バイナンスは世界でもっとも取引量の多い取引所であり、2024年7月14日時点では416種類の銘柄を取り扱っています。暗号資産(仮想通貨)市場に対する影響力も大きく、バイナンスでの取り扱いの有無が、その銘柄の将来を左右するといっても過言ではありません。
バイナンスでは定期的に新規銘柄の採用と廃止を行っています。以前まで廃止はマイナーなアルトコインが中心でしたが、最近では日本でも知られる有名な銘柄も対象になることが増えました。
本記事では、バイナンスの上場廃止基準や、直近で廃止された銘柄を紹介していきます。
この記事の構成
バイナンスの上場廃止基準とは
バイナンスでは、上場廃止についてのガイドラインを設けています。具体的には以下の通りです。
- 法的/コンプライアンスリスク
- プロジェクトの継続リスク
- 流動性リスク
- 倫理的リスク
「法的/コンプライアンスリスク」とは、各国の法律に抵触する可能性がある場合に適用されます。具体的にはSEC(米国証券取引委員会)がバイナンスを提訴した際、米国向けのサービスであるバイナンスUSが、アーべ(AAVE)やスシ(SUSHI)、コスモス(ATOM)などを廃止した例が挙げられます。
「プロジェクトの継続リスク」が適用される場合には、継続した開発が行われていない、または開発メンバーの逮捕やチームの解散などがあります。「流動性リスク」は取引量の低下、売りが相次いで時価総額が大幅に低下した場合が挙げられます。
「倫理的リスク」とは、詐欺行為や意図的な価格操作が行われた場合に適用されます。具体的には、2023年6月に欧州市場で、取引履歴やアカウント情報を匿名化できて犯罪に適用される恐れのあるダッシュ(DASH)やゼットキャッシュ(Zcash)、モネロ(XMR)などを廃止した事例があります。
なお、バイナンスでは一部の取り扱い通貨ペアのみを廃止することもあります。例えば、2024年7月5日には「IOST/BTC」が廃止されました。現状IOSTは「IOST/USDT」の通貨ペアで取引自体は可能ですが、今後の不安材料と考えていいでしょう。
バイナンスが上場廃止を発表した後には、その銘柄の価格が急落し、他の暗号資産取引所も追随して上場を廃止する傾向があります。例えば、日本でも人気のあったアルトコインのネム(XEM)はバイナンス上場廃止後に50%も暴落し、取引所コインチェックは販売所での売却の一時停止を発表しました。
時価総額の低いアルトコインに投資している人は、バイナンスの発表を注意深く見守るべきといえるでしょう。
バイナンスで上場廃止となった主な暗号資産
次に、バイナンスで上場廃止となった暗号資産4銘柄を紹介していきます。
ビットコインSV(BSV)
引用:https://www.bsvblockchain.org/
ビットコインSV(BSV)の概要
BSVは、2019年4月22日にバイナンスで上場廃止となりました。
BSVは、ビットコインキャッシュからハードフォークして、2018年11月に生まれた暗号資産です。オーストラリアのコンピューター科学者で、ビットコイン生みの親「サトシ・ナカモト」と自称する、グレイグ・ライト氏が深く携わっている暗号資産です。
ビットコインキャッシュがハードフォークした際は、DAppsの開発を推奨する「ビットコインABC派」と、サトシ・ナカモトの方針を支持する「ビットコインSV派」に分かれて対決しました。結果的にビットコインABC派が勝利してビットコインキャッシュの名前を引き継ぐことになり、ビットコインSVは独自で開発を進めることになりました。
ビットコインSVが誕生した後の2018年12月には、時価総額5位まで上昇しています。有力なアルトコインの一つでしたが、2019年4月中旬にバイナンスのCEOジャオ・チャンポン氏が上場廃止を示唆した後、次の週には正式に発表されました。
ビットコインSV(BSV)が取り扱い廃止になった理由
