現在、様々な業界で自社ビジネスにNFTを活用しようとする動きが出てきています。農業や漁業などの第一次産業でも、そういった動きが顕在化しているといえるでしょう。
その事例の一つとして、2023年3月からスタートした「牡蠣若手の会」によるEat to Earn(食べて稼ぐ)プロジェクトが注目を集めています。
「牡蠣若手の会」では、生産者がユーザーに直接商品を届けるD2C(Direct to Consumer)の促進を目的としており、その達成に向けてNFTを活用したプロジェクトを開始しました。
この記事では、そんな「牡蠣若手の会」のビジネスモデルを詳しく解説していくので、興味がある方はぜひ最後までご覧ください。
この記事の構成
「牡蠣若手の会」とは?
NFTを活用したEat to Earnのビジネスモデルを解説する前に、まずは「牡蠣若手の会」についてご紹介していきます。
ここでは、以下の3つの項目に沿って詳しく解説していきます。
- 牡蠣業界の活性化のために作られた若手漁師のチーム
- 「牡蠣若手の会」が実施している活動内容
- AbyssCrypto(アビスクリプト)というNFTアートを販売
牡蠣業界の活性化のために作られた若手漁師のチーム
「牡蠣若手の会」は、日本の牡蠣業界が抱える課題解決を目的として、全国の若手牡蠣漁師によって設立されたチームです。
牡蠣養殖をはじめとした第一次産業は、生産者から顧客へ届くまでに仲介業者を通すことが一般的です。そのため生産者の収益体質が悪くなりがちであり、持続可能なビジネスモデルになっているとは言い難い状況です。
「牡蠣若手の会」は日本の牡蠣業界をより持続可能な業界にしていくために、「労働に見合わない薄利な収益体質」や「後継者不足」「広告宣伝するための時間・予算不足」といった課題の解決を目指しています。
また、会員は日本全国に広がっており、宮城県や石川県、鹿児島県など6県の牡蠣漁師によって構成されています。
「牡蠣若手の会」が実施している活動内容
「牡蠣若手の会」では、主に以下の活動を行っています。
- 牡蠣漁師同士での意見や知識の交換
- 牡蠣に関する様々なイベントの実施
- NFTを利用したプロジェクトの実施
競合となり得る他社と積極的な意見交換や視察を行っており、本気で日本の牡蠣業界を変えていこうとする姿勢が感じられます。また、牡蠣の試食イベントなども実施しており、2023年3月18〜19日には東京の銀座で「牡蠣食べ比べイベント」を開催しました。
画像引用元:PRTIMES
他にも「牡蠣若手の会」ではNFTを利用した活動も実施しており、できる限り生産者からユーザーに直接商品を届けるSea to C※を推進しようとしています。
詳細は後述しますが、NFT保有者が様々なユーティリティを得られる仕組みを導入しています。上記の「食べ比べイベント」においても、NFT保有者には無料で牡蠣が一粒増量される特典が与えられたようです。
※Sea to C:海(生産者)から顧客へ商品を直接届けるという意味の言葉。一般的なD2C(Direct to Consumer)と意味は同じ。
AbyssCrypto(アビスクリプト)というNFTアートを販売
画像引用元:NFTを通して日本の牡蠣業界を変える 〜牡蠣若手の会 NFTへの挑戦〜
「牡蠣若手の会」は、2022年2月に初めて独自のNFTコレクションをリリースしました。AbyssCrypto(アビスクリプト)と名付けられたNFTは、牡蠣業界を深海(Abyss)から水面に押し上げたいとの思いが込められているとのことです。
NFTアートのデザインは、漁師の日常を表現したボクセルアートとなっており、Larva Labs社が発行するMeebits(ミービッツ)を連想することができるでしょう。
また、2023年3月からは、NFTを活用した食べて稼ぐ「Eat to Earn」のプロジェクトを開始しました。詳細は後述しますが、Eat to EarnプロジェクトではAbyssCryptoRising(アビスクリプトライジング)という、AbyssCryptoとは異なるNFTを獲得できるようになっています。
「牡蠣若手の会」のEat to Earnのビジネスモデル
ここから本記事の本題となる、「牡蠣若手の会」が取り組むEat to Earnのビジネスモデルを解説していきます。
NFTを活用した第一次産業のビジネスモデルの事例を知りたい方は、ぜひチェックしてみてください。
- Eat to Earnのビジネスモデル・仕組み
- NFT保有者へのユーティリティを重視
- 牡蠣を暗号資産で購入できる
Eat to Earnのビジネスモデル・仕組み
画像引用元:会員証(NFT)を入手する方法|牡蠣若手の会
上記は「牡蠣若手の会」のEat to Earnの仕組みを示した画像となります。具体的には、以下のようなビジネスモデルだといえるでしょう。
- ユーザーが「牡蠣若手の会」の通販サイトで牡蠣を購入する
- 購入金額に応じた「牡蠣コイン」がユーザーに配布される
- 「牡蠣コイン」を使ってNFTをミント(発行)する
- ミントしたNFTを保有 or 売却(Eat to Earn)する
