かつては、日本から自由に海外暗号資産(仮想通貨)取引所の口座開設ができました。日本からでも海外取引所のサービスをすべて使えていましたが、2023年に入ってからは提供を停止し撤退を表明するケースが増えてきています。
日本でもっとも有名なバイナンスのグローバル版の取引所も、2023年11月末に撤退を発表しました。現在は「バイナンス ジャパン」へ移行して、日本居住者向けにサービスを提供しています。
また、近年は日本国内でも規制が厳格化しています。各取引所がトラベルルールへの適用を求めており、暗号資産保有者もこうした規制へ対応していくことが必要です。
本記事では、2023年以降の海外取引所の撤退事例や、国内取引所の規制トラベルルールについてまとめました。
この記事の構成
海外取引所の撤退が続いている理由
海外取引所の撤退が続いている理由は、主に以下が考えられます。
- 金融庁の警告
- 資金決済法の改正
- 日本支社のコストが増加
- 海外取引所に対する信頼性の低下
金融庁は日本居住者向けにサービスを提供する海外取引所に対して、度々警告を行っています。具体的には以下の通りです。
◆金融庁「無登録で暗号資産交換業を行う者の名称等について」より抜粋
取引所名 | 理由 | 掲載時期 |
バイナンス | インターネットを通じて、日本居住者に対して、暗号資産交換業を行っていたため | 平成30年3月、令和3年6月 |
バイビット | インターネットを通じて、日本居住者に対して、暗号資産交換業を行っていたため | 令和3年5月 |
ビットフォレックス | インターネットを通じて、日本居住者に対して、暗号資産交換業を行っていたため | 令和5年3月 |
MEXC | インターネットを通じて、日本居住者に対して、暗号資産交換業を行っていたため | 令和5年3月 |
日本では、暗号資産事業を行う事業者に対して、以下の法律が定められています。
- 平成29年4月:資金決済法の改正「暗号資産交換業者は金融庁・財務局への登録を義務付ける」
- 令和2年5月:資金決済法等の改正法1「暗号資産の売買等を行わず、利用者の暗号資産の管理等のみを行う事業者も登録を要する」
暗号資産の事業を行う事業者は、金融庁への登録が必要です。金融庁へ登録するためには、法律への適用を始め、資金の管理体制やシステムの安全性、コンプライアンスの準拠、日本人向けの窓口の設置、オフィスの設立など多くのコストと時間を要します。
こうしたコストや時間と、日本市場の魅力を天秤にかけて、撤退を選択するケースも増えています。
また、ハッキング事例や破産の懸念から、近年海外取引所の信頼性が下がっています。具体的な事例は以下が挙げられます。
- 2021年12月:ビットマートから1億9,600万ドル(約230億円)相当の暗号資産が流出
- 2022年7月:バイナンスから5億7000万ドル(約830億円)相当の暗号資産が流出
- 2022年11月:大手暗号資産取引所FTXが破産
ハッキングにあったビットマートやバイナンスは、いずれも顧客の資産に対して補償を行うことを発表しています。一方で、FTXに資金を預けていた顧客に対する返済はまだ行われていません。2024年4月時点では、2024年末までに返済を開始することを目標としています。
こうした事例が海外取引所に対する信頼性の低下を招き、利用を控える人が増えています。
日本から撤退した海外取引所
2023年〜現在までに、日本から撤退した主な海外取引所を解説していきます。
なお、撤退済みの海外取引所で日本から口座を作ろうとしても「現在、お客様居住する地域へのサービスは提供しておりません。」などの表記が出ます。暗号資産の取引は、資産の保護やトラブル回避のために、規制に沿った適切なプラットフォームで行うことが重要です。
2023年1月末:コインベース
コインベースは米国の暗号資産取引所です。暗号資産総合情報サイト「CoinMarketCap」の、流動性や取引量などに基づき判断されるランキングで第2位にランクインしています。
コインベースは、2016年に設立され2021年からは個人向けサービスを提供していました。しかし、業界全体の景況悪化と競争激化を受けて2022年から段階的に従業員を解雇し、2023年1月に日本市場からの完全撤退を発表しています。
2023年1月20日から法定通貨の入金を禁止し、2月17日以降に保有している暗号資産は自動的に日本円に変換されます。その後は、法的要件に従って法務局に供託する措置が取られます。
2023年1月末:クラーケン
クラーケンは、CoinMarketCapのランキングで6位にランクインする大手暗号資産取引所です。
日本では暗号資産取引所の登録を行い、2020年10月よりPayward Asia株式会社を通じて「クラーケン・ジャパン」という名前でサービスを提供していました。しかし、日本市場の情勢悪化と暗号資産市場の低迷を理由に、2023年1月末を持って撤退の決断をするに至りました。
現在は海外取引所のクラーケン、国内取引所のクラーケン・ジャパンともに利用できません。
クラーケンは2018年にも一度撤退を表明しており、この時が2度目となります。ユーザーは2023年1月末までに外部に出金し、その後に残った資金は法務局に委託されます。
