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NFT×オフラインの可能性|NFTは既存産業に人を呼び込む起爆剤となるか

解説系記事

2023年9月、ジェネラティブNFTプロジェクト「Tokyo Alternative Girls(TAG)」と農業DAOの「Tomajo DAO」が、合同で農業体験企画を行いました。

アートやゲームから盛り上がりを見せ、現在では食品のトレーサビリティやサプライチェーンの課題解決など、多様なユースケースが模索されているNFT。しかし、その利用領域はデジタルの範囲に留まりません。

昨今では、TAGとTomajo DAOの合同企画のように「オフラインで人を巻き込む活動」にも、NFTは活用されるようになってきました。

この記事では、NFTを通じてインターネット上で形成されるコミュニティが、オフラインのビジネスでどのような役割を果たしうるか、具体的な事例を示しながら考察します。

NFTが形成するコミュニティとは

NFTが持つ主な特徴としては、ブロックチェーン技術による透明性やデータの追跡可能性、改ざんが困難であることなどが挙げられます。

これらはいずれも、NFTが持つ技術的な特徴だと言えるでしょう。しかし、NFTには技術面以外にも様々な特徴があります。

その代表的なものが「インターネット上でのコミュニティの形成」です。

ここからはNFT関連のコミュニティについて、主に以下のような観点から解説します。

  • なぜコミュニティが形成されるのか
  • 何を拠り所として形成されるのか
  • 形成されたコミュニティの役割

ジェネラティブNFTとコミュニティ

人が集まりやすく、また盛り上がりやすいコミュニティの1つが、ジェネラティブNFTの運営に伴うコミュニティです。

多くのジェネラティブNFTは、チャットツールのDiscordを用いてオンラインのコミュニティを運営しています。このコミュニティは、すでに例に挙げた「Tomajo DAO」のように、自律分散型組織を意味するDAOの名前を冠していることもあります。

ジェネラティブNFTに付随して形成されるコミュニティの特徴は、以下の通りです。

  • ファンが集い、相互にコミュニケーションをする場になっている
  • コミュニティメンバーへの連絡は主にDiscord上で行われる
  • ジェネラティブNFTの運営に関する議論がなされている

ジェネラティブNFTの運営に伴ってコミュニティが作られる理由の1つは、そのジェネラティブNFTコレクションのファンが集い、コミュニケーションを取る場が必要なためです。

2024年1月現在、NFTはまだ「広く一般の人が手にするもの」とは言えない状況です。

その状況下で、ジェネラティブNFTをビジネスに活用したいプレイヤーがすべきことは、コミュニティの核となる自分たちのジェネラティブNFTをまず知ってもらうこと、そして応援してくれる仲間を増やすことです。

ところが、X(旧Twitter)やInstagramのようなSNSでは、この目的を十分に果たすことができません。SNSにおける人々のつながりは、あくまで広くて浅い関係であるためです。

一方、Discordのような閉じられたコミュニティでは、より深い関係性を構築できます。

多くの人と手軽につながることができるSNSと異なり、Discordのコミュニティは「自らの意志でDiscordサーバーに入る」という工程を必要とします。そのため、必然的に「濃いファン」の人たちが集まります。

そのようなファンが集った上で、さらにお互いにコミュニケーションをする場として、Discordのコミュニティは機能しています。

また、より現実的なコミュニティの活用法として、コミュニティメンバーへのアナウンスや連絡も、多くの場合はSNSではなくDiscordで行われます。

さらに、コミュニティを自律分散的に活用できているNFTコレクションであれば、自分たちのNFTコレクションの今後の運営について、コミュニティメンバーを巻き込んで議論するなどといった動きも取られています。

このように、ジェネラティブNFTを運営したり、あるいはそこから他のビジネスに展開していくことを考えているプレイヤーにとって、オンラインでのコミュニティ作りは必須とも言える取り組み事項になっています。

NFTゲームとコミュニティ

もう1つ、多くの人が集まりやすいNFT関連のコミュニティとして、NFTゲームのコミュニティがあります。

こちらも多くの場合はDiscordが用いられていますが、LINEのオープンチャットと呼ばれる機能を用いてコミュニティを作っているケースもあります。

NFTゲームにおけるコミュニティも、その役割の多くはジェネラティブNFTのコミュニティと似たものになっています。

しかし、ジェネラティブNFTとは異なる点もあります。例えば、NFTゲームのプレイヤーからゲーム自体に関する意見を吸い上げる機能などがそれにあたります。

ジェネラティブNFTの場合、NFTを保有しているコミュニティメンバーであっても、コミュニティの活動に対して能動的に関わることができない、あるいは、どのように関わればいいかわからないというケースが少なからずあります。

一方、NFTゲームの場合、「NFT保有者=ゲームのプレイヤー」であるケースが多く、ゆえにゲームの運営状況はプレイヤー自身の利害に直結するという構造になっています。

そのため、ジェネラティブNFTのコミュニティに比べると、Discord上でコミュニティメンバーがゲーム運営者に対して意見をする機会は比較的多く見られます。

中にはゲーム運営者に対して厳しい意見を投げかけるユーザーもいますが、これは裏を返せば、オンラインコミュニティの中で運営とユーザーの濃密なコミュニケーションがなされていると見ることもできるでしょう。

