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2025年初頭に予定されているイーサリアムの大型アップグレード「Pectra」とは?

解説系記事

イーサリアムは毎年大型アップグレードを実施しており、次回は2025年の初頭に予定されています。大型アップグレードの内容は毎年異なり、次回の「Pectra」ではトランザクション効率の向上やガス代の削減、セキュリティの強化などが中心となる見込みです。Ω

本記事では、イーサリアムの大型アップグレードPectraの詳細や、過去の事例などを詳しく解説していきます。

イーサリアムの大型アップグレードとは?

イーサリアムの大型アップグレードとは、仕様の変更や新しい機能の追加、取引スピードの改善などを目的とする大規模なアップデートです。

近年イーサリアムは、1年に1回のペースで大型アップグレードを実施しています。直近3年間で行われた大型アップグレードは以下の通りです。

2022年9月:ザ・マージ(The Merge)
2023年4月:シャペラ(Shapella)
2024年3月:デンクン(Dencun)

上記の中でも特に大きな変更点があったのは、2022年4月の「ザ・マージ(The Merge)」といえるでしょう。ザ・マージでは、取引の承認アルゴリズムがマイニングを必要とする「PoW(プルーフオブワークス)」から、預け入れによってブロックチェーンを運用する「PoS(プルーフオブステーク)」に変更されました。

この変更によってエネルギー消費量を大幅に削減。マイニングマシン設備に投資をしなくても、運用に参加できるようになりました。

大型アップグレード時の変更点は、EIP(Ethereum Improvement Proposal)で表現されます。直訳すると「イーサリアム改善提案」であり、EIP-の後には4桁の数字が付随します。大型アップグレード時にはEIPが複数登場し、それぞれの内容を確認することで全体感を把握できます。

イーサリアムの大型アップグレード「Pectra」とは?

ここでは、2025年初頭に実施される予定のPectraについて詳しく解説していきます。

Prague(実行層)と Electra(プロトコル層)アップグレードの2つで構成

イーサリアムの次期大型アップグレードPectraは、Prague(実行層)とElectra(プロトコル層)で構成されています。Pectraとはこの2つを合わせた名称です。

実行層のPragueとは、ブロックチェーンの取引処理とスマートコントラクトを行う部分です。ユーザーが行った送金や契約の実行など、ブロックチェーン上で処理されるすべての操作が実行されます。

プロトコル層のElectraとは、ネットワーク上でデータの正確性や信頼性を確保する役割を担っており、コンセンサス層と呼ばれることもあります。イーサリアムはステーク(ETHの預け入れ)を持つノード(参加者)が取引の検証を行う仕組みです。プロトコル層では「どうやって合意に達するか」を決めており、ネットワークの信頼性と透明性を保っています。

これらPragueとElectraの2つのアップグレードにより、イーサリアムネットワーク全体のパフォーマンスとセキュリティの大幅な向上が期待されています。

トランザクション効率の向上

Pectraには、トランザクション効率の向上を実現するための複数のEIPが含まれます。具体的には以下の通りです。

EIP-2935:ノードが保存するデータ量を減らしてデータ処理を効率化
EIP-6110:取引の承認を実行レイヤーに戻すことで処理の遅延を削減
EIP-7549:確認作業に必要な帯域を削減することでネットワーク負荷を軽減し、取引の処理速度を向上させる

イーサリアムは以前より、ネットワークの急速な成長によりスケーラビリティの課題に直面してきました。これは、トランザクション数の増加によって処理能力が追いついていないことが原因です。

今回のPectraアップグレードにより、トランザクション効率が改善され、スケーラビリティとパフォーマンスが強化されることが期待されています。

ガス代の削減

Pectraアップグレードには、ガス代削減を目的としたEIPが含まれています。具体的には以下の通りです。

EIP-7702:トランザクション処理やユーザー体験を大幅に改善

この改善は以下3つに分類されます。

Batching(一括処理):同一ユーザーによる複数の操作を1つの取引として実行可能にします。例えば、ERC-20の送金で必要な承認と送金操作を1回でまとめることができ、ユーザーの手間を削減します。

Sponsorship(手数料の肩代わり):別のアカウントがユーザーのガス代を負担する仕組みを実現します。例えば、サービス提供者がユーザーに代わってガス代を支払うことができるようになります。

Privilege De-escalation(権限の限定化):ユーザーはウォレットに対して権限を設定できるようになります。例えば「ERC-20トークンのみに制限」「1日あたりの使用量を制限」といった細かい制御が可能となり、セキュリティが強化されます。

EIP-7702によって高い柔軟性と利便性を提供し、ユーザー体験がさらに向上することになるでしょう。

バリデータの上限引き上げ

Pectraでは、バリデータの上限が32ETHから2,048ETHに引き上げられます。これによって、大規模なノード運用者の効率が向上すると予想できます。

具体的なEIPについては、以下の通りです。

EIP7251:32ETHの下限を維持しながら、バリデーターがより大きな有効残高を持つことを許可

現在の上限32ETHは下限へと変わります。32ETHは約1,600万円であり、高い参入障壁が残り続けるため、悪意のある攻撃者が複数のノードを立ててネットワークを操作するのは困難です。結果として、セキュリティは確保されます。