2023年6月末:OKX
OKXは、CoinMarketCapのランキングで現在3位と高い評価を受けている取引所です。
日本では2017年にOKグループの日本法人として設立され、2020年8月より「OKCoinJapan」としてサービスを提供しています。同時期にはグローバル版の「OKX」でも口座開設が可能でしたが、2023年6月27日に日本居住者向けのサービスを停止し、外部への出金処理が求められるようになりました。
現在日本居住者はOKXの利用はできず、OKJ(2024年8月にOKCoinJapanから名称変更)のサービスのみ利用できます。
2023年11月末:バイナンス
バイナンスは、日本でもっとも有名といえる海外取引所で、CoinMarketCapのランキングでは他を大きく引き離して1位にランクインしています。
2017年に設立されたバイナンスは、長らく日本居住者にグローバル版のサービスを提供してきました。豊富なアルトコインが購入可能で、高レバレッジでの先物取引やステーキングに人気がありましたが、法規制の遵守を理由に、2023年11月末から「バイナンス ジャパン」への完全意向を発表しています。現在、グローバル版のバイナンスは利用できません。
バイナンスのサービス停止後は、日本居住者の資産は自動的にバイナンス ジャパンへ移行されます。移行時点の取り扱い暗号資産の種類は34種類で、対象外の銘柄は出金が必要です。
現在のバイナンス ジャパンでの取り扱い銘柄数は50種類以上で、国内取引所でも多い部類に入ります。また、アルトコインのステーキングや貸し暗号資産などのサービスも提供しています。
2024年7月:Gate.io
Gate.ioは、2,200種類以上の暗号資産を取り扱う海外取引所で、CoinMarketCapのランキングでは7位にランクインしています。
Gate.ioは日本居住者に向けたサービスを提供してきましたが、2024年7月22日に新規の口座開設の停止を発表しました。この理由として「運営地域の管轄当局におけるコンプライアンス要請のため」と述べています。
今後公式サイトの日本語表記は削除しますが、アカウント移行に関する日本語窓口は引き続き維持していきます。また、資金の移動やアカウントの管理、サービス終了期間のスケジュールなどについては、追って発表される予定です。
2024年9月現在も継続して使える海外取引所
現在、日本人居住者が使える海外取引所としては主に以下が挙げられます。
- バイビット
- MEXC
- クーコイン
バイビットやMEXCは金融庁の警告を受けながらも、日本居住者に対してサービスを提供しています。
現時点で日本人ユーザーがこうした取引所を使い、法的な責任に問われた例はありません。しかし、日本国内の法律の保護を受けられず、分別管理されていない、セキュリティ管理が十分でない可能性があることには注意が必要です。
また、現在は問題なく利用できていても、突如サービスの停止が発表され、対応が必要となる可能性があります。海外取引所は、こうしたリスクがあることを理解した上で利用するようにしてください。
国内取引所による規制とは
2023年以降に発表された暗号資産規制の代表例として「トラベルルールの施行」が挙げられます。これは、マネーロンダリングやテロ組織へ資金供与の対策として導入されたものです。
このルールは、日本を含むアメリカやカナダなどの通知対象20ヶ国(2023年7月5日時点)にある取引所への送金時に適用されます。ユーザーが暗号資産を送金する際、送金者の氏名、住所、アカウント番号、国籍などの情報が取引所間で共有される仕組みです。
また、トラベルルールには「TRUST」と「Sygna」という2つの対応技術があり、取引所ではいずれかを採用しています。現在はそれぞれに互換性がないため、異なる技術を採用している取引所に対しての送付はできません。
例えばコインチェックではTRUST、DMMビットコインではSygnaを採用しています。この場合は、コインチェックからDMMビットコインに対して送金ができないということになります。
トラベルルールは、通知対象に含まれない国やメタマスクなどの個人ウォレットへ送金する際は対象外となります。そのため、適用範囲はまだ限定的です。
トラベルルールに関連して、2024年6月にビットバンク、8月にはコインチェックが、オンラインカジノの送信、受信に関する規制を発表しました。もし、オンラインカジノへ送金、もしくは入金があった場合には規約違反となり、資産凍結やサービス解約となる可能性があります。
まとめ
近年日本の法規制によって海外取引所が撤退、もしくは国内取引所として金融庁の許可を取りサービスを提供する、という対応を求められています。現在はMEXCやバイビットなどの海外取引所は利用できますが、将来的に制限がかかり外部への資金移動を余儀なくされるケースも十分にありえるでしょう。
日本は世界でも暗号資産に対する法規制が厳しいとされている国で、新たな規制が実施される可能性があります。今後ユーザーは、法律を十分に理解した上での利用が求められます。