近年、日本のビジネス界ではITやネットワークビジネスに関する新しい技術が導入される動きが加速しています。なかでもNFTは、従来の枠組みを超えた新しい「企業とユーザーの関係性」を生み出すツールとして注目されています。
こうした傾向のなか、日本有数のポイントプログラムであるPontaがNFTを導入すると発表しました。ユーザー数1億人を超えるサービスがweb3に参入したことは大きな話題となっています。また、通信事業者として最大手のNTTドコモも、web3に取り組むための子会社を設立しています。
今まで企業とユーザーは、「企業が商品やサービスを提供する」「ユーザーが商品とサービスを購入する」という一方的な関係でした。NFT導入によって従来の一方通行ではない新しい顧客エンゲージメントが生み出される可能性があります。
この記事では、PontaやNTTドコモが発表したNFT導入の事例を紹介しながら、NFTがもたらす「企業とユーザーとの新しい関係性」の構築について解説します。
この記事の構成
Pontaのweb3参入
引用元:Ponta Web
Pontaは三菱商事系列の株式会社ロイヤリティマーケティングが運営するポイントプログラムです。コンビニのローソンやレンタル業者のゲオなど、日常的に利用する小売業者で使うもので、タヌキをイメージしたキャラクターはお馴染みでしょう。
Pontaは2010年3月に創設された共通ポイントで、2022年時点で会員数は1億人を突破し、加盟社数は70社以上もあります。日本最大のポイントプログラムと言っていいでしょう。「便利・おトク・楽しい」というコンセプトを持ち、日々の買い物からインフラ、ネットサービスなどを含めて全国約28万店舗で利用できるポイントプログラムです。
2023年7月31日、ロイヤリティマーケティング社は、NFT技術の汎用化にコミットしている株式会社プレイシンクと業務提携したことを発表し、web3事業に参入することをアピールしています。
「Ponta」がweb3サービスに対応することになれば、1億人を超える規模のブロックチェーンサービスが登場することになり、かなり大きなインパクトをもたらすことが推測されます。
Ponta運営会社とNFTマーケットプレイス事業会社との業務提携
NFTの発行・販売・二次流通機能を兼ね備えるNFTマーケット「SBINFT」を運営するSBINFT株式会社と、共通ポイントプログラム「Ponta」を運営する株式会社ロイヤリティマーケティングが業務提携することが発表されました。
これにより、SBINFTマーケット上でPontaポイントが利用できます。Ponta会員はマーケットでNFTを購入すると、取引金額に応じたPontaポイントの加算を受けることができます。
Pontaはコンビニチェーン大手のローソンを中心に全国で1億人以上のユーザーを抱えるポイントサービスですが、今後は「コンビニで商品を買ったときにポイントが付く」のと同じ感覚でNFT購入時にPontaポイントが付与されます。貯めたポイントでNFTの購入も可能で、NFTをより手軽に楽しめるようになります。
SBINFTマーケットは国内最大級のNFTマーケットプレイスです。本サイトでもご紹介した「onigiriman」氏やYoutuberとしても人気の高い「さいとうなおき」氏など有名アーティストがNFTを発行しています。
総額5000万円以上のNFTアートを売った「onigiriman」とは何者?
web3サービス業者との業務提携
引用元:PLAYTH!NK
Pontaを運営するロイヤリティマーケティング社はさらに、ブロックチェーン技術を活用したサービスの社会実装を推進する株式会社プレイシンク社との業務提携も発表しています。
両社はweb3事業を共同で推進することで合意しており、巨大なユーザー層を抱えるロイヤリティマーケティング社の基盤を活用して、従来のポイントサービスからシームレスにつながるweb3サービスの構築を目指します。
プレイシンク社はweb3技術を活用して新しいビジネスモデルやサービスの提案を続けている会社で、多くのプロジェクトを立ち上げています。「web3の浸透は不可逆である」という考えを持っており、セキュリティや「ガス代」、集客コストといったweb3参入におけるハードルを解決できる環境を提供してきました。これまでにも、Jリーグやパフォーマンスチーム「EXILE」などの活動へweb3技術の応用を提案し、実現しています。
両社の提携によって、新しいweb3経済圏が生み出されることが期待されます。ロイヤリティマーケティング社はPonta会員という巨大な基盤を有しており、プレイシンク社がこれまでに開発してきた技術やノウハウが提供されることによって、世界的にも類を見ない規模のweb3プラットフォームが誕生します。
提携で予定されている主なものに「ゲーム」「デジタルトレーディングカード」「NFT広告」「NFTクーポン」などが挙げられています。注目されるのは「サードパーティによるアプリ提供」が予定されていることです。1億人以上のPonta会員を基盤としたweb3経済圏にアプリメーカーなどが参入できる可能性があります。
Pontaのweb3参入で何が起きる?
