イーサリアムのブロックチェーン上でのアプリケーション開発は増えており、それに伴って取引件数も増加しています。イーサリアムの処理能力は「1秒間/12〜15取引」程度であり、取引完了までに時間を費やすことも少なくありません。
そうした状況がある中、取引処理の改善を目的としたレイヤー2ネットワークの重要性はますます大きくなっています。2024年3月にはイーサリアム大型アップグレード「デンクン(Dencun)」の完了に合わせて、レイヤー2ネットワークのスタークネットやベースの対応が行われたことが発表されました。
本記事では、イーサリアムの主なレイヤー2ネットワークをまとめました。ぜひ本記事を通じて、理解を深めてみてください。
この記事の構成
レイヤー2ネットワークとは
レイヤー2ネットワークとは、レイヤー1ネットワークの上に存在するオフチェーンです。レイヤー2ネットワークは、レイヤー1ネットワークが抱えるスケーラビリティ問題を解決するための中心的な技術です。
主なレイヤー1ネットワークとレイヤー2ネットワークは以下が挙げられます。
◆レイヤー1ネットワーク
- ビットコイン
- イーサリアム
- バイナンススマートチェーン
- アバランチ
- テゾスなど
◆レイヤー2ネットワーク
- ポリゴン
- ディーワイディーエックス
- アービトラム
- ボバネットワーク
- スタークネット
- ベースなど
レイヤー2ネットワークは、レイヤー1ネットワークのブロックチェーンの外で取引処理を行います。流れとしては、レイヤー1ネットワークでのトランザクションやスマートコントラクトをレイヤー2ネットワークが中継し、代わりに処理を行います。
その後、レイヤー2ネットワークで行われた最終的な取引処理を、レイヤー1ネットワークに戻す仕組みです。レイヤー2ネットワークは、レイヤー1ネットワークの処理をサポートする存在と覚えておくといいでしょう。
近年は暗号資産取引が増加する中で、さまざまなレイヤー2ネットワークが生まれています。レイヤー2ネットワークには「トークンの発行がある」「イーサリアム以外のチェーンとの相関性がある」など、それぞれに特徴があります。
次からは、イーサリアムに対応した主なレイヤー2ネットワークを紹介していきます。
イーサリアムの主なレイヤー2ネットワーク
ここでは、イーサリアムの主なレイヤー2ネットワークを4つ紹介します。
- ポリゴン(Polygon)
- アービトラム(Arbitrum)
- ボバネットワーク(Boba network)
- ベース(Base)
それぞれ詳しく解説していきます。
ポリゴン(Polygon)
ポリゴン(Polygon)は、日本でも知名度の高いレイヤー2ネットワークです。ポリゴンのブロックチェーン上で使われる暗号資産「ポリゴン(MATIC)」は、SBI VC トレードやコインチェック、ビットバンクなど多くの国内取引所で取り扱いがあります。
ポリゴンはイーサリアムベースで開発されており、2017年にインド人のエンジニア3人によって誕生しました。誕生した当初、暗号資産ポリゴンはMatic Networkのネイティブトークンとして使われていました。2021年にはリブランディングにより、プロジェクト名が「ポリゴン(Polygon)」に改名されましたが、今も「MATIC」のシンボルは残り続けています。
ポリゴン(Polygon)の特徴
ポリゴンの特徴に、取引処理が速く手数料が安いことが挙げられます。ポリゴンの取引処理速度は「1秒間/6万5,000件」で、イーサリアムの「1秒間/12〜15取引」を大きく上回る数字です。手数料は一回の取引あたり数円程度で、混雑時には数千円にもなるイーサリアムと比較すると、大幅に費用を抑えられます。
ポリゴンの手数料削減と取引速度を向上させる技術として、スケーリングソリューションの「zkEVM(ゼロ知識イーサリアム仮想マシン)」があります。zkEVMはゼロ知識証明という、人やコンピュータが詳細を明らかにせずに知識を証明できる技術を導入しています。この技術によって取引証明のための検算数を少なくし、処理にかかる時間の削減を実現しました。
また、ポリゴンは環境にも優しいブロックチェーンです。2022年9月に実施されたイーサリアムの大型アップデート「The Merge」に合わせて、大量の電力を必要とするマイニングが不要な「PoS(Proof of Stake)」に移行しました。
ポリゴン(Polygon)の今後
ポリゴンは、イーサリアムにおける代表的なレイヤー2ソリューションであるとともに、有力なアルトコインでもあります。2024年4月15日現在の時価総額ランキングは17位で、世界的にも知名度が高いです。
スターバックスのWeb3プロジェクト「スターバックスオデッセイ」やNFTゲームの「メイプルストーリー」など、さまざまなアプリケーションの開発が進んでいます。今後も取引のインフラとして、さらなる普及と発展が期待できるのではないでしょうか。
アービトラム(Arbitrum)
アービトラム(Arbitrum)は、2021年8月にメインネットの「アービトラム・ワン(Arbitrum One)」が正式に稼働した、比較的新しいレイヤー2ソリューションです。イーサリアムのスケーラビリティ問題を軽減させることを目的として誕生しました。
アービトラムのブロックチェーン上では、アプリケーションの開発が可能です。すでにDeFiやNFT、Web3プロジェクトが参加しており、現在は合計110億ドル(1兆6,500億円)以上がロックされています。
リリース当初は、アービトラムのブロックチェーン上にネイティブトークンが存在しませんでしたが、2023年3月に「アービトラム(ARB)」をエアドロップしました。国内ではOKコインジャパンやビットバンクなどで取り扱いがあります。
