2024年4月、日銀は「CBDCに関する関係府省庁・日本銀行連絡会議 中間整理」を発表しました。
2020年より日銀主導で進められているCBDC計画ですが、進捗状況はどうなっているのでしょうか?関係省庁との連携は進んでいるのでしょうか?本記事では日本版CBDCの最新の進捗状況と、明らかになりつつある今後の課題についてわかりやすく解説します。
この記事の構成
CBDC
CBDC(Central Bank Digital Currency:中央銀行デジタル通貨)は中央銀行が発行する暗号資産です。DLT※を用いた高いセキュリティと利便性が期待できるため、世界各国は導入計画を進めています。
※ DLT(Distributed Ledger Technology:分散型台帳)
参照:NFT HACK「CBDCを導入している国は?国家主導の暗号資産が果たす役割」
CBDCの導入背景
- デジタル化の進展
- キャッシュレス決済の普及
- 決済システムの国際競争
CBDC導入の背景として、デジタル化の進展、キャッシュレス決済の普及、決済システムの国際競争が挙げられます。
デジタル化はさまざまな産業やシーンで進んでおり、金融分野も例外ではありません。すでに多くの人がデジタル技術を用いたキャッシュレス決済を利用しています。また、CBDCを導入することで中央銀行や各省庁は資金の流れを掌握しやすくなります。
国際金融の競争激化もCBDC研究・開発の要因です。現在は米ドルとSWIFTが国際決済の主要なシステムですが、CBDC導入が進むことでパワーバランスが変化する可能性があります。
関連記事:NFT HACK「SWIFTがブロックチェーン技術を導入する狙いとは?」
CBDCに関する世界各国の取り組み
国・地域 | 開発段階 | 主な取り組み |
バハマ | 実装済み | 世界初の一般利用型CBDC「Sand Dollar」を発行 |
ナイジェリア | 実装済み | eNairaを発行 |
中国 | パイロット実験 | デジタル人民元(e-CNY)は260都市で使用 |
日本 | パイロット実験 | 2023年4月からデジタル円のパイロット実験を開始 |
ブラジル | パイロット実験 | 金融機関との閉鎖型パイロットプログラムを実施 |
インド | パイロット実験 | デジタルルピーのオフライン機能をテスト中 |
韓国 | パイロット実験 | 金融機関と連携したパイロットプログラムを実施 |
ロシア | パイロット実験 | パイロット段階でのCBDC実験を進行中 |
オーストラリア | パイロット実験 | eAUDで金融機関と協力 |
ユーロ圏 | 準備段階 | 2025年までにデジタルユーロの実装を目指す |
カナダ | 調査段階 | オフライン支払い機能についての分析ノートを発表 |
スウェーデン | 調査段階 | e-kronaプロジェクトを推進中 |
アメリカ | 調査段階(停滞中) | CBDCの進展は停滞?? |
世界各国でCBDCの開発が進展しており、実際に発行した国もあります。大勢としてはパイロット実験や準備段階といった国や地域が多いようです。一方、米国では規制上の課題や政治理由によりCBDC導入計画が停滞しています。
関係府省庁と日本銀行の連携
日本銀行と関係府省庁はCBDCの実証実験で密接に連携するようになりました。CBDCの導入から運用は日銀だけで完結できるものではないからです。各省庁との調整、法整備の観点から内閣府とも話し合う必要があります。
連携の概要
機関 | 役割・担当 | 具体的な取り組み内容 |
日本銀行 | CBDC全体のコーディネート | 実証実験の実施、技術評価
金融システムの設計 |
経済産業省 | 産業政策と技術支援 | デジタルインフラの整備、技術支援 |
金融庁 | 規制と監督 | 金融規制の整備
セキュリティ基準の設定 |
総務省 | 通信インフラとデータ管理 | データ保護、通信インフラの整備 |
財務省 | 予算と財政政策 | 財政政策の調整、予算配分 |
内閣府 | 政策全体の統括 | 政策の統一、各機関の調整役 |
CBDC導入に向けて、日本銀行は各省庁や内閣府との連携を深めています。また、外部の有識者や技術者へのヒアリングも行うことで、より現実的な導入プロセスを模索しています。
具体的な取り組み内容
日本銀行と関係府省庁はCBDC導入に向け、「実験用システムの構築」と「CBDCフォーラムの運営」に取り組んでいます。
実験用システムの構築では中央システムからエンドポイントデバイスまでの包括的なネットワークを設計し、性能試験やセキュリティ検証を実施しています。
CBDCフォーラムではリテール決済に関わる民間企業と連携し、技術的な課題やサービスの開発について議論しています。ユーザーのプライバシー保護、KYC(顧客確認)、AML(マネーロンダリング防止)などのテーマについても話し合われており、政策立案や技術開発に向けた具体的なフィードバックの場となっています。
CBDCフォーラムの活動
CBDC導入に向けた最新情報やインサイトが得られるCBDCフォーラムについての概要と議論内容をまとめて解説します。
フォーラムの目的・参加者
CBDCフォーラムはCBDC導入に向けた技術、制度、社会的課題を総合的に議論し、解決策を模索する場です。