ロイヤリティマーケティング社とプレイシンク社の提携にあたり、今後の方針として以下のような発表がなされています。
- Ponta利用者に対し、既存のアカウント利用の延長線上にweb3体験を置く
- 専門的な知識の必要なくシームレスに新技術への入り口を開く
- 事業者には、アプリケーションをより多くのユーザーに届ける機会を提供する
Pontaカードは多くの利用者を抱えています。今までのポイントの使い道は「ポイントでコンビニの支払いの端数を支払う」などのごく日常的なものでした。そこで、web3を導入することによって、一気に新しい技術に利用者をいざなうというのがロイヤリティマーケティング社の考えです。
SBINFTマーケットとの連携では、ゲームでの活用が期待されています。SBINFTマーケットでは、すでに国内でも需要の高いイーサリアムとポリゴンのパブリックチェーンに対応していますが、新たにOasysのすべてのレイヤーに対応します。
このため、Oasys上で展開されるすべてのゲーム内で発行されるNFTを取り扱うことが可能になります。Oasysは日本発のゲームに特化したパブリックチェーン基盤としており、「ブロックチェーンゲームを誰もが当たり前にプレイする世界」を目指しています。
ロイヤリティマーケティング社のweb3領域参加によって、ますますweb3の浸透が期待されます。
NTTドコモ「株式会社NTT Digital」を創設
NFTドコモは携帯キャリア大手で、総務省の報告によるとシェアは36.9%、契約者数は約8,300万人という規模です。2021年3月より開始した新プラン「ahamo」も好調です。
引用元:総務省
2022年11月、同社はweb3に向けた取り組みをすすめると発表し、早くも2023年7月11日にはweb3を推進する子会社を「NTT Digital」にすると決定しました。13社との提携に基本合意したことも発表されています。
NTTドコモは先程ご紹介したPontaと同様、多くのユーザーを抱える大手サービスです。Pontaはポイントプログラムサービス、NTTドコモは携帯キャリアと業務形態は異なりますが、web3の浸透への影響の大きさは同様と推測されます。
web3を推進する「NTT Digital」とは
NTTドコモは2022年11月8日、総合ソリューション会社「アクセンチュア」社と共同でweb3に向けた取り組みを進めると発表しました。井伊社長は記者会見で、「今後5年から6年をかけてweb3事業に5000億円から6000億円を投資する」と示しています。毎年度1000億円程度という巨額なプロジェクトです。
引用元:NTTドコモ
会見では以下のような発表がなされています。
- すでに国内ではNFTを使ったサービスが登場しており、アプリケーションがweb3上に数多く存在していることを認知している
- web3サービスに対して「共通的な機能を提供する側」の立場が重要と認識している
- エンドユーザーが望んでいるのは手続きが簡単で安心して使える環境である
- 巨額の投資となるが本社が本気でweb3に取り組んでいくことを示す金額と理解いただきたい
上記会見の8ヶ月後2023年7月11日、同社はweb3を推進する子会社の名称を「NTT Digital」とすることを決定しています。NTTドコモが100%出資し、ブロックチェーン技術などの最先端技術の社会実装を目指します。
パートナー企業として日立製作所やサンリオなど13社との連携が発表されています。
「NTT Digital」のミッションとは
NTTドコモとアクセンチュア社が連携して取り組もうとしている活動は以下の3つに集約されています。
- ESG/SDGs領域への適用
- 安心で安全なweb3活用に向けた技術基盤の構築
- Web3人材の育成
ドコモはweb3を「インターネット以来のインパクトを秘めている」と評価しています。ブロックチェーン技術には従来の「企業と顧客」という関係性を根本的に変革していく可能性が秘められており、想像もつかないような新しいサービスが生まれると予想しています。