ビットコインSVが取り扱い廃止になった理由について、バイナンスは「定期的な審査による結果」と説明しています。当時の審査基準には「ネットワークやスマートコントラクトの安定性」「倫理に反する詐欺的な行為の証拠」などがありましたが、具体的には説明されていません。
一説には、CEOのジャオ・チャンポン氏の「グレイグ・ライト氏はサトシ・ナカモトではない!我慢の限界だ!」というツイートが大きく関係しているといわれています。
バイナンスの上場廃止後には、クラーケンやシェイプシフトなどの暗号資産関連企業も追随して、取り扱い廃止を発表しました。これについて、ビットコインSVは共謀して価値を不当に急落させたとして、最大2兆円規模の訴訟を起こしています。裁判は2024年4月に始まり、現在も進行中です。
ビットコインSV(BSV)の取り扱いがある国内取引所
ビットコインSVの取り扱いがある国内取引所は、ビットトレードのみです。バイナンスで上場廃止になって以降は話題になることも少なくなっており、現在は時価総額77位にとどまっています。
モネロ(XMR)
引用:https://www.getmonero.org/
モネロ(XMR)の概要
モネロは2024年2月20日に、バイナンスで上場廃止となりました。
モネロは2014年4月に発行された比較的古くからある暗号資産で、匿名性が高くプライバシー保護に優れていることに特徴があります。これらを実現しているのは「リング署名」と「ステルスアドレス」という技術です。
リング署名とは送金時に複数の秘密鍵を発行する技術です。通常ブロックチェーンでは1つしか秘密鍵が発行されませんが、モネロでは複数発行されるため誰が送金したかを特定することができないようになっています。
また、ステルスアドレスとは送金時に毎回異なるワンタイムアドレスを作成する技術で、他者からの情報閲覧を防止します。
モネロは匿名性が高くプライバシー保護に優れている特徴がある一方で、犯罪の送金や決済に悪用されやすいという側面もあります。
モネロ(XMR)が取り扱い廃止になった理由
モネロ(XMR)の取り扱い廃止は、バイナンスの上場廃止ガイドラインに基づく「法的/コンプライアンスリスク」と「倫理的リスク」に反していると判断されたためです。前の見出しでも述べたように、モネロはその高い匿名性から犯罪に悪用されやすいので、バイナンスの市場方針にそぐわないと判断されたことが理由と考えられます。
モネロの取り扱い廃止が発表された2024年2月6日には「1XMR=24,750円」「1XMR=20,400円」まで大きく下落しています。
他にもモネロと似たような特徴を持つ、ダッシュやゼットキャッシュなども、ヨーロッパ地域限定で上場廃止となっています。これらの暗号資産はまだバイナンスで日本人向けには取引されていますが、いずれは廃止される恐れがあると考えていいでしょう。
モネロ(XMR)の取り扱いがある国内取引所
モネロの取り扱いがある国内取引所はありません。以前はコインチェックで取り扱いがありましたが2018年6月に廃止が決定し、日本円に換金した上で顧客の口座に振り込む形で幕引きとなりました。
ネム(XEM)
引用:https://nemproject.github.io/nem-docs/pages/
ネム(XEM)の概要
ネムは、バイナンスで2024年6月17日に上場廃止されました。
ネムは2015年に誕生した暗号資産で、ビットフライヤーやコインチェックなど、多くの国内取引所で取り扱いされてきました。ビットコインやイーサリアムと比較して送金速度が早く取引手数料が安いことが特徴で、保有量や保有期間などから得られるスコアによって報酬が付与される「ハーベスティング」を導入した暗号資産です。
しかし、2018年1月にはコインチェックがハッキングに遭い、当時の時価総額で580億円分のネムが盗まれる事件が発生しました。盗まれた分のネムは現金で補償されましたが、ブランドイメージを大きく毀損することとなってしまいました。
