2024年11月21日に金融庁発表の事務局説明資料で「暗号資産・電子決済手段仲介業(仮称)」が取り上げられました。日本では暗号資産を取り扱うビジネスをする場合、暗号資産交換業者や電子決済手段取引業者といった事業者登録が必要で、暗号資産・電子決済手段仲介業の新設はWeb3ビジネスへの参入障壁を下げ、新たなビジネスチャンスをもたらす可能性があります。
本記事では、暗号資産・電子決済手段仲介業の概要、新制度がもたらすビジネスチャンス、今後の展望について解説します。
この記事の構成
暗号資産・電子決済手段仲介業とは?
出典:金融庁「事務局説明資料」
暗号資産・電子決済手段仲介業は、暗号資産を含めた電子決済手段の取引を仲介する事業です。暗号資産や電子マネーの売買・交換の「媒介」のみを業務とし、ユーザーの資産は預かりません。
なお、2024年11月時点で「暗号資産・電子決済手段仲介業」は仮称であり、その業務内容や規制は決定事項ではありません。金融庁を主体として、既存の金融仲介業である「金融商品仲介業者」や「金融サービス仲介業者」を参考にして議論が進められています。よって、本記事も考察を含んだ内容であることをご理解ください。
既存の暗号資産交換業者や電子決済手段取引業者との違い
項目 | 暗号資産交換業者 | 電子決済手段取引業者 | 暗号資産・電子決済手段仲介業者
(予定されている事項) |
主な業務内容 | 暗号資産の売買・交換
資産の管理 |
電子決済手段の売買・管理 | 暗号資産や電子決済手段の取引媒介 |
資産の管理 | 金銭・暗号資産を分別管理
コールドウォレット保管 |
金銭や電子決済手段を信託
分別管理 |
資産の預託なし |
規制対応 | 資金決済法 | 左同様 | 資金決済法?改正/新法? |
参入条件 | 登録主体は株式会社
資本金1,000万円以上 |
左同様 | 資本金要件不要 |
新設される暗号資産・電子決済手段仲介業は、既存の暗号資産交換業者や電子決済手段取引業者とは異なり、取引の当事者ではなく媒介のみを行います。利用者の資産を預かる必要がなく、資産流出リスクは限定されます。
一方、交換業者や取引業者は、売買・交換だけでなく、資産の管理も担います。資金決済法に基づき経営監督され、参入条件も資本金1,000万円以上の株式会社ということで厳しくなっています。
新制度導入の背景~暗号資産・電子決済手段仲介業へのニーズ~
BCG※1やDeFi※2といったWeb3ビジネスの拡大に伴い、新しい暗号資産の仲介モデルが必要とされています。
例えば、ゲーム会社などがDApps※3を自社で作成し、暗号資産や電子決済手段の取引を仲介するとします。現状では、このような仲介行為は資金決済法の「媒介」に該当する可能性があり、企業は暗号資産交換業者や電子決済手段取引業者として登録が求められます。
しかし、暗号資産交換業者や電子決済手段取引業者への参入する場合の法律やリソース対応の負担は大きく、ビジネスコストを増加させます。そこで媒介サービスだけを提供する事業者に応じた新制度として、暗号資産・電子決済手段仲介業が検討されています。
※1 BCG(Block Chain Game:ブロックチェーン技術を用いたゲーム)
※2 DeFi(Decentralized Finance:分散型金融)
※3 DApps(Decentralized Applications:分散型アプリケーション)
参照:財務省「金融庁説明資料(近年の資金決済制度の動きについて)」
参照:金融庁「暗号資産(仮想通貨)に関連する制度整備について」
新制度がもたらすビジネスチャンス
暗号資産・電子決済手段仲介業制度の導入は、新規事業者だけでなく既存事業者に新たなビジネス機会を提供します。この制度によりWeb3ビジネスへの参入障壁が下がり、規制対応の負担も軽減されます。
新制度が導入されると、買物ポイントのトークン化などが進むことが予想されます。いわゆるX2E※4といったDAppsを用いたビジネスが日本でも盛り上がっていくでしょう。ゲーム内通貨を暗号資産にスワップするといったサービスも出てくるかもしれません。
ここでは具体的に暗号資産・電子決済手段仲介業者が、どのようなビジネスを展開していくのかを考察していきます。
※4 X2E(X to Earn)は特定のタスクで暗号資産を稼げるサービスです。
1. 売買や交換の媒介(DeFi)
最初に、暗号資産の売買・交換の取引の仲介事業が挙げられます。具体例なビジネスとしては、暗号資産の購入希望者と売却希望者をマッチングさせるサービス、エスクローサービス※5などがあります。
※5 エスクローサービスは個人間取引(P2P)の安全性を担保するサービスです。
2. マーケティングやプロモーション支援
暗号資産交換業者や電子決済手段提供者のサービスを利用者に紹介し、利用を促進するビジネスも考えられます。広告やキャンペーンの一環として、特定の取引プラットフォームを案内するWeb3マーケティング事業です。
