生成AIの利用拡大、メタバース構築における3DやXRコンテンツへの需要などから、計算リソースであるGPUへの注目は高まっています。
一方で、GPUは高価な計算リソースであり、保有には大きなコストがかかります。そこで注目されているのが、GPU計算リソースの共有システム「Render」です。本記事ではRenderの概要、使い方、注意点をまとめて解説します。
この記事の構成
Renderとは?
Renderは、DLTを用いたGPUレンダリングネットワークです。クリエイターや開発者からの高まるGPUの計算リソースニーズに対し、GPUの個人オーナーが余剰の計算リソースを提供するシステム(マーケットプレイス)を提供します。
Renderは、米国のソフトウェア会社「OTOY, Inc.」の創設者であるジュールス・ウルバッハ(Jules Urbach)によって開発が進められました。2017年10月に最初のパブリックトークンセールを実施し、2020年4月27日に正式にチェーンが稼働しています。
ハリウッド映画監督のJJ Abrams、エンターテインメント業界の実業家Ari Emmanuelによる支援を受けていることにも注目です。
サイト・SNS | URL情報 |
公式サイト | https://render.x.io |
https://twitter.com/rendernetwork | |
Discord | https://discord.gg/rendernetwork |
https://www.reddit.com/r/RenderNetwork/ | |
Medium | https://rendernetwork.medium.com/ |
http://facebook.com/rendernetwork | |
Render Network Foundation | https://renderfoundation.com |
Renderの仕組み
Renderはどのような仕組みで稼働しているのでしょうか?ここではRenderの特長、ネットワーク参加者と役割、$RENDERの概要を解説します。
Renderの特長
- 個人でもGPUを提供できる
- クリエイターは必要な時だけGPUを使える
- DLTの活用
個人ユーザーはノードオペレーターとして、自身のGPUの計算リソースを提供することで、利益を上げることができます。GPU計算リソースを利用するのは主にクリエイターです。クリエイターは高スペックなGPUやクラウドコンピューティングを利用しなくても、必要な時に必要な分だけ計算リソースを使うことができます。また、DLTによって使用歴が管理されるためネットワークの不正利用は防がれます。
Render Network参加者
Render Network参加者はクリエイター、ノードオペレーター、そして$RENDERホルダーです。クリエイターはGPU計算リソースを使用する側です。ノードオペレーターはGPU計算リソースを提供します。$RENDERホルダーはRenderプロジェクトの開発・運営など、ガバナンスに参加できます。
$RENDER
$RENDERはRenderのガバナンストークンであり、ユーティリティートークンです。クリエイターの支払い、ノードオペレーターの報酬、プロジェクトのガバナンスに使用されます。
$RENDERは国内取引所で入手できないため、海外取引所やDEXで購入する必要があります。イーサリアムネットワーク、Solanaチェーン、Polygonチェーンで利用可能です。
Renderの使い方
Renderの使い方として、GPU使用者側とGPU提供者側のプロセスを解説します。
GPUの使用者側(クリエイター)
クリエイターは事前に取引所などで$RENDERを入手しておく必要があります。また、メタマスクやソラナ対応ウォレットの準備もしておきましょう。
1.シーンのアップロード
まず、レンダリングしたい3DシーンファイルをRenderにアップロードします。2024年10月時点で、対応するフォーマットは、C4D(Cinema 4D)とORBXファイル(OctaneRender対応)です。
OctaneRender Standaloneを使ってシーンをORBXファイルとしてエクスポートしてテストします。シーンデータが正確にエクスポートできるかを、レンダリング前に確認します。
2.ジョブの設定
アップロードしたシーンを選択し、「新しいジョブ」を作成します。次に、必要なレンダリング設定(解像度、フレーム範囲、サンプル数、出力形式など)を入力します。レンダリングの優先順位(優先Tier 2、経済Tier 3)を選択し、コスト見積もりツールを使って価格を確認します。支払いは$RENDERです。
設定が完了したらジョブをネットワークに送信します。
3.レンダリング & ダウンロード
ジョブ送信後にレンダリングが開始されます。レンダリング中はログオフしても問題ありません。コンテンツが生成されたら、ウォーターマーク付きのプレビューを確認し、品質をチェックします。フレームを承認または拒否することが可能です。拒否されたフレームは自動的に再レンダリングされます。
承認後にフル解像度のバージョンをウォーターマークなしでダウンロードできます。
4.C4Dウィザードを使用 (Cinema4Dユーザー向け)
