2023年7月20日、米FRB(連邦準備制度理事会)は「FedNow(フェッドナウ)」という、新たな銀行間即時決済サービスの稼働開始を発表しました。複数の大手メディアも注目のニュースとしてFedNowを取り上げており、暗号資産(仮想通貨)業界でも話題になっています。
この記事では、FedNowとはそもそもどのようなサービスなのか?といった基本情報から、サービスの特徴やメリット、懸念点などをご紹介していきます。FedNowの情報について詳しく把握しておきたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
この記事の構成
米FRBが稼働開始を発表したFedNowとは?
早速ですが、FedNowの概要や基本情報をご紹介していきます。そもそもFedNowとはどのようなサービスなのか?と気になっている方は、詳しく確認していきましょう。
米FRBが導入した新しい即時決済システム
FedNowとは、米FRB(連邦準備制度理事会)が新しく発表した即時決済サービスのことです。正式には「FedNow® Service」と呼ばれており、2023年7月20日から本格的に稼働開始しました。
FedNowは、一般の顧客や企業が日常的な決済を迅速かつ便利に行えるようにするため、FRBによって開発された決済システムです。一般ユーザーや企業は、FedNowに加入している金融機関のアプリやサイトなどから、即時決済サービスを自動的に利用できます。
あくまで、銀行間決済の背後にあるシステムであるため、ユーザーが何か特別な手続きをする必要はありません。ユーザーは、自身がFedNowを使っていると意識せずとも、システムを利用できる仕組みになっています。
様々な金融機関やサービスプロバイダーがFedNowに加入
FedNowのサービスがリリースされた時点で、35社以上の金融機関の加入が発表されています。有名な金融機関としては、JPMorgan Chase(JPモルガン・チェース)やBNY Mellon(バンク・オブ・ニューヨーク・メロン)、Wells Fargo Bank, N.A.(ウェルズ・ファーゴ・バンク)、US Bancorp(US・バンコープ)などがあります。
また、16社のサービスプロバイダーの加入も発表されています。2023年9月現在、Hedera(ヘデラ・ハッシュグラフ)の分散型台帳技術を利用するDroppもサービスプロバイダーの1社として公表されており、一部のユーザーの間で話題となりました。
FedNow Serviceの特徴や懸念点
ここからは、FedNowの特徴や利用するメリットについて、より詳しく解説していきます。また、FedNowの導入にあたって挙げられている懸念点についてもご紹介します。
- 24時間365日の即時送金が可能
- サービス開始当初は米国内での決済をサポート
- CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは異なるサービス
- 銀行の取り付け騒ぎを助長する可能性がある
上記の項目に沿って、確認していきましょう。
24時間365日の即時送金が可能
FedNowの最大の特徴として、24時間365日の即時送金が可能であることが挙げられるでしょう。FedNowに加入する金融機関を利用すれば、ユーザーは年中無休で即時送金をすることができます。
FRBのパウエル議長は、FedNowについて以下のように説明しています。
「FedNowのサービスは、これから数年間の日常的な支払いをより迅速かつ便利にするために構築されました。今後、より多くの銀行がFedNowの利用を選択するようになれば、個人や企業にとって、給与を即座に受け取れるようになったり、企業が支払いを受けた際に即座に資金を利用できるようになるなどのメリットが生まれます。」
参照:Federal Reserve announces that its new system for instant payments, the FedNow® Service, is now live
上記の通り、FedNowが導入されたことで、一般の個人としては支払われる給与をすぐに受け取れるなどのメリットがあるでしょう。また、企業側としても支払いを受けた資金をすぐ活用でき、キャッシュフローが安定します。
現状、FedNowに加入している金融機関の数はまだ多くありませんが、ネットワークが広がることで、利便性がさらに向上する仕組みとなっています。
サービス開始当初は米国内での決済をサポート
FRBの公式サイトによると、FedNowのサービス開始当初は米国内での決済のみをサポートしていくとしています。基本的には、アメリカ国内での決済を迅速に行うための仕組みといえるでしょう。
ただし、「サービス開始当初」という含みを持たせた回答をしているため、今後は国境を超えた資金のやりとりにもFedNowが活用されるかもしれません。FedNowが国際送金にも利用される場合、リップル(XRP)のような銀行間の送金を目的としている暗号資産には、大きな影響を及ぼす可能性があります。
リップル(XRP)については、【時価総額TOP20】XRP(XRP)について徹底解説の記事で詳しく解説しています。
CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは異なるサービス
FedNowと同時に語られるのが、CBDC(中央銀行デジタル通貨)です。
CBDCとは、国家の中央銀行が発行・管理を行うデジタル通貨であり、正式名称は「Central Bank Digital Currency」と呼ばれています。世界各国がCBDCの発行を検討しており、特に中国はCBDCの発行に意欲的であることが知られています。日本に関しても、2021年4月から、CBDCの実証実験を開始しています。
しかし、FRBは「FedNowはデジタル通貨とは関係がない」と明確に回答しています。そもそもFRBとしては、CBDCの発行についてまだ決定しておらず、アメリカ議会による承認があって初めて発行されるものだというスタンスを取っています。
ただし、アメリカが今後デジタルドル(CBDC)を発行する場合、FedNowのシステムを足掛かりにして開発するのでは?といった意見が見られることも事実です。
なお、CBDCについて詳しく知りたい方は、CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは?暗号資産との違いについても解説の記事もあわせて参考にしてみてください。
銀行の取り付け騒ぎを助長する可能性がある
決済スピードの面で大きなメリットがあるFedNowですが、一部懸念点も挙げられています。実際、FedNowを使えば銀行からの出金が容易になるため、取り付け騒ぎを助長する可能性が指摘されています。
2023年3月〜5月にかけて、ファースト・リパブリック銀行をはじめとした、銀行3行が経営破綻したことは記憶に新しいです。2ヶ月という短い期間で3行もの銀行が破綻した理由として、インターネットバンキングによって出金手続きが容易になったことが考えられます。他にも、SNS上で銀行経営に対する書き込みが拡散したことも挙げられるでしょう。
こういったインターネットの技術によって資金流出が加速し、銀行の取り付け騒ぎが起こることは「デジタル・バンク・ラン」と呼ばれています。FedNowの導入によって、銀行からの出金速度が加速し、より取り付け騒ぎが起こりやすくなる可能性は十分に考えられます。
FedNow Serviceに関するよくある質問
FRBの公式サイトでは、FedNowに対するよくある質問に回答しています。多くのユーザーが気になっている質問に回答しているので、その中からいくつかピックアップしてご紹介していきます。
- FedNowとはどのようなサービスですか?
- FedNowを使うためのアプリなどはありますか?
- FedNowと既存の決済アプリケーションに違いはありますか?
- FedNowは現金に取って代わるCBDC(中央銀行デジタル通貨)ですか?
- FRBはFedNowを通して顧客の口座にアクセスできるのですか?
FedNowとはどのようなサービスですか?
FedNowとは、アメリカの一般ユーザーや企業が、日常の支払いなどを迅速・便利に行えるようにするための即時決済サービスです。FedNowに加入する金融機関を利用することで、24時間365日いつでも数秒以内の即時決済ができます。
FedNowを使うためのアプリなどはありますか?
FedNowには、専用のアプリなどはありません。FedNowは銀行間送金を迅速に行えるシステムであり、一般ユーザーに提供されているサービスではありません。
一般ユーザーは専用のアプリなどを操作する必要はなく、銀行のサイトから送金手続きすることで、FedNowの即時決済機能を自動的に利用できます。
FedNowと既存の決済アプリケーションに違いはありますか?
FedNowは、銀行口座にある資金のやりとりに使用される即時決済サービスです。しかし、多くの決済アプリケーションは、銀行口座ではなく、アプリ内で資金を保有しなければいけないという違いがあります。
また、ほとんどの決済アプリケーションは利用者同士の決済を目的としていますが、FedNowは消費者と企業間の決済、企業間同士の決済など、あらゆる用途で使用できるとしています。
FedNowは現金に取って代わるCBDC(中央銀行デジタル通貨)ですか?
FedNowは、あくまで銀行間の送金を即時で行うシステムです。そのため、CBDCのようなデジタル通貨ではなく、現行の米ドルに取って代わるものではないと明確に回答しています。
FRBはFedNowを通して顧客の口座にアクセスできるのですか?
FRBは、FedNowを通して顧客の口座にアクセスすることはできません。FedNowは金融機関に提供する即時決済サービスなので、FRBと一般ユーザーには直接的な接点がない仕組みとなっています。
米FRBの即時決済サービスFedNowまとめ
今回の記事では、2023年7月20日から米FRB(連邦準備制度理事会)が本格稼働を開始したFedNowについて解説しました。FedNowは米国内にある銀行間での資金決済を迅速に行うシステムであり、年中無休での即時決済を実現します。
現状、FedNowに加入している金融機関の数はまだ少ない状況ですが、今後ネットワークが拡大することで、ユーザーの利便性はより高まっていくと考えられるでしょう。