「牡蠣若手の会」のEat to Earnの特徴的な部分は、牡蠣を購入してはじめてNFTを発行できるという点です。
過去にも似たような内容のNFTプロジェクトはありますが、まず最初にユーザーにNFTを購入してもらう仕組みのものがほとんどでしょう。実際、多くのNFTプロジェクトは、NFTを販売して利益をあげることを目的にしているものが多いです。
しかし、上記のビジネスモデルからわかるように、「牡蠣若手の会」はNFTで売上をあげようとしていません。まずはユーザーに牡蠣を購入してもらい、牡蠣を食べて楽しんでもらうこと、自分達の牡蠣の品質の良さをわかってもらうことに重点を置いていると考えられます。NFTを絡めて話題を作りつつも、本質的には自分達のファンを増やす取り組みを行っています。
また、発行したNFTは売却して稼げるだけでなく、保有すると5%オフで牡蠣を購入できる権利を得られます。長期的に牡蠣を楽しんでもらえる仕組みが考えられており、ユーザーとしても通常より安く牡蠣を購入できるため、D2Cが促進する可能性が考えられるでしょう。
NFTをミントする際にはガス代が不要なので、わざわざ暗号資産を用意する必要もありません。ウォレットさえあれば無料で発行できるので、手軽にNFTを獲得できる設計になっています。
NFT保有者へのユーティリティを重視
画像引用元:PRTIMES
「牡蠣若手の会」では、NFT保有者へのユーティリティを重視しています。牡蠣コインと交換したNFTを保有すると、以下のユーティリティを得ることが可能です。
- 「牡蠣若手の会」から5%オフで牡蠣を購入できる
- イベントや店舗にて限定の特典を受け取れる
- こだわったNFTアートのデザインを楽しめる
特に、NFTを保有し続ける限り、5%オフで牡蠣を購入できる点が主なユーティリティだといえるでしょう。スーパーなどを利用するのではなく、自分達から直接牡蠣を購入してもらうための仕組みになっています。
「牡蠣若手の会」の通販サイトでは、各商品ページにウォレットの接続機能が実装されています。NFTが入ったウォレットを接続するだけで、自動的に5%オフの価格が反映されるようになっています。
牡蠣を暗号資産で購入できる
「牡蠣若手の会」の通販サイトでは、暗号資産で牡蠣を購入できます。DePayという暗号資産の決済プラットフォームを利用しており、MetaMask(メタマスク)などのウォレットを接続して決済することが可能です。
USDTやUSDCなどのステーブルコインも利用できるので、普段から暗号資産に触れている方にとっても使いやすい仕組みが考えられています。
第一次産業のビジネスモデルの課題とNFTの可能性
最後に、第一次産業におけるビジネスモデルの課題を振り返っていきましょう。
また、「牡蠣若手の会」のNFT活用方法が他の第一次産業に展開できる可能性についても触れていきます。
D2Cの促進が第一次産業の大きな課題
冒頭でも少しご紹介しましたが、現在の第一次産業の課題の一つに収益体質の悪さが挙げられるでしょう。
農業や漁業といった第一次産業では、基本的に一度は仲介業者を通すビジネスモデルになっています。例えば農業であればJA、漁業であれば漁協を通して生産物を販売している事業者も多いです。
もちろん仲介業者を通すメリットもありますが、一方で収益性が悪くなるため、生産者に利益が残りにくいという課題が存在しています。こういった課題を解決するために、第一次産業でもD2Cの促進が重要だと考えられています。
「牡蠣若手の会」のモデルは他の第一次産業にも展開できるか
第一次産業のD2C問題を解決する施策として、「牡蠣若手の会」のビジネスモデルは期待できるといえるのではないでしょうか。
ここまでご紹介してきたように、「牡蠣若手の会」ではNFTを絡めて話題にすることで、自分達の生産物を食べてもらえる、ファンになってもらえるような仕組みを作っています。また、NFTに割引購入できるユーティリティを付与することで、D2Cが促進する仕組みを作っているといえるでしょう。
NFTのミント専用ページを確認すると、かなりの割合がsold out(発行済み)状態になっており、一定の需要があることが確認できます。
Eat to Earnのプロジェクトが開始したのが2023年3月5日なので、まだ始まって間もない状況ではあります。しかし、プロジェクトの結果によっては、他の第一次産業に展開できる可能性も十分に考えられるでしょう。
「牡蠣若手の会」のNFTを活用したビジネスモデルまとめ
今回の記事では、全国の若手牡蠣漁師によって設立された、「牡蠣若手の会」のNFTを活用したビジネスモデルを解説しました。
ご紹介したように、「牡蠣若手の会」ではNFTでの販売利益を求めず、あくまでユーザーに牡蠣を楽しんでもらうこと、ユーティリティを提供することを重視しています。
まだEat to Earnのプロジェクトは始まったばかりですが、今後第一次産業においてD2Cを促進させる良い事例になるかもしれません。
これから自社のビジネスにNFTを活用していきたい方は、ぜひ「牡蠣若手の会」の動向をチェックしてみてはいかがでしょうか。