このステップはCinema 4Dユーザー向けの説明です。「Render Network® Wizard」プラグインを使用して、シーンの確認、パッケージング、ジョブ送信を自動化できます。シーンを事前にチェックし、プロジェクトファイルのエラーを防ぐことが可能です。
事前にプラグインをインストールしておく必要があります。
ダウンロードページ:Welcome to The Render Network Wizard (Cinema4D)
ダウンロード/インストールが完了したらCinema 4Dを起動し、「Extensions」メニューから「Render Network」を選択してウィザードを起動します。
GPUの提供側(ノードオペレーター)
ノードオペレーターに必要なのは、スペックの高いPCと報酬受取用のウォレット、専用アプリです。
1.申し込み
最初に「Render Network Interest Form」に必要事項を入力して、ネットワーク参加を申し込む必要があります。申し込みが承認されるとオンボーディングキューに追加され、その後に詳細なオンボーディング情報が送られてきます。
2. ハードウェアの準備
ノードオペレーターのPCには推奨されるスペックがあります。GPUは、NVIDIA製のCUDA※1対応GPUが必要です。VRAMには6GB以上、RAMは32GB以上、ハードディスク容量は100GB以上のSSDが推奨されています。
また、高速で安定したインターネット接続が確保されていなければなりません。
※1 CUDAはGPUが利用する計算プラットフォームのことです。
3.Render Networkクライアントのインストール
Render Networkチームから送られてくるアプリケーションをダウンロードし、インストールします。
クライアントを起動し、メタマスクまたはソラナ互換ウォレットの情報を入力します。
設定するウォレットはRenderトークンの受け取りに使用するものです。
4.ジョブの実行と報酬の受け取り
レンダリングジョブが割り当てられると、ノードはジョブを処理します。処理が完了した後、クリエイター側は24〜48時間以内にジョブを承認することになります。承認されると、$RENDERが報酬として支払われます。
Render利用上の注意点
Renderを利用するうえでの注意点をクリエイターとノードオペレーターの観点から解説します。
GPUの使用側(クリエイター)
Renderトークンの購入
Renderトークンは大手CEXなどでトレード可能です。しかし、日本国内の取引所ではリスティングされていません。よって、日本人クリエイターがRenderを使用する場合は、トークン取得には手間がかかります。普段からDEXや海外CEXを利用している方は問題ないでしょう。
専門知識が必要
「rndr-config.ini」という設定ファイルで、どのGPUを使うか、GPUの優先設定(レンダリング、ノイズ除去など)を細かく調整できます。しかし、コマンドライン入力に理解がないと難しいプロセスになります。必要に応じて、専門家や経験者に相談しましょう。
GPUの提供側(ノードオペレーター)
CPUやGPUの過負荷
OctaneRenderとRender Networkクライアントは、GPUを最大90%以上のフルパワーで動かすことができます。電源ユニット(PSU)が十分な電力を供給できるか確認することが大切です。
ジョブの失敗
ノードオペレーターがGPUやCPUを多く消費するタスクを並行して実行する場合、ジョブの失敗につながる可能性があります。これは、ノードオペレーターの信頼スコア低下にもつながってしまうので注意が必要です。
非アクティブ状態の管理
3か月以上GPU提供をしないとノードが「期限切れ」とみなされ、再申請が必要になる場合があります。
これからのRender
2024年に入り、DePIN※2プロジェクトへの期待は高まっています。Renderの他にもローカル気象情報を活用するWeatherXM、自動車データ収集のDIMOなど、革新的なDePINサービスが充実してきています。
2021年はNFTブーム、2022年はBCGブーム、2023年はTradiFiへの統合ブーム、そして、2024年はDePINが大きな存在感を発揮しました。DLTが既存インフラに活用され始めたことで、Web3の実用性が認識され、ビジネスチャンスは拡大しています。まだまだ実社会でWeb3がカバーしていない分野は多くあります。これからのDePINプロジェクトへ注目があつまります。
※2 DePIN(Decentralized Physical Infrastructure Network:分散型物理ネットワーク)はDLTを実社会のインフラに活用する技術です。
関連記事:DePIN(分散型物理インフラネットワーク)とは?特徴・仕組みや関連プロジェクトを解説
関連記事:WeatherXMとは?気象データの提供でWXMを稼ぐシステムを解説
関連記事:DIMO(ディーモ)とは?自動車データの提供で収益を得られるDePIN
まとめ
AI開発、メタバースやXRコンテンツ開発によってGPU計算リソースに対する需要は高まっています。しかし、クリエイターにとって計算リソースの拡充は大きなコストです。Renderを用いればクリエイターはいつでも必要な分だけGPU計算リソースを利用することができます。時代のニーズを上手くカバーし、Render Networkには更なる成長が期待されます。