従来型の中央集権的なリーダーがいないにも関わらず、参加メンバーによる自主的な活動で運営される組織形態がDAO(自律分散型組織)です。
もともとはビットコインという「誰でも利用できるお金や金融インフラを作る」という目的から始まったDAOですが、現在は様々な活動・取り組みがDAOという組織形態で運営されています。
そこでこの記事では、数あるDAOの中でもユニークで面白い活動を行う12個のコミュニティに焦点を当て、その活動内容や特徴などを詳しくご紹介していきます。
現在の暗号資産(仮想通貨)市場において、DAOという組織形態でどのような取り組みがされているのか気になる方は、ぜひ最後まで参考にしてみてくださいね。
この記事の構成
DAO(自律分散型組織)という組織形態が改めて注目されている
現在、様々な活動や取り組みがDAOで行われており、改めてDAOというコミュニティの形が注目されています。
ここでは、そもそもDAOとはどういう組織なのかといった簡単な概要や、現在DAOと呼ばれているプロジェクトの注意点、またその活動内容によって分類されるDAOの種類についても徹底解説していきます。
DAOとは中央集権的なリーダーがいなくても自律的に運営される組織のこと
まずは、DAOという組織形態の概要から確認していきましょう。
DAOとは「Decentralized Autonomous Organization」という正式名称の頭文字をとった略語となっており、日本語では「自律分散型組織」と呼ばれています。
・Decentralized(分散):コミュニティ参加メンバーが地理的な要素などで分散している
・Autonomous(自律):自律的に運営されていく
英語の意味を確認すると上記のような内容となりますが、なかなか分かりにくいですよね。
DAOについてざっくり理解するなら、「会社の社長的なポジションやリーダーがいなくとも、同じ目的を持った人々が協力し、自律的に運営されていくコミュニティ」と考えておけば基本的には問題ないでしょう。
また、DAOと従来の中央集権的な組織の大きな違いとして、組織の意思決定がブロックチェーン上で行われるということです。
DAOでは基本的にガバナンストークンを保有している参加者の投票によって組織の意思決定が行われており、これはブロックチェーン上に記載されたスマートコントラクトを通して実行されています。
つまり、DAOという組織の要件として、同じブロックチェーンとガバナンストークンを共有しているということは覚えておきましょう。
現在DAOと名乗っているほとんどの組織は本質的なDAOではないため注意
このように、DAOは同じ目的を持って人々が協力して自律的に運営されていく理想的な組織形態ですが、正常に運営されていくのか疑問に思う方は多いのではないでしょうか?
そもそもDAOという形でうまく活動が回っていくなら、現在のように株式会社などにみられる組織形態が乱立しているのも考えにくいですよね。
実際、現在DAOと名乗っている組織の多くは本質的なDAOとは言えず、以下の2つのパターンが一般的となっています。
1. 現在は中央集権的であるリーダーが意思決定しつつ、徐々にDAO的な活動に移行していく組織
2. 最初からDAOという組織形態をとっているものの、うまく回らずに迷走している組織
DAOはある意味「民主主義の究極の形」とも言えますが、現状はその理想からかけ離れている組織が多いことは知っておく必要があるでしょう。
DAOは活動内容によっていくつかの種類に分類されている
このように、株式会社など従来の組織とは大きく異なるDAOですが、その活動内容によっていくつかの種類に分類することができます。
ここでは、DAOについて幅広く学ぶことができるメディア「DAO Central」での分類をご紹介していきます。
画像引用元:What is a DAO? (In 2022)
上記のように、DAO Centralによる2022年最新の分類では、様々な活動を行うDAOを10種類に分けて考えています。
- Investment DAOs:様々なプロジェクトに投資を行うことを目的にしているDAO
- Protocol DAOs:二次流通するERC-20トークンの開発を目的にしているDAO
- Products DAOs:ある商品・プロダクトの開発を目的にしているDAO
- Grants DAOs:新規プロジェクトをローンチするための資金調達をするDAO