NFTコミュニティがオフラインで活用された事例

ジェネラティブNFTもNFTゲームも、そのコミュニティはいずれもオンライン上で形成されています。

しかし、最近ではNFTをきっかけにオンラインで集った人たちが、オフラインでも活動を共にする取り組みが見られるようになりました。

NFT×オフラインの意義

NFTをきっかけにオンライン上で出来たコミュニティのメンバーが、オフラインでも共に活動する意義には以下のようなものがあります。

  • 既存産業に新たに関わる人口の増加
  • (既存産業側から見て)ITリテラシーが高い若い層の獲得

ここからは「オフライン」が指すものとして、主に日本国内の既存産業、特に人口減少や少子高齢化の影響により、従事者が減っていく懸念がある産業を想定します。

Tomajo DAOが関わっている農業などの一次産業も、この条件に該当すると考えられます。

このようなオフラインの産業が今後も継続的に発展していくために重要な要素が、産業従事者の増加、特にITなどのテクノロジーに強い若い層の獲得です。

農業に従事している人の多くは高齢な場合が多く、一般的にはITリテラシーもあまり高くないため、テクノロジーの恩恵を受けることが困難という状況があります。

一方、現時点でNFTに関心を持っている人や、すでに何らかのNFTコミュニティに属している人は、比較的年齢層も若く、ITリテラシーもかなり高い傾向にあります。

そして最近、NFTをきっかけに集った人々がオフラインの産業に関わりを持つことで、その産業自体の活性化につながるような活動が増えてきました。

ここからは、NFTコミュニティに集った人たちの力を、オフラインのビジネスや産業にうまく活用できている(または今後活用が予定されている)事例を2つ紹介します。

TAG Farm(農業体験×NFT)

引用元:PR TIMES

TAG Farmは、Tokyo Alternative Girls(TAG)とTomajo DAOが合同で行った農業体験企画です。

このイベントは、TAGのNFT保有者が無償で農業体験を行うという企画で、参加者には特典としてTomajo DAOが発行するNFTが1点プレゼントされました。

イベントのメインテーマは「農業体験から商品開発にまで参加できる」というものです。参加者は自ら稲刈りを行ったほか、収穫した米をその場でパッケージングし、後日別のオフラインイベントで販売するという取り組みも行われました。

TAG Farmの意義は、すでに述べた通り、農業のように従事者数が減少傾向にある産業に新しい人を連れてくることです。

TAGのNFT保有者には小さな子どもがいる子育て世代も多く、イベント当日は親子が揃って稲刈りや商品のパッケージングをする姿も見られました。

若い世代が、農業のような伝統的産業に触れる価値は非常に大きいと考えられます。このようなイベントを通じて新たな人が農業に関連する仕事や取り組みに興味を持ち、将来的に従事する可能性があるためです。

VIRTUAL G-SHOCK NFT(腕時計×NFT)

引用元:G-SHOCK公式サイト

VIRTUAL G-SHOCK NFTは、耐衝撃ウオッチ「G-SHOCK」で知られるカシオ計算機が販売した限定2,000点のNFTコレクションです。

これは、2023年にG-SHOCKが40周年を迎えたことに伴う取り組みです。NFT1点あたり0.1ETHで販売されたほか、先行購入権が得られるパス「G-SHOCK CREATOR PASS」を事前に配布するなど、G-SHOCKファンを取り込むための段階的な施策が講じられました。

VIRTUAL G-SHOCK NFTの意義は、ユーザー参加型のコミュニティの形成にあると考えられます。

カシオ計算機の時計マーケティング部、佐藤一輝氏(VIRTUAL G-SHOCK プロジェクト担当)は以下のように語っています。

VIRTUAL G-SHOCKは、40周年を迎えたG-SHOCKの新しい挑戦です。Web3(ウェブスリー)の要素を取り入れつつ、G-SHOCKらしい参加型コミュニティを形成します。環境や価値観が変化する中、未来のG-SHOCKの在り方を一緒に探求したいと考えています。

引用元:コインポスト

これまでは、G-SHOCKのように物理的な形状を持つ商品や、企業が一方的に提供するサービスにおいて、「ユーザーが企業と共に商品・サービスの開発に関与していく」ことは基本的にありえませんでした。

しかし、VIRTUAL G-SHOCK NFTの取り組みのようにNFT保有者(=G-SHOCKファン)が集うコミュニティであれば、企業と共に事業を作っていく熱量を持った人々が集まっている可能性があります。

オフラインで販売されている商品であっても、NFTを活用してオンラインで濃いファンを集め、その人たちに製品やサービスの開発・販売にまで関与してもらえる好事例だと言えるでしょう。

オフラインにおけるNFT活用の展望

人口減少・少子高齢化が進む日本においては、従事者が減りつつある既存産業に新たな人を連れてくることは重要な課題です。

また、カシオ計算機のように新しい時代を見据えた挑戦として、NFTコミュニティを自社の事業に活用する企業や組織も今後増えるでしょう。

NFTが現実のビジネスにどのように役立つのか、それを最も手軽に感じられる方法が「まずNFTのコミュニティに参加すること」かもしれません。このような取り組みに興味が湧いた方は、ご自身が興味を持てるNFTを購入し、Discordのコミュニティを覗いてみてはいかがでしょうか。

Sparrow

Sparrow

フリーランスのWebライター。ブロックチェーンの非中央集権的な世界観に惚れ込み、暗号資産・NFT・メタバースなどのWeb3領域に絞って記事を執筆。自らの暗号資産投資やNFT売買の経験をもとに、難しいと思われがちなブロックチェーンについて、初心者にもわかりやすい記事を書くことを心がけています。好きなNFTクリエイターは「おにぎりまん」氏。
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