アートやゲームなどの領域から利用され始めたNFT。昨今では、NFTが持つ「非代替性」という特徴を活かし、デジタル証明書などの分野でも活用が広がっています。
NFTがデジタルデータである以上、そのユースケースはデジタル上やバーチャル空間での使用が主であると考えられがちです。
しかし、実はリアルな世界でもNFTの活用はすでに進んでいます。特にNFTが持つ非代替性という性質を活かした、より正確な「物品の真贋判定」などはその好事例だと言えます。
この記事では、現実世界のリアルなプロダクトについてまわる「模造品」や「海賊版」などの偽物に対処するために、NFTがどのように活用できるかを解説します。
この記事の構成
物品の真贋に関する問題点
NFTを活用したリアルな物品の真贋証明について解説する前に、主に高級品を中心に問題となる「偽物」の存在、および偽物の存在が望ましくない理由について整理しておきます。
偽物の存在が望ましくない理由
現実世界における様々な製品やサービス全般について、「偽物が存在する」という問題があります。
特に、高級なブランド品や大量生産ができない希少性の高い製品において、偽物の存在は本物の製品やサービスの価値を毀損することにつながります。
したがって、基本的に偽物の生産や販売、流通に関与する行為は望ましいことではありません。
これは、有名な画家が描いた作品の贋作が出回るというようなケースに限らず、より身近な「やや高級な日用品」などについても起こり得ます。
ブランド物のバッグや有名な産地で採れた海産物のように、「希少であるがゆえに価値が認められる」という製品は比較的身近に存在しています。
そして、時にこれらの偽物も市場に出回ることがあり、それが食品であれば産地偽装問題などにも繋がります。
このように、リアルな製品やサービスの模造品や海賊版、偽装などの問題は、常に私たちの生活の中に潜んでいます。
本物と偽物の区別が難しい
日本では、模造品の生産や本物の不正利用などに対して罰則を設ける法律として、「著作権法」「商標法」「不正競争防止法」などがあります。
つまり、法的には「模造品」や「海賊版」を生産・販売することは明確に悪と定義され、取り締まりの対象とされています。
しかし、これらの法律が機能するのは「本物と偽物を区別できた後」であり、これらの法律自体がリアルな製品の本物・偽物を「区別」する手助けになるわけではありません。
つまり、本物か偽物かを決める真贋判定においては、法律以外の別の方法が必要だということになります。
トレーサビリティの不透明性
昨今ではサプライチェーンの複雑化などにより、「おおむね本物だが、部分的に偽物」というような製品も存在します。
例えば、本物の定義が以下のように定められている工芸品があるとします。
- ◯◯県産の原材料を使用していること
- 伝統的な△△の手法で製造されていること
このような製品において、◯◯県産の原材料は使っているものの、「△△以外」の手法で製造された工芸品が、あたかも本物のように販売されることが度々あります。
製品が完成するまでのサプライチェーンが複雑化するほど、上記のように製造過程の一部が本物の条件を満たしていないという事例が起こり得ます。
この問題の最たる要因は、サプライチェーンのトレーサビリティ(追跡可能性)が不透明な点にあります。
その製品がいつ、どこで、誰によって作られたのかを正確に追跡できる手法があれば、「部分的に偽物」という製品の数も減らすことができると考えられます。
NFTを用いたリアル物品の真贋判定
上記のような問題を解決し、リアルな物品の真贋判定を明確に行うために、NFTが有効活用できます。
ここからは、NFTが持つ特徴の中で真贋判定に関わるものについて解説します。
その上で、物品の真贋判定においてNFTをどのように活用するのかについても説明します。
真贋判定に関連するNFTの特徴
デジタルデータであるNFTの最大の特徴は、データの真贋が明確に区別できる点にあります。
ここでは、NFTのアート作品を例に解説します。
以下の画像は、非常に価格が高額なことで知られるNFTコレクション「CryptoPunks」です。
引用元:OpenSea
CryptoPunksのNFTは世界に10,000体しか存在せず、したがって本物のCryptoPunks保有者も最大で10,000人しか存在しません。
しかし、CryptoPunksの画像自体は、誰でもコピーしてスマホやパソコンに保存することができます。
もしこれがNFTではなくただのデジタル画像だった場合、オリジナルとコピーの区別がつかず、真の保有者が誰かわからなくなってしまいます。