参加者は日本銀行、関係府省庁、金融機関、テクノロジー企業、学術研究者など多岐にわたります。実務者や専門家の意見を集約し、政策立案や技術開発に反映させるための重要なプラットフォームとなっています。各ワーキンググループはテーマごとに分かれて活動し、より実現可能で効果的なCBDC導入プロセスを話し合います。
ワーキンググループの議論内容
各ワーキンググループ(WG)の役割や議論テーマを具体的に紹介します。
WG1「CBDCシステムと外部インフラの接続」
デジタル通貨の流通を実現するために、既存の金融インフラ、決済ネットワーク、デジタルプラットフォームの連携方法を議論するグループです。 パイロット実験においては銀行間決済システムとの接続を検証しました。
WG2「追加サービスとエコシステム」
CBDCのネットワーク上で提供可能な金融サービスやアプリケーションを議論するグループです。デジタルウォレットやスマートコントラクトの可能性についても話し合われます。既存金融サービスとの連携、新たなWeb3サービス開発も重要なテーマです。
WG3「KYCとユーザー認証・認可」
CBDCのセキュリティ部分を議論するグループです。具体的なテーマとして、KYC手続きやユーザー認証のセキュリティ基準が挙げられます。プライバシー保護と不正防止を両立させる認証システムの実現に向けて、技術的な議論も進められています。
WG4「新たなテクノロジーとCBDC」
ブロックチェーンの仕様に関するテーマが議論されるグループです。DLTや暗号技術、スケーラビリティといったブロックチェーンの質を向上させるための最新テクノロジーについて話し合われます。
WG5「ユーザーデバイスとUI/UX」
CBDCのユーザビリティ向上をテーマに掲げるグループです。利用者目線でCBDCのメリット・デメリットを明らかにし、「使いやすいCBDC」について話し合われます。パイロット実験ではスマートフォンアプリのプロトタイプでユーザーテストを実施しました。
参照:日本銀行「CBDCフォーラム」
参照:NEC「日本のCBDC実現に向けた課題と可能性:KYC、認証・認可、セキュリティへの取り組み」
技術的な進捗状況
日本銀行は2023年4月から開始したパイロット実験を通じて、CBDCの技術的な実現可能性を検証しました。
実際にCBDCを使用するエンドポイントデバイス(スマートフォン)から中央システムまでのデータフローを確認し、外部システム接続での課題も特定しました。
【パイロット実験成果】
- 機能の実用性を確認
- DLTの品質を確認
パイロット実験では、CBDCシステムの基本機能(発行、払出、送金、受入、還収)の動作確認が行われ、成功しています。オートチャージ機能も実装可能であることがわかりました。
システムの性能評価では、通常時のスループットが数万件/秒、ピーク時には10万件以上を達成するなど、高負荷環境下での安定性が確認されました。
主要な課題と対応策
パイロット実験ではCBDCのメリットだけでなく、課題も明らかになりました。具体的にはセキュリティとプライバシー、また他決済手段との関係性の課題です。
セキュリティとプライバシー
CBDC導入において、セキュリティとプライバシーの確保は最重要課題です。CBDCはDLTの性質上、取引履歴がオープンになります。もし、ウォレットアドレスが個人情報と紐づけられたら消費生活が丸見えになります。
個人情報の保護においては、データ管理部分と決済部分を分離することが提案されています。しかし、どのような技術でこのようなセキュリティが実現するのかは不透明なままです。
他の決済手段との共存
CBDCの導入で既存のデジタル決済手段は淘汰されていくのでしょうか?もし、他のデジタル決済ビジネス、Web3ビジネスが後退してしまうのであれば問題です。
CBDC自体がマルチチェーンに対応するのか、もしくはCBDCチェーンが他のWeb3ビジネスを受け入れるのか、ソリューションが求められています。
今後の展望
CBDCのパイロット実験が着実に進む一方で、実用化プロセスにおいては法整備も大切です。国際競争力を維持向上させるうえでも、議論をさらに進める必要があります。
法令面の対応
CBDC導入にあたり、暗号資産特有のリスクや運用上の課題を考慮した法的枠組みを整備する必要があります。これにはプライバシー保護やマネーロンダリング防止、テロ資金供与対策などが含まれます。
国際動向と日本の立ち位置
日本は国際的にみてCBDCの導入に積極的であるといえます。Web3に関しても比較的理解があります。近年、国際送金・決済に日本円が使用される割合は2%台です。CBDCの技術的課題と法整備を進めることで、国際金融で再びプレゼンスを発揮できるかもしれません。
多くの国々でCBDC導入の取り組みは進んでいる一方で、先進国で実装を果たした国はまだありません。日本は早期にCBDC導入を果たし、リーダーシップを発揮できるのでしょうか。これからの動向に注目が集まります。
参照:デジタル庁「Web3.0研究会」
参照:Reuters「ローカル化する円、没落回避にできることは何か」
まとめ
以上、2024年4月に日銀が発表した「CBDCに関する関係府省庁・日本銀行連絡会議 中間整理」を基にCBDC導入の最新進捗状況をまとめました。
パイロット実験は順調に進み、各関係省庁との連携も進んでいることがわかります。一方で、技術的課題や法整備の問題なども明らかになりました。日本円のユーザビリティ向上と国際競争力強化を進めるうえで、CBDC導入は大きな役割を果たすことでしょう。CBDC導入に向けた日銀や政府の動向に注目していきましょう。