ビットコインキャッシュやイーサリアムクラシックなど、ハードフォーク時に誕生して今も開発やマーケティング活動が続いている暗号資産(仮想通貨)は複数存在します。一方で、すでに開発が停止し、時価総額100位以下に落ち、人々の関心を失っているものも少なくありません。
本記事では、過去のハードフォーク時に誕生した暗号資産の今を詳しく紹介していきます。
この記事の構成
なぜハードフォーク時に新たな暗号資産が誕生するのか
ハードフォーク時には、元のブロックチェーンから分岐して新しいブロックチェーンが誕生することがあります。なぜなら、新しいブロックチェーンは元のブロックチェーンと互換性がなく、異なる暗号資産の発行が必要であるためです。
ハードフォークとは
ハードフォークは、おもにブロックサイズや取引の承認方法など、ブロックチェーンの仕様を大きく変更する際に行われます。ハードフォークは実施した以降のブロックすべてに対して仕様の変更を適用し、元のチェーンとの互換性がなくなります。
そのため、今まで取引の承認に参加していたノードやマイナーは、新しいルールを受け入れるかどうかを選ばなければなりません。一部が新しいルールを採用し、一部が古いルールを守ることを選択して意見が割れた場合には、元のチェーンから分岐して新しいブロックチェーンを作成する形をとります。
有名なものには、2017年8月のビットコインのハードフォークで、ビットコインキャッシュが誕生した事例があります。このハードフォークはビットコインの処理速度を改善するために行われ、新しいルールを適用したブロックチェーンでビットコインキャッシュが利用されることになりました。
ソフトフォークとは
ブロックチェーンの仕様変更には、ハードフォークの他にソフトフォークと呼ばれる方法があります。ソフトフォークは、ハードフォークと比較して軽度なプログラムの変更やバグの修正のために行われます。ソフトフォークは実施時点より前に生成されたブロックすべてに対して適用され互換性を保ちます。新たなブロックチェーンは作成されず、新たな暗号資産も誕生しません。
ソフトフォークでは過去のブロックすべてが変更されてしまうので、従来のルールを支持する人の意見が反映されない、という側面があります。そのため、実施するためにはコミュニティからの十分な指示を得ることが必要です。
次の見出しからは、具体的なハードフォークの事例について解説していきます。
イーサリアムクラシック
イーサリアムクラシックは、2016年9月にイーサリアムのブロックチェーンのハードフォークによって誕生した暗号資産です。2024年5月の時価総額ランキングは24位で、現在も開発が続いています。
イーサリアムクラシックが誕生した経緯
イーサリアムクラシックが誕生した背景には、「The DAO事件」というハッキング事件があります。The DAOとはドイツのSlock.it社が設立した「自律分散型投資ファンド」のことです。このファンドでは立ち上げ時に投資家からイーサリアムを集め、それを独自トークンと交換する流れで資金調達をしていました。
そうした状況の中でハッカーにプログラムの脆弱性を突かれ、360万ETH(当時約65億円)がハッキングされてしまいます。通常であれば、すぐに引き出されてしまう所ですが、盗み出したイーサリアムには「アドレスに資金を移動する指示を出してから28日が経過した後でないと一切引き出しできない」という制約がありました。
ハッキング判明後に、イーサリアムの創設者であるヴィタリック・ブテリン氏率いるイーサリアム開発チームは決断を迫られます。決断を下すリミットは28日間という中で、開発チームは以下の3つのうち、どれかを選択する必要があると考えました。
- 何の手も打たない:イーサリアムのシステムには問題がなく、一プロジェクトに対して手を打つことは非中央集権の思想に反する
- ソフトフォーク:被害額は戻らないが、盗まれたイーサリアムを使えなくする
- ソフトフォークとハードフォーク:盗んだイーサリアムを凍結し、さらにハッキング自体もなかったことにする
結果的に選ばれたのは「3」の方法です。ソフトフォークはバグが見つかったため、ハードフォークのみが実行されました。この時に元のブロックチェーンを引き継いだのがイーサリアムクラシックです。
最終的にハッカーは盗み出した金額を得ることができませんでした。しかしイーサリアムはひとまずの苦難を乗り越えた一方で、「誰もコントロールできないコントラクトを中央集権的に変更した」という点においては物議を醸しました。
イーサリアムクラシックの誕生後
当時は、イーサリアムクラシックの思想を支持する人も多くいました。しかし、思想だけではブロックチェーンは発展しません。イーサリアムのサポートを受けられないことで開発力を失い、数年の間にバイナンススマートチェーンやソラナなど後発のブロックチェーンに追い抜かれてしまいます。
現在はイーサリアムクラシックのブロックチェーン上では、ゲームやDeFi、NFTなどさまざまな分野のDAppsの開発が行われています。しかし、いずれの分野においても存在感を示せておらず、本家イーサリアムや競合のブロックチェーンとは大きな差ができている状況です。
ビットコインキャッシュ
ビットコインキャッシュは、2017年8月にビットコインのブロックチェーンのハードフォークによって誕生した暗号資産です。2024年5月現在の時価総額ランキング15位で、現在も開発が続いています。ハードフォーク後に誕生した代表的な暗号資産として知名度はもっとも高いといえるでしょう。
ビットコインキャッシュが誕生した経緯
2017年頃からビットコインの取引量が増え始め、手数料の高騰や取引処理に時間がかかるスケーラビリティ問題が発生するようになりました。スケーラビリティ問題の原因には、ビットコインのブロックサイズの小ささがあります。