ドコモはweb3の特徴を生かした「連携のメカニズム」に対して研究・開発・構築を行っていき、新しい経済原理を創出することを目指します。
「ブロックチェーン技術を活用して社会インフラに変革を起こし、子供から高齢者まであらゆる世代に安心して楽しめるweb3の環境を構築したい」と井伊社長は語っています。
急速に発展しつつあるweb3の世界で、「誰もが使える基盤」「安全なプラットフォーム」が大手通信事業者によって提供されることは大きなプラス材料でしょう。
NFTがもたらす企業とユーザーとの新しい関係性とは
弊社サイトで頻繁にご覧いただいている「NFT」「ブロックチェーン」「メタバース」といったキーワードはweb3関連のテーマです。
総務省の情報通信政策研究所が2022年8月にまとめた「メタバース等に関する市場の概観」によると、世界のメタバース市場は、2021年の389億ドルから2030年には6788億ドルまで、約17倍に拡大すると推測されています。
引用元:総務省
web3関連にまで広げると、市場は2024年には90兆円へ拡大するという予測もあります。2023年6月に政府が発表した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」においても、web3領域での信頼の枠組みの構築や環境整備などが示されています。
本記事ではここまで、PontaとNTTドコモがweb3領域に事業を拡大するプロジェクトについて紹介してきました。web3と自社の事業を組み合わせて新しいプロジェクトを立ち上げたいと考える企業も増えるでしょう。
ここから、NFTによって事業者とユーザーはどのような関係性に変化していくのかを解説します。
NFTは「ユーザーとの関係性を創出する手法」へと変化する
NFTは「このNFTを自分が購入した」ことを証明できる手段です。NFT自体に価値があるというより、コレクションやホルダーに価値を提供するような使い道(ユーティリティ)があります。
NFTを普及させた原動力のひとつが「PFP」と呼ばれるアートです。SNSのアイコンに設定できる画像で、自分の趣味や所属するコミュニティを表現することが可能です。自分が保有しているNFTをアイコンに設定することによって、自己表現して所属コミュニティをアピールできます。
引用元:OpenSea
PFP系のNFTは爆発的なブームとなり、高額取引されるNFTアートも現れました。しかし、2023年に入って徐々に縮小していく傾向が出ています。一方、NFTをコミュニティの参加権として活用するプロジェクトは成長しています。今後は「本当にファンが付いているNFT」が残ると予想されています。ファンコミュニティとしてNFTプロジェクトを応援するという段階に差し掛かっており、「脱PFP」の流れが加速しています。
アメリカの掲示板型SNS「Reddit」が発行したアバターコレクションは、1000万個以上も売り上げており、新しい可能性を感じさせます。
今後のNFTは、「企業や団体、もしくは個人とユーザー」が「NFTだからこそ、つながることができる」という新しい関係性を構築していく手法へと変化することが推測されています。
事業者がユーザーに提供できるNFTの2つのユーティリティ
今後、事業者がユーザーに提供できるNFTのユーティリティには大きく以下の2つが挙げられています。
- フィジタル
- チケット
PFP系のNFTが巻き起こしたブームは一段落し、2023年春頃から「暗号資産の冬(クリプト・ウィンター)」と呼ばれる時期に突入しました。NFTのアートやゲームなどの分野での取引高は前年比で約90%まで減少しています。一方で、アクティブユーザーや開発者の数は減っていませんし、むしろ着実に伸びているという指標も出ています。
注目したいのは、「web3以外の事業を中心とする大手企業」がweb3に参入しているという点です。
たとえば、世界的な人気を誇るスニーカーブランド「NIKE」は2021年に「RTFKT」というファッションブランドを買収しました。「RTFKT」はフィジカルとデジタルをハイブリッドしたスニーカーをデザインする会社です。