3. ホットウォレットの開発・提供
暗号資産決済を可能にするアプリやインターフェースの提供がビジネスになるかもしれません。この観点から、非カストディアル型ウォレット※6への法的な評価が進む可能性があります。既存のQRコード決済アプリやポイントアプリに、暗号資産取引仲介機能が実装される可能性もあるでしょう。
※6 非カストディアル型ウォレットは中央管理者を介さない分散型のウォレットです。
利用者保護と事業者負担の信頼性確保
暗号資産・電子決済手段仲介業新設の議論では、利用者保護と事業者負担の軽減も重要なテーマとなっています。そこでカギとなるのが所属制と経営の透明化です。
「所属制」の採用と損害賠償責任の明確化
出典:金融庁「事務局説明資料」
仲介業者が、特定の暗号資産交換業者や電子決済手段取引業者に所属する「所属制」が議論されています。所属制では、仲介業者を指導・監督する責任を所属先が負い、仲介業者が利用者に損害を与えた場合、所属先が損害賠償責任を果たすことになります。
所属制によって、利用者は安心してサービスを利用でき、事業者も信頼性を高めることができます。
仲介業者の広告規制や情報提供義務
資金決済法では、暗号資産交換業者や電子決済手段取引業者に対し、不適切な勧誘行為、利益の見込みについて事実と著しく異なる表示、人を著しく誤認させるような表示を禁止しています。
同様に暗号資産・電子決済手段仲介業でもこのような広告規制が課される可能性があります。また、事業者登録番号などもサイトやアプリなどに表示することが求められることが予想されます。これらは利用者保護の観点から、重要な取り組みといえます。
海外との比較と日本の強み
暗号資産市場の規制は各国で異なります。これまで先進国は規制重視、発展途上国は競争重視といった傾向がみられました。しかし、2024年11月にトランプ氏が米国大統領選に勝利したことで、米国は積極的な暗号資産戦略を進めていくと予想されています。
一方の日本は、かねてより暗号資産戦略で遅れをとっていました。しかし今、規制よりも競争重視に舵を切りつつあります。その具体的な取り組みの一つが暗号資産・電子決済手段仲介業制度導入といえます。
米国やEUにおける仲介業者に対するアプローチ
米国では、暗号資産に関する規制は州ごとに異なります。例えば、ニューヨーク州の「BitLicense」といった規制は仲介業者にも適用されます。国として統一された法律はありませんが、暗号資産取引所や仲介業者は、金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN※7)に「資金サービス事業者(MSB※8)」として登録する必要があります。
EUは「MiCA(欧州暗号資産市場規制)」の枠組みで暗号資産を扱う事業者(CASP※9)を規制しています。規制は2024年12月末までにEU地域全域で適用されるため、事業許可を得た企業はEU全域でWeb3ビジネスを行うことができます。
※7 FinCEN(Financial Crimes Enforcement Network)
※8 MSB(Money Services Business)
※9 CASP(Crypto-Assets Service Provider)
日本の強み~Web3推進のための環境整備~
日本は暗号資産に対するスタンスを規制から競争重視にシフトしているといえます。政府省庁における有識者会議、また税制改正議論などでWeb3サービス提供企業をバックアップするための対応を進めています。
具体的にはDAOに関するルール作り、暗号資産トレードに関する税制改正議論が挙げられます。税制面では、暗号資産の税金を雑所得(最大55%)から申告分離課税(20%)を目指します。今回の暗号資産・電子決済手段仲介業制度新設の議論も、Web3推進のための環境整備の一環といえます。
参照:自民党web3PT「web3PTホワイトペーパー2024」
まとめ
暗号資産・電子決済手段仲介業制度が実現することで、日本企業は新たなビジネスチャンスを広げることになります。いままでWeb3に接していなかった企業も、マーケティング戦略などで暗号資産を利用できるようになります。既存サイトのWeb3化、もしくはアプリにオンチェーン機能を実装するといった取り組みが進むのではないでしょうか?
米国大統領選でトランプ氏が勝利したことで、暗号資産市場は活気を取り戻しています。日本はWeb3に関する環境整備を進め、戦略的に暗号資産を利用していくことが重要です。まだ議論が始まったばかりの暗号資産・電子決済手段仲介業ですが、既存企業のWeb3利用拡大につながることが期待されます。
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