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イーサリアムETF承認が暗号資産市場に与える影響

解説系記事

2024年5月20日、ブルームバーグのアナリストがSEC(アメリカ証券取引委員会)がイーサリアムETF承認の確率が25%から75%に引き上げたという発表が出た後に、暗号資産(仮想通貨)イーサリアムの価格が20%以上急騰しました。その後5月23日にはイーサリアムETF承認確定の報道が行われています。

イーサリアムETFの承認は、ビットコインに続いて2例目であり、今後個人の投資家や機関投資家などからの資金流入が期待されています。

今回の記事では、イーサリアムETFの基本的な概念から、先物ETFと現物ETFの違い、今後への影響など詳しく解説していきます。

イーサリアムETFの上場とは

2024年5月23日にイーサリアムETFの承認が発表され、6月14日にはSECのゲンスラー委員長は「9月までに現在申請中の現物ETFを承認する予定」という声明を出しました。ETFとは投資信託のことで、今後は暗号資産取引所だけでなく、証券会社を通じてもイーサリアムに投資できるようになります。

5月23日に発表されてから9月まで時間が空く理由は、申請中の現物ETFについてSECが規則改正を一括承認したことを「イーサリアムETFの承認」と見なしたためです。規則改正の承認後、即座にブラックロックなどの申請企業が最終版を作成して提出しました。

SECのゲンスラー委員長は「イーサリアム現物ETFはすでに承認済みで、残りはスタッフレベルでの詳細の調整のみが残っている」と述べています。

イーサリアム先物ETFとイーサリアム現物ETFの違い

イーサリアムETFには、イーサリアム先物ETFとイーサリアム現物ETFの2種類があります。今回承認されたのはイーサリアム現物ETFで、すでに売買されている先物ETFよりも市場に対して大きな意味を持ちます。

先物ETFよりも大きな意味を持つ理由は、現物ETFは買い替え時の取引コストが安く、投資家が売買しやすいためです。先物には月末の期日が設定されていて、その日には必ず精算されます。期日後も保有して投資を続けたい場合、期日が先のETFに買い替えなければなりません。

そのうえ期日を迎えると強制決済されるため、期日に近づくにつれて精算する注文が増え始めます。精算の売り注文が集中するので、期日が近い契約が先の契約よりも低い価格で取引される現象(コンタンゴ)が発生します。

買い替え時に発生する取引コストは、ETFを購入する投資家の負担です。先物ならではの現象や、価格の不安定さを嫌って先物ETFの投資を避ける人も少なくありませんでした。

現物ETFには期日がなく、買い替えなしで長く持ち続けることが可能です。イーサリアム現物ETFが購入できるようになれば、ビットコイン現物ETFの上場時のように、多くの投資家からの資金流入を見込むことができます。

関連記事:ビットコインETFの承認は、なぜ暗号資産市場にとって重要なのか?

イーサリアムETF承認までの流れ

ビットコインETFが承認された2024年1月時点では、イーサリアムETFの承認はまだ先になると見られていました。米国の大手金融企業のJPモルガンは、当時「イーサリアムの証券性を明確にすることが必要であり、5月にSECがETF承認する可能性は低い」と分析しています。

市場としても、イーサリアムETFの承認はまだ先になるという雰囲気がありましたが、5月23日にイーサリアムETFの承認が発表されました。この発表で価格が急騰したことによっても、市場にとっては予想外の出来事で織り込まれていなかったかがわかります。

また、SECが複数のアルトコインを証券と指摘し、違法に販売を行ったとして訴訟を起こしたことも、承認がまだ先になると予想されていた理由の一つです。訴訟されていたのは、主に以下のアルトコインです。

  • ソラナ(SOL)
  • カルダノ(ADA)
  • ポリゴン(MATIC)
  • コスモス(ATOM)
  • ディセントラランド(MANA)

イーサリアムは対象に含まれていません。しかし、SECは暗号資産を排除する路線であり、アルトコインの訴訟がイーサリアムETF承認にも影響すると考える人も一定数いました。

イーサリアムETF承認が重要な理由

ここでは、イーサリアムETF承認が重要な理由を解説していきます。主には以下の3つが挙げられます。

  • SECの審査に通過したことがステータスとなる
  • イーサリアムは証券に該当しないという見解
  • イーサリアムへの資金流入が見込める

それぞれ詳しく見ていきましょう。

SECの審査に通過したことがステータスとなる

ETFが上場する際、SECは厳格な審査を行います。これは投資家が不正な動きで不利益を被ることなく取引し、市場の健全性を維持するためです。この審査に通過したということは、イーサリアムが株や債権、金や銀などの先物と並ぶ投資商品として認められたと捉えられます。

証券市場を規制して投資家を保護し、公正で効率的な市場を維持するための機関であるSECは、以前から暗号資産に対して厳しい立場をとってきました。2022年11月に破綻したFTXの経営者サム・バンクマン・フリードに対する刑事告発、2023年6月には取引所のバイナンスやコインベースに対して証券法違反を理由とする訴訟を起こすなど、暗号資産を排除する姿勢を示すような動きが見られました。