RTFKTは2022年8月にNFTコレクション「Clone X」のホルダー向けのスニーカーを発表しています。バーチャル上でアバターが着用できるだけでなく、実際のアパレルも販売されます。スニーカーのホルダーは現実世界でバーチャル空間と同じアイテムを着用できます。
引用元:RTFKT
このようにデジタルとフィジカルな商品を組み合わせるスタイルを「フィジタル」と呼び、今後のNFTの主要なユースケースとなると推測されています。
また、NFTのユーティリティとして期待されているのが「チケット系NFT」です。ライブやイベントの入場券をNFT化するというもので、「転売や偽造対策」「限定コミュニティの創設」「長期間の保管」といった従来のチケットにはない機能を持たせることが可能です。
世界的なサッカーチーム「パリ・サンジェルマン」は、2022年のジャパンツアーでNFTチケットを導入し、1000万円と100万円のVIPチケットを用意しました。限定グッズや限定コミュニティへの参加といったオプションを付けることによって、高額のチケットも販売できるというのがNFTチケットのメリットのひとつです。
引用元:Youtube
web3が事業にもたらす効果とは
従来、企業は「良いものを作って伝える」「独自の強みを知らせることで多く売る」というやり方を長年続けてきました。インターネットが登場し、「アプリなどでつながる」「より個人の情報を元にマーケティングする」という手法が定着しています。
web3では、こうした考えをさらに推し進めて「企業と個人が仲間・同士となって価値を高めていく」というスタンスに変化します。
NFTは単なる「ファングッズ」ではなく、配布した先にあるサービスの設計やユーザー体験を提供してブランドとの接点を多く持てる施策を出すことが重要になってきます。
商品やブランドにNFTを掛け合わせることでユーザーと企業には仲間意識が芽生えて深いつながりが生まれます。そこにあるのは「NFTを買うほど高い熱量を持った人たちによるコミュニティ」です。コミュニティ参加者は従来的な顧客ではなく、企業の活動に積極的に参加して新しい価値を創出する「仲間」になります。
2023年に入ってようやく、「NFTを買うことは簡易株式を持っているようなもの」というイメージが定着しつつあります。株を買うには高額の資金が必要ですが、NFTではより民主化されて「1口数千円から数万円」でプロジェクトの仲間になれます。同じNFTを持っている同士ですので、一緒にプロジェクトを盛り上げようという機運も生まれやすくなります。
このたびPontaがweb3に参入して、1億人を超える規模のブロックチェーンサービスが登場します。携帯キャリア大手のNTTドコモが創設した「NTT Digital」は、誰もが使える安全なプラットフォームの提供を目指しています。
NFTを含むweb3に参加するハードルはこのように大幅に下がってきています。今後は「web3以外のアセットを持つ企業」が自社のブランド力を高めるためにNFTを活用する事例が増えるでしょう。
まとめ
巨大ユーザーを持つPonta、NTTドコモの2社がweb3に参入する現状と、2社の動きがもたらすと推測される今後のweb3事情について解説しました。最後にこの記事をまとめます。
- ユーザー数1億人を突破しているPontaを運営するロイヤリティマーケティング社がweb3事業に参加する
- ロイヤリティマーケティング社のweb3参入よって、多くのユーザーにシームレスな新技術への入り口を開くことになる
- 約8300万人という契約者数を持つNTTドコモは、web3推進をミッションとする新会社「NTT Digital」を設立した
- 「NTT Digital」は、安心で安全なプラットフォームの構築を目指している
- 2023年現在、NFTは「脱PFP系」の傾向があり、「フィジタル」「チケット」といったユーティリティへと変貌しつつある
- web3を導入することで、ユーザーと企業は新しい関係性を持つようになると推測される
巨大ユーザーを抱えるサービス業がweb3に参入してプラットフォームが充実することで、多くの業界に変革がもたらされることが推測されています。今後の動向に注目しましょう。