- Service DAOs:同じ専門分野を持つ専門家が集まってサービスを提供するDAO
- Social DAOs:同じ趣味を持つ人々が集まったコミュニティ的な意味合いが強いDAO
- Special Puropose DAOs:寄付や司法制度の改革など、特定の目的を達成するためのDAO
- Collector DAOs:NFTの共同保有・投資を目的にしているDAO
- Education DAOs:web3.0やブロックチェーンに関する教育プロジェクトを提供するDAO
- Media DAOs:メディアの運営を目的にしているDAO
現在でもこれだけの種類のDAOがあり、日々DAOと名乗る新たな組織が増え続けています。
今後もDAOが増え続けることによって、さらに分類されるDAOの種類が増えてくことが考えられますね。
Protocol DAOs(二次流通するERC-20トークンを開発するDAO)
ここからは先ほどのDAO Centralによる分類別に、面白い独自の活動を行うユニークなDAOをご紹介していきます。
まずは、主にイーサリアムブロックチェーンのERC-20トークンの開発を目的とした「Protocol DAOs」について確認していきましょう。
MakerDAO
MakerDAOは、DAI(ダイ)と呼ばれる米ドルに連動したステーブルコインの発行を目的にしているDAOです。
DeFi(分散型金融)分野のプロジェクトとしても有名で、全てのDeFiサービスの中でもTVL(プロジェクト内に預け入れられている資産額)が1位という非常に人気の高いプロトコルとなっています。
MakerDAOの目的としては、暗号資産を手軽に借入できるサービスを作ることであり、イーサリアムなどの暗号資産を預け入れることで、預け入れた額に応じたDAIが発行される仕組みを採用しています。
また、MakerDAOはもともと「Maker財団」と呼ばれる組織が運営していましたが、2021年7月20日に公式ブログにて「数ヶ月以内に財団を解散し、運営をDAOに移行する」ことが発表されました。
【原文】
MakerDAO is now completely decentralized.(Omitted)
the DAO is now fully self-sufficient and the Maker Foundation has fulfilled its bootstrapping responsibilities. The Foundation will formally dissolve within the next few months.
【翻訳】
MakerDAOは現在、完全に分散化されました。〜中略〜
DAOは今完全に自律しており、Maker財団はその起業の役割を果たしたと言えます。Maker財団は今後数ヶ月以内に解散する予定です。
今後はDAOによる運営にシフトチェンジしていくとのことなので、これからのMakerDAOの動向には注目しておく必要があるでしょう。
Olympus DAO
Olympus DAOは、将来の分散型金融で使われる主軸通貨の発行を目的としたDAOです。
プロジェクトの内容としては、OHMというステーブルコインを発行しているのですが、Olympus DAOが発行しているステーブルコインはUSDTやUSDCのように価格が常に一定となる設計はされておらず、あくまでOHMの下限価格を1ドルに設定する仕組みが採用されています。
上記のチャートのように、OHMは大きな価格変動が起こっており、とてもステーブルコインとは思えないようなチャート形状となっています。
OHMの価格はあくまで市場に任せるというスタイルを取っており、1OHMが1ドルを下回ったときのみ、コミュニティがOHMを買い戻して焼却する仕組みとなっているようですね。
今後、Olympus DAOが成功していくかどうかはわかりませんが、他にはない特徴を持ったプロジェクトなので、これからの動向には注目しておきましょう。
Collector DAOs(NFTを共同保有・投資するDAO)
ここでは、NFTの共同保有や投資を目的とした「Collector DAOs」の2つのプロジェクトをご紹介していきます。
Flamingo DAO
Flamingo DAOは、NFTへの投資を目的に作られたCollector DAOの一つです。