一方、NFTアートは保有者が誰であるか、いくらで購入したかといった情報が、すべてブロックチェーン上に刻まれています。
仮に誰かがCryptoPunksの画像をコピーして、そのデータをブロックチェーン上に流通させたとしても、ブロックチェーンの情報を見ればそれが偽物であることは一目でわかるようになっています。
このように、NFTは「真贋を明確に区別できるデジタルデータ」という特徴を持っています。
そして、この性質をリアルな物品に紐付けることで、デジタルではないリアルな「モノ」についても、本物であることの証明(=偽物との区別)ができるのではないかと考えられており、現在さまざまな手法が考案されています。
NFTとリアルな製品の紐づけ
NFTが持つ真贋証明の特性をリアルな製品と紐付ける手法は、今まさに様々なものが開発されています。
2023年12月現在、有効な手法として「リアルな製品を実際に購入した人だけが読み取れるQRコードなどを介して、証明書NFTを発行する」といったものがあります。
具体例として、生産量が少なく希少価値が高いワインについて考えてみます。
所有しているワインの真贋を証明するには、製造元が発行するオフィシャルな証明書などを用いる方法が一般的です。
しかし、その証明書自体がリアルな物品(紙など)の場合、偽造される可能性もゼロではありません。
これに対し、NFTとQRコードの組み合わせは、より正確な真贋証明を可能にします。
具体的には、以下のような手順で証明が可能だと考えられます。
- ワイン製造業者が、本物のワインにQRコードを付与する
- 購入者は、QRコードを読み取って証明書NFTを受け取る
仮に、偽のワイン業者が上記の工程も含めてすべて模倣したとします。つまり、偽物のワインを販売し、さらに偽物のNFTも発行しているケースです。
しかしこの場合は、簡単に偽物であることが見破れます。
すでに述べた通り、NFTはそのやり取りの履歴がすべてブロックチェーンに刻まれ、その履歴は改ざんすることがほぼ不可能です。
つまり、本物と偽物の2つのNFTがある場合、「本物のワインを製造している業者が発行したNFT」なのか、「偽のワインを製造している業者が発行したNFT」なのかは容易に見分けることができます。
このように、QRコードなどを介してNFTとリアルな物品を紐付けることで、ブロックチェーンが持つ「改ざん不可能」という特性がNFT証明書にも生かされ、その結果、リアルな物品の真贋判定が可能になります。
NFTを真贋証明に活用している事例
引用元:Tanning Pride
NFTを活用して実際にリアルな製品の真贋を証明している事例として、兵庫県姫路市のプロジェクト「Tanning Pride(タンニングプライド)」があります。
姫路市の⾼⽊地区では古くから⽪⾰産業が栄えており、現在も世界的に品質が認められている「姫路レザー」が生産されています。
近年では、⽪⾰⽣産の持続可能性に一部厳しい目が向けられているものの、一方で⽪⾰は⾷⾁の副産物としての利用や、なめし⼯程で出る副産物の他産業への有効活⽤など、サステナブルな素材としても注⽬されています。
この現状を踏まえTanning Prideでは、姫路レザーの中でも製品の⽤途ごとに設けた堅牢度や耐摩擦などの厳しい検査基準をクリアした⾰だけを「タンニングプライド認定レザー」と認定し、販売しています。
そして、この「認定を受けたレザー」であることを証明するために活用されているのがNFTです。
引用元:PR TIMES
認定レザーで作られた革製品に設置されたQRコードからNFTを受け取ることで、その製品が本物の姫路レザーで作られた製品であることが証明できます。
なおTanning Prideでは、NFTの受け取りにLINEアカウントを利用しているため、その製品に最適なアフターメンテナンス情報や季節ごとのお手入れ情報など、革を長く美しく使い続けるためのさまざまな情報も提供される仕組みになっています。
真贋証明におけるNFT活用の展望
ブロックチェーンの改ざん不可能性やNFTが持つ非代替性は、リアルな製品の真贋証明のあり方を大きく変えうる技術です。
一方で、NFTを発行するためのQRコード等が物理的なものであるがゆえに、それらを紛失してしまうと正確な真贋証明や所有証明ができないといった課題は残っています。
しかし、そのような課題を克服し、リアルとデジタルをよりシームレスに結びつけられる技術が今後生まれる可能性は十分にあります。
自社製品・サービスの真贋の証明方法を模索している方は、ぜひNFTの活用を検討してみてはいかがでしょうか。