意義深いものであると言えます。
現在はJPYC決済の実現に向けて協業を進めている段階ですが、ふるさと納税NFTおよびJPYC自体はすでに利用できるため、興味が湧いた方はあるやうむ社、JPYC社の公式サイトから利用してみてください。