Flamingo DAOが所有するNFTの中には、CryptoPunksやBAYC、CLONE Xなど数あるNFTの中でもトップクラスに人気の高いものが多数含まれており、そのコレクションは公式サイトとのCollectionから確認することができます。
また、Flamingo DAOでは所有しているNFTを貸し出したり、DeFiの担保としても利用しており、それらはDAOに参加しているメンバー間の話し合いや、プライベート・ブロックチェーンでの投票により意思決定されています。
ただし、このFlamingo DAOには誰でも参加できるというわけではなく、身元確認や年収などによる審査制になっているとのことなので、参加のハードルが高いことも特徴と言えるでしょう。
PleasrDAO
PleasrDAOは、NFTをコミュニティで所有することを目的としているDAOです。
PleasrDAOが所有するNFTの中でも、やはり元CIAの局員だったエドワード・スノーデンが2021年に販売した「Snowden NFT」が最も有名でしょう。
PleasrDAOに参加しているメンバーにはブロックチェーン関連の著名人も参加しており、非常に強固な基盤を持っているDAOとも言えそうです。
また、PleasrDAOは所有しているNFTを担保にして暗号資産を借りた世界初のDAOとしても知られているので、これから取り組みや動向には注目しておく必要がありますね。
Service DAOs(様々なサービスを開発するDAO)
次に、様々なサービスの開発を行う「Service DAOs」の例を見ていきましょう。
Usebraintrust
Usebraintrustは、フリーランスが仕事を獲得するためのプラットフォームの役割を担うDAOです。
現在、フリーランスが利用するクラウドソーシング系のプラットフォームではどうしても発注者側が強く、また報酬に対して何%かの手数料を支払わなければいけないため、フリーランスの低賃金労働が一種の問題となっています。
そこでUsebraintrustではフリーランス側の手数料を無料にし、企業側がプラットフォームの使用料を支払わなければいけない仕組みを採用しています。
また、「コネクター」と呼ばれる受注者と発注者を繋ぐ紹介者が存在しており、もしフリーランスとの契約が決まった際には企業側がコネクターに10%の手数料を支払うという、従来のクラウドソーシングにはない特徴もあると言えるでしょう。
すでにNASAやNIKE、Nestleなど世界的な有名企業も参加しているので、今後のフリーランスの市場を変えていく可能性もあるかもしれません。
Mirror
Mirrorとは、ライターやブロガーがブログ記事を投稿することができる分散型のプラットフォームです。
例えば従来のAmebloのようなプラットフォームでは、ライターが書いた記事はあくまで運営側の所有物とされるため、記事が勝手に削除されてしまうといったことも実際に発生していました。
しかし、Mirrorでは作成した記事がブロックチェーンに記録されるので、勝手に記事を削除されてしまったり、記事をコピーされてしまうなどの問題を未然に防ぐことができます。
また、ライターは書いた記事をNFT化して販売したり、何かのアイデアを発表してクラウドファンディングを募集できるなど、これまでのブログプラットフォームとは大きく異なる特徴を持っています。
「Ethereum: The Infinite Garden」というイーサリアムのドキュメンタリー映画がMirrorを使って資金調達が行われるなど、今後も様々なプロジェクトにMirrorが利用される可能性も考えられますね。
Education DAOs(教育に関する活動を行うDAO)
ここでは、DAOの中でも教育に関する活動を行っている「Odyssey DAO」をご紹介していきます。
Odyssey DAO
Odyssey DAOは、NFT、DeFi、ブロックチェーンなど様々なWeb3.0に関することを学ぶことができるプラットフォームです。
参加者は「Web3.0」や「NFT」など、各項目ごとに分かれている学習パスを自由に選択でき、知識を体系的に学んでいくことが可能となっています。
また、定期的にDiscord内のコミュニティでミーティングなどが実施されており、参加者と交流しながら楽しく学ぶことができるのもOdyssey DAOの特徴ですね。
もちろんサービスは無料で提供されており、日本語にも対応しているので、Web3.0関係の知識を深めていきたい方はぜひ活用してみてはいかがでしょうか?