ビットコインはブロックサイズは1MBで約10分に1つ生成され、1個あたり約2,000〜2,500の取引情報が含まれます。しかし、すでに2017年の段階でそのキャパシティを大きく超えており、少しでも早く送金したいというユーザーによって手数料が高騰するという事態が頻繁に発生し、利便性が損なわれていました。
そうした状況を解決するために、ハードフォークを行いブロックサイズを大きくすべき、という意見が増え始めます。ここで誕生したのがビットコインキャッシュです。ビットコインキャッシュではブロックサイズを8MBに拡大し、1つのブロックにより多くの取引情報が入るように仕様を変更しました。
一方で、ビットコインの中心的な開発グループは、ブロックサイズを大きくすることは時期尚早であり、セキュリティ面が損なわれるという姿勢を示しました。利便性と安全性のどちらを重視するかの決断を迫られ、最終的にブロックサイズを大きくすべきというチームが分岐することでビットコインキャッシュのブロックチェーンが誕生します。
ビットコインキャッシュの誕生後
ビットコインキャッシュは、2018年5月にブロックチェーンの分裂を伴うことなく再びハードフォークし、ブロックサイズを8MB→32MBへと拡大しました。スケーラビリティ問題への対策が強化されましたが、2018年11月にはビットコインキャッシュのコミュニティ内で対立が生まれます。
この対立では、ビットコインキャッシュでもDAppsの開発を行えるようにするというビットコインABC派と、ビットコイン創設者のサトシ・ナカモトの教えに反するので仕様を変えるべきではないというビットコインSV派に分かれました。
結果的に多くのマイナーを集め、長いブロックチェーンを形成したビットコインABC派が勝利し、ビットコインキャッシュの名を引き継ぐことになります。
現在ビットコインキャッシュは国内外の取引所に上場しており、決済手段としても採用されています。他の暗号資産とは異なる独自の強い値動きをすることもあり、多くの暗号資産投資家の関心を集めています。
ビットコインSV
ビットコインSVは、2018年11月にビットコインキャッシュのハードフォークによって誕生した暗号資産です。SVとは「サトシ・ビジョン」の略です。2024年5月現在は時価総額ランキング68位で、今も開発が続いています。
ビットコインSVが誕生した経緯
ビットコインSVは、ビットコインキャッシュのブロックチェーンから分岐する形で誕生しました。「ビットコインキャッシュの誕生後」の見出しでも述べたように、ビットコインキャッシュのDApps開発に反対する姿勢を示し、ハードフォークが行われた経緯があります。
ビットコインキャッシュには、受け入れの間口を広げる方針のビットコインABC派と、サトシ・ナカモトの意向に沿った開発を進めるビットコインSV派がありました。両者はそれぞれの方針の違いにより、ハードフォーク前から度々対立を繰り返してきました。
ビットコインSVの誕生後
ビットコインキャッシュのハードフォーク時には、従来の開発体制を維持するビットコインSV派とDAppsの開発を推奨するビットコインABC派に分かれました。両者はハッシュ戦争と呼ばれる「どちらが長いチェーンを作れるか」という競争を行い、最終的にビットコインABCが勝利します。
結果的にビットコインABCがビットコインキャッシュの名称を引き継ぎ、敗れたビットコインSVは独自路線で開発を進めることになりました。
2024年5月現在、ビットコインSVはビットコインキャッシュと大きな差を開けられています。2019年4月にはバイナンスの取り扱い銘柄から除外され、ここ数年はアップデート情報も乏しいです。
イーサリアムPoW
ビットコインSVは、2022年9月にイーサリアムのハードフォークによって誕生した暗号資産です。2024年5月現在の時価総額はランキング外で、2023年12月に開発の終了が発表されています。
イーサリアムPoWが誕生した経緯
イーサリアムPoWは、2022年9月に実施されたイーサリアムの大型アップデート「The Merge(マージ)」の際に誕生しました。この大型アップデートでは、イーサリアムの取引承認アルゴリズムがマイニングを必要とする「PoW(プルーフオブワーク)」から、保有する暗号資産を預け入れてブロックチェーンを運用する「PoS(プルーフオブステーク)」に変更されています。
イーサリアムPoWは、PoSへの意向による中央集権化に不満を持つ開発者や、従来のマイニング業者がイーサリアムを保存するために開発が進められていきます。
イーサリアムPoWの誕生後
イーサリアムPoWのリリース後は、期待感によって一時期「1ETHPoW=100ドル」に達したものの、すぐに20ドル程度にまで下落しています。
2023年9月には暗号資産運用会社のグレイスケール・インベストメンツが、流動性の低下を理由にサポートを打ち切り、そして同年12月には、正式にイーサリアムPoWの開発チームの解散が発表されました。
現在は分散的な仕組みで動いており、一部のDeFiから暗号資産イーサリアムPoWを購入できます。
まとめ
本記事で紹介してきた以外にも、ビットコインゴールドやスーパービットコイン、イーサリアムフェアーなど、ハードフォークによって誕生した暗号資産は多く存在します。しかし、いずれも時価総額は100位圏外で直近は目立った動きがなく、現時点では将来性に期待できないといえるでしょう。
今後は、ビットコインやイーサリアム以外でもハードフォークが行われる可能性があります。ハードフォーク後に生まれた暗号資産がどのような値動きをして道を辿るか、注目してみていきましょう。