その後、2021年3月に大型アップデートを実施し、新たにシンボル(XYM)が誕生します。ネムは誰でも関係なく利用できるブロックチェーン、シンボルは公的機関や企業向けのブロックチェーンの暗号資産としての用途で用いられてきました。
ネム(XEM)が取り扱い廃止になった理由
ネムが廃止された理由は、バイナンスから具体的には言及されていません。具体的な理由は不明ですが、シンボルが誕生した後は値動きに乏しい状態が続いていたため、上場廃止ガイドラインの一つである、流動性リスクに関連すると考えられます。
バイナンスでは、ネムのアップデート後に誕生したシンボルの取り扱いもありません。かつては人気を博した暗号資産も、他のアルトコインに押されている様子が見受けられます。
ネム(XEM)の取り扱いがある国内取引所
現在、ネムの取り扱いのある国内取引所は以下の通りです。
- ビットフライヤー
- GMOコイン
- ビットトレード
- ザイフ
以前ネムの売買が盛んに行われていたコインチェックは、2023年後半から売却再開・一時停止を繰り返しています。
ウェーブス(WAVES)
引用:https://waves.tech/
ウェーブス(WAVES)の概要
ウェーブスも、ネムと同様にバイナンスで2024年6月17日に上場廃止されました。
ウェーブスは2016年に誕生した暗号資産で、ICO時点で1600万ドルもの資金を調達する期待感の高いプロジェクトでした。ウェーブスはイーサリアムと同様にブロックチェーン上でアプリケーションの開発ができ、さらに独自トークンを簡単に発行できることに特徴があります。
1秒あたり100取引、ガス代平均0.01ドルという高い処理能力は備えていたものの、ソラナやポリゴンなど後続のブロックチェーンに抜かれてしまいました。
現在ウェーブスのブロックチェーン上では、DeFiやメタバースなどさまざまなアプリケーションの開発が行われています。しかし、著名なアプリケーションはまだ確認できていない状況です。
ウェーブス(WAVES)が取り扱い廃止になった理由
ウェーブスが取り扱い廃止になった理由は明かされていません。理由は不明ですが、近年値動きが乏しかったため、流動性リスクが高いと判断された可能性が高いです。
ウェーブスは2022年3月末に「1WAVES=6,209円」をつけた後に暴落し、時価総額ランキングも年々下落しています。2022年5月に81位であった時価総額は、現在327位です。
ウェーブス(WAVES)の取り扱いがある国内取引所
ウェーブスの取り扱いがある国内取引所はありません。すでにバイナンスで上場廃止が発表されているため、今後国内取引所で採用されるケースも高くはないといえるでしょう。
バイナンスで上場廃止になるまでの流れ
バイナンスでは、突然上場廃止が発表されるわけではありません。
ここでは、具体的な流れについて解説していきます。
モニタリングタグ付きの銘柄に分類される
バイナンスでは、上場廃止となる前にモニタリングタグ付きの銘柄に分類されます。分類された銘柄は値動きが大きくなるケースがあります。そのため、ユーザーはバイナンスから出題されるクイズに回答して、リスクを受け入れた上での取引が必要です。
モニタリングタグ付きの銘柄は、上場廃止予備軍の立ち位置といえるでしょう。ただし、中にはモニタリングタグ付きの銘柄から除外され、一般的な暗号資産と同様に取引できるようになるケースもあります。
正式に上場廃止となる
モニタリングタグ付きの銘柄で取引量や状況に改善がない場合、正式に上場廃止となります。完全に取引できなくなるまでには約2週間ほどの時間がかかることが多いようです。
正式に上場廃止となった後は売買できなくなり、外部への送金だけができる状態になります。
まとめ
バイナンスでは、定期的に取り扱い銘柄の入れ替えが行われています。上場廃止が発表された後に20%以上さげた事例があるように、バイナンスでの取り扱いの有無はその銘柄の値動きに大きな影響を与えます。
時価総額の低い暗号資産を保有している人は、バイナンスの発表に注目するようにしましょう。