アービトラム(Arbitrum)の特徴
アービトラムの特徴として、2種類のメインチェーンが存在することが挙げられます。
2022年7月にはブロックチェーン「アービトラム・ノヴァ(Arbitrum Nova)」をリリースし、アービトラム・ワンとの2つが存在する形になりました。アービトラム・ワンはDeFiやNFT、アービトラム・ノヴァはブロックチェーンゲームやアプリに特化したチェーンです。
DeFi分野における代表的なチェーンであり、SushiSwapやAAVE、Curve、UniSwapなど著名なプロジェクトの開発が行われています。
また、アービトラムでは「アービトラム・ニトロ(Arbitrum Nitro)」「アービトラム・エニートラスト(Arbitrum AnyTrust)」を始めとした複数の技術を採用しています。これらの技術によって、セキュリティを維持しながら速く効率的に開発を進め、高い処理能力を実現しています。
アービトラム(Arbitrum)の今後
アービトラムは2023年3月に、運営主体がOffchain LabsからDAOへと移行しています。しかし、2023年4月にはアービトラム財団の資金用途に関する提案を行い、DAOの反対票が78%あったのにも関わらず、提案内容を実行したことが明らかになりました。
出鼻でDAOの意志が尊重されないという問題が露見したものの、2023年12月には取引処理が急増するなど、依然として活発な動きを見せています。今もなおDeFi分野では有力なチェーンである一方で、今後の運営には懸念が残ります。
ボバネットワーク(Boba network)
ボバネットワーク(Boba network)とは、イーサリアムや他のチェーンのスケーラビリティ問題の解決を目的としたレイヤー2ソリューションです。2021年9月に誕生し、ウィル・スミス率いるドリーマーズVCや、パリス・ヒルトンと夫のカーター・レウム氏のM13からも資金を調達したことで話題になりました。
ボバネットワーク上で使われるネイティブトークンには、ボバネットワーク(BOBA)があります。時価総額は2024年4月15日現在532位と順位は高くないものの、国内取引所ではビットトレードやビットバンクで取り扱いがあります。
ボバネットワーク(Boba network)の特徴
ボバネットワークの最大の特徴は、複数のチェーンにも対応している点です。対応しているチェーンには、イーサリアムと互換性のある「ファントム(FTM)」と「ムーンビーム(Moonbeam)」に加え、バイナンスが運営するレイヤー1ネットワークの「バイナンススマートチェーン」があります。
ボバネットワーク(Boba network)は、ブロックチェーンの相互運用性を実現しています。クロスチェーンプラットフォームとしての地位を確立しつつあり、数あるレイヤー2ネットワークの中でも特徴的な存在となっています。
ボバネットワーク(Boba network)の今後
ボバネットワークが複数チェーンに対応している点は、今後に大きな期待が持てるといえるでしょう。
現状、ほとんどのブロックチェーンは他のネットワークと接続できる仕様にはなっていません。年々ブロックチェーン上の取引は増えていますが、まだインフラは完全には整備されておらず、無駄が生じている状況です。
そうした状況の中で、ブロックチェーン同士を継ぎ目なくつなぐボバネットワークの需要が、将来的に増える可能性があります。
ベース(Base)
ベースは、米国の大手暗号資産取引所コインベースと、別のレイヤー2ネットワークであるオプティミズム(Optimism)が共同で開発を行っています。2023年8月9日に正式にリリースされた新しいレイヤー2ネットワークであり、上場企業から立ち上げられた初めてのブロックチェーンとして話題になりました。
ネイティブトークンは存在せず、コインベースのCEOであるアームストロング氏は「今後も開発する予定はない」と述べています。ガス代の支払いにはイーサリアムを利用し、将来的にはコインベースでの取引処理を「1秒1セント未満」とする目標を掲げています。
ベース(Base)の特徴
ベースは、メタマスクなどのEVMウォレットやコインベースウォレットに対応していることが特徴です。「オプティミスティック ロールアップ(Optimistic Rollup)」と呼ばれる、大量の取引データをまとめて処理して負担を軽減する技術によって、コストを抑えた送金を実現しています。
他にも、決済アプリやトークンのスワップ、取引所での流動性の提供、DAOの立ち上げなど、さまざまな活用事例があります。
ベース(Base)の今後
現時点では主にコインベースの取引処理で使われています。しかし、アームストロング氏は「将来的には他の暗号資産プロジェクトと相互運用可能な形で開発を進めたい」と述べているように、異なるブロックチェーンとも連携できる仕組みを構築していく意向を示しています。
最近ではコインベース以外の取引所も、レイヤー2ネットワークを立ち上げる動きがみられます。2023年11月にはOKXが「X1」の開発に着手、クラーケンが開発パートナーを探していると伝えられました。今後取引所の主導する開発が活発になる可能性があります。
まとめ
最近では暗号資産取引所も開発を進めているように、数多くのレイヤー2ネットワークのプロジェクトが誕生しています。近年の市場の盛り上がりや暗号資産プロジェクトの増加によって、この先さらに需要が増えていくことでしょう。
レイヤー2ネットワークはブロックチェーンの重要な技術である一方で、セキュリティや透明性の低さなどの課題も残ります。今後投資を検討する場合は、取引処理速度だけでなく、過去の実績や特徴などから総合的に判断してみてください。