Investment DAOs(投資活動を行うDAO)
様々な活動・取り組みを行っているDAOですが、有望なプロジェクトに対する投資活動を行っているDAOもあります。
ここでは「Investment DAOs」に分類される2つのDAOを見ていきましょう。
BitDAO
BitDAOは、主に新しいDeFi関連のプロジェクトに投資を行っているDAOです。
2021年8月にガバナンストークンのBITがローンチされたばかりの歴史の浅いプロジェクトですが、大手の暗号資産取引所「Bybit」が主導したことにより、2億3千万ドルというとてつもない資金調達に成功しています。
また、BitDAOには世界の有名企業が資金提供しており、中にはPayPalの創業者であるピーター・ティール氏も含まれています。
ただし、プロジェクトの規模は目を見張るものの、現状ではBybitがガバナンストークンのBITを大量に保有しているなど、本当の意味でのDAOとは決して言えないかもしれません。
Seed Club Ventures
Seed Club Venturesは、先ほどのBitDAOと同様にベンチャー投資を行うプロジェクトです。
2021年には、Airbnbやreddit、Dropboxなどの有名企業にも出資しているベンチャーキャピタル「YCombinator」からも200万ドル(約2億7千万円)の資金調達に成功しており、大きな注目を集めているDAOと言えるでしょう。
また、DAOのメンバーにはBalancerやAaveといった有名なDeFiプロジェクトの関係者が入っていることも注目すべき点です。
Media DAOs(メディアを運営するDAO)
数あるDAOの中には、Webメディアの運営を行う「Media DAOs」という種類のDAOもあります。
ここでは「Media DAOs」の中でも最も有名なBankless DAOについてご紹介していきます。
Bankless DAO
Bankless DAOは、従来の伝統型金融システムは不要という立場のもと、読者の方の暗号資産に関するリテラシーを向上することを目的としたメディア事業を行うDAOです。
もともとは2021年5月にBankless LCCという中央集権的な企業が立ち上げたDAOではありますが、現在ではBankless LCCもあくまでBankless DAOの一員という立場を取っています。
将来的には10億人の人々が暗号資産を利用するという世界の実現を目指しており、「International Media Nodes(IMN)」「Academy」「Book Club」など様々なプロジェクトがBankless DAOでは行われています。
また、他のDAOではガバナンストークンを投資目的で利用するケースも少なくありませんが、Bankless DAOでは発行しているBANKトークンを「金銭的な価値は持たず、あくまでコミュニティに参加していることを示すトークン」と説明しており、他のコミュニティとは少し異なる特徴があると言えるでしょう。
Special Purpose DAOs(寄付など特定の活動を行うDAO)
最後に「Special Purpose DAOs」と呼ばれる、寄付や司法制度改革などの特定の活動を行うコミュニティをご紹介していきます。
Ukraine DAO
2022年2月にロシアが仕掛けた侵略に対し、ウクライナへの人道支援を目的として作られたDAOがUkraine DAOです。
このDAOの発起人は、ロシアのロックバンド「Pussy Riot」の創設者でもあるNadya Tolokonnikova氏となっており、2022年2月25日にDAOが作られ、3月2日には約8億円もの資金を集めているなど短時間で成果を収めたDAOとして知られています。
資金を集める際には、ウクライナ国旗のNFTをイーサリアムブロックチェーン上で10,000作品し、寄付をもとにPartyBidというサービスを通して購入されました。
DAOというと何かのサービスや商品を開発するというイメージが一般的ですが、Ukraine DAOはこういった慈善活動にもDAOが活用できるという良い例になったと言えるでしょう。
FreeRossDAO
FreeRossDAOは、ダークウェブ上のマーケットプレイス「Silk Road」を作ったロス・ウルブリヒトの釈放を目的に作られたコミュニティです。
「Silk Road」はビットコインを使って決済できる世界初のマーケットプレイスとして知られていますが、ダークウェブという性質上、麻薬や拳銃などかなりグレーなものも販売されていたと言います。
これが原因でロス・ウルブリヒトは逮捕され刑務所に収監されましたが、その判決に対する不服の声が集まり作られたのが、FreeRossDAOの誕生の経緯となっています。
2021年、FreeRossDAOからはロス・ウルブリヒト本人が書いた絵がNFTとして販売され、販売代金の1,446ETHが今後のDAOの活動などに使用されるようです。
ユニークで面白い活動・取り組みを行なうDAO(自律分散型組織)まとめ
ということで、今回はユニークで面白い活動・取り組みを行なう12個のDAOを詳しくご紹介してきました。
現在でも様々な活動がDAOというコミュニティで取り組まれており、今後もその数は右肩上がりで増加していくことが考えられます。
しかし、記事の冒頭でも解説したように、現在DAOと呼ばれている組織の多くが本質的なDAOとは決して言えず、うまく組織運営ができていないコミュニティも少なくありません。
それでも、まだDAOという組織形態の歴史は始まったばかりなので、これからのDAOの動向や発展には注視しておく必要があるでしょう。