上限が2,048ETHに拡大されることで、以下のメリットが期待できます。

複数のノードを1つに統合できるため、運営コストが削減
サーバーの効率的な利用が可能
キー管理が単純化され、リスクが低減
監視やメンテナンスの負担が軽減
報酬の再ステーキングが効率化
ネットワーク全体の負荷も軽減

上限拡大により運営の効率化とコスト削減が実現し、より安定したバリデータ運営が可能になります。

2024年11月「メコン」テストネットをローンチ

2024年11月7日、イーサリアム財団はPectraの実施前に、開発者が試験できる短期間限定のテストネット「メコン」のローンチを発表しました。

イーサリアムのような大規模なブロックチェーンでは、メインネットへのアップグレード実装前にテストネットでの検証が不可欠です。テストネットとは、バグや脆弱性の早期発見、実環境に近い条件で動作確認、新機能による負荷の影響など、さまざまなことを検証できます。

過去の大型アップグレード後の様子

ここでは、過去のアップグレードの概要や、実施後の値動きについて詳しく解説していきます。

2022年9月:ザ・マージ(The Merge)

イーサリアムの「ザ・マージ(The Merge)」は、2022年9月15日に実施された歴史的なアップグレードです。冒頭でも述べた通り、イーサリアムはザ・マージでPoWからPoSへと移行し、ネットワークの消費電力を約99%以上削減することに成功しました。

イーサリアムの価格はザ・マージ前には徐々に上昇したものの、実施直後は売り材料となり、価格は下落しています。さらに、2022年11月のFTX破綻の影響があり、イーサリアムは約1,100ドルまで下落し、当初の期待とは異なる展開を見せました。

しかし、技術面では大きな成功を収めました。ネットワークの安定性が向上し、環境負荷が大幅に軽減されただけでなく、ステーキング報酬という新しい収益機会が生まれました。この変更は、投資家のイーサリアムへの参入を促進する要因となり、継続的な成長を支える基盤を築いたと評価されています。

2023年4月:シャペラ(Shapella)

イーサリアムの「シャペラ(Shapella)」アップグレードは、2023年4月12日に実施されました。このアップグレードの最大の特徴は、マージ以降にステーキングされたETHの引き出しを可能にした点です。

シャペラ実装後、予想されていた大量の引き出しと価格暴落は起こりませんでした。むしろ、ステーキングしたETHの引き出しが可能になったことで、新規のステーキング参加者が増加しています。これは、以前はロックされる期間が不明確という懸念が取り除かれたためです。

アップグレード後、イーサリアムのステーキング率は着実に上昇し、流動性の向上とネットワークの分散化が進みました。また、ステーキング報酬の受け取りがスムーズに行えるようになったことで、より健全なステーキングエコシステムが形成されました。この変更によって機関投資家からの信頼も高まり、イーサリアムの長期的な成長に寄与しています。

2024年3月:デンクン(Dencun)

イーサリアムの「デンクン(Dencun)」アップグレードは、2024年3月13日に実施されました。このアップグレードの中心的な要素は、EIP-4844(Proto-Danksharding)の導入であり、レイヤー2のガス代削減を進展させました。

EIP-4844によって、新しいトランザクション形式「Blob」が採用され効率的にデータを管理できるようになり、ガス代は大幅に低下しています。

一方で、価格動向に関しては、アップグレード直後に目立った上昇は見られませんでした。アップグレードの効果が価格に反映されるのは、中長期的になると予想されています。

デンクンは、イーサリアムネットワーク全体の効率性を高め、レイヤー2の利用を推進する重要なアップグレードと位置づけられています。

まとめ

イーサリアムの大型アップグレードPectraでは大きな仕様変更はなく、主にブロックチェーンの処理能力向上やバリデータの上限引き上げなどが中心となる見込みです。

2025年第一四半期に予定されるPectraは2段階に分けて実施され、イーサリアムの効率性と安定性を高める重要な取り組みとなります。

イーサリアムはアップグレードを通じて、より効率的で持続可能なブロックチェーンへと進化を続けています。今回のPectraアップグレードもまた、その重要な一歩となることでしょう。

S.G

SG

月間100万PV超えの投資情報サイトや、ニュースサイトなど、暗号資産に関する記事を数多く執筆するフリーランスのライター。自身も2016年から暗号資産投資を行なっており、日進月歩の進化を遂げる暗号資産業界を常に追ってきた。ライター歴は3年で「文章で読者をワクワクさせ、行動に移させる」をモットーに執筆を行う。東南アジア在住、海外留学の経験があり、英語の翻訳記事も得意にしている。
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