そうした排除の動きから変化があったのは、2023年8月のことです。資産運用会社のグレイスケールは、自社の投資信託現物ビットコインETFに転換するための申請を却下されたことを不服として、SECに対して訴訟を起こしていました。

結果的に裁判所は、グレイスケールの主張を支持し「SECがビットコイン先物ETFを承認している一方で、ビットコイン現物ETFを承認しないのは一貫性がない」という判決を出しました。これにより、SECがビットコイン現物ETFを認めざるを得ない状況になり、承認に向けて大きな一歩を踏み出したといわれています。

SECは「流動性が高く市場操作のリスクが低いか」「安全な保管方法が確立されているか」「取引の透明性が高いか」などの視点から審査を行っています。イーサリアムはそれらをクリアして、ETF上場が実現しています。

イーサリアムは証券に該当しないという見解

SECは現在リップルを始め、ソラナやカルダノなどは証券であり、無許可で販売して利益を得ていると指摘し訴訟を起こしています。訴訟されている暗号資産のブロックチェーンでは、ステーキングで配当を得られる、DAppsの開発ができるなど、イーサリアムと似た仕組みを採用しているものも少なくありません。

しかし、現状イーサリアムは訴訟の対象からは除外されています。除外されている理由は明らかにしていませんが、証券かどうかを判別する際に利用される「ハウェイテスト」と呼ばれる基準を満たしていないためと考えられます。

ハウェイテストで設けられている基準は、具体的に下記の通りです。

  • 投資家が資金を提供する
  • 投資先からの利益が期待できる
  • 投資先が共同事業である
  • 投資家が事業の運営に関与せず利益を得られる

上記の基準を満たすものが多いと、証券と判断される可能性が高まります。

2024年6月14日にSECのゲンスラー委員長がイーサリアムETFについて言及した際に、規制に準拠していない暗号資産業界への不満を漏らしましたが、イーサリアムがそれにあたるかどうかの回答はありませんでした。

現時点では、まだ「イーサリアムは証券に含まれない」という断定的な発言はありません。しかし、すでにSECがイーサリアム現物ETFを承認したことを考慮すると、今後証券であるとして訴訟を起こす可能性は低いと考えられます。

イーサリアムへの資金流入が見込める

イーサリアムETFが上場することで、暗号資産取引所を介さず、証券会社からイーサリアムに投資できるようになります。イーサリアム投資への間口が広がり投資家がアクセスしやすくなるため、資金流入が見込まれるでしょう。

暗号資産の知名度は年々上昇していて、実社会で利用されるケースが増えています。一方でセキュリティ面の懸念や手続きの煩わしさから、取引所を通じての投資を諦める人も多くいると考えられます。

そうした人に対して、証券会社を通じて購入できるイーサリアムETFは良い投資方法となるでしょう。

イーサリアムETF承認前の値動き

2024年の始めから、多くの暗号資産の価格が上昇しています。イーサリアムも例に漏れず上昇をしていましたが、3月中旬を頂点にして5月中旬までは下降トレンドの中にありました。

そうした状況の中、5月20日にイーサリアムETF承認の発表があった後に急上昇します。発表前までは、イーサリアムETF承認の可能性は低く、議論のタイミングも2024年後半になると予想されていました。いかに事前情報がなかったかが、この上昇を見るだけでもわかります。

イーサリアムETF承認の発表後の数日は緩やかな上昇を続け、イーサリアムが買われやすい状況が続きます。

イーサリアムETF承認後の値動き

イーサリアムETF承認発表後、もう一段上昇して過去最高値「4,950ドル=約777,150円」の更新が期待されていました。しかし、ビットコインや他の暗号資産の値動きに流される形で失速して、ジリジリと下げる展開が続いています。

現在イーサリアムETFは上場が承認された段階であり、まだ実際に取引されているわけではありません。取引開始時期は6月末もしくは8月、9月以降などさまざまな憶測が飛び交っている状況です。

今後上場するタイミングが、イーサリアムの価格がさらに上昇するきっかけとなる可能性があります。

アルトコインETFについて

ビットコイン、イーサリアムときて次に期待されるのは、他のアルトコインETFの上場です。現在のcoinmarketcapの時価総額ランキングでは、ソラナやバイナンスコイン、リップルなどが上位にランクインしていますが、いずれも訴訟の対象銘柄になっているため、すぐにETFが承認される可能性は低いでしょう。

SECが証券と指摘する銘柄に対する裁判は、今でも続いています。すでに最初に訴訟を起こしてから1年以上が経過しており、長期化する様相を見せています。

まとめ

イーサリアムETFの承認はビットコインETF承認に次ぐ大きなニュースであり、暗号資産市場に対して驚きを与えました。まだイーサリアムETFは取引できませんが、今後上場した際には多くの投資家からの資金流入が期待できるでしょう。

過去の流れから見ても、上場開始のニュースは突然発表される可能性が高いです。長期目線でイーサリアムを投資していきたい人は、価格が下がっている現在の内に買うのも一つの選択肢になるのではないでしょうか。

S.G

SG

月間100万PV超えの投資情報サイトや、ニュースサイトなど、暗号資産に関する記事を数多く執筆するフリーランスのライター。自身も2016年から暗号資産投資を行なっており、日進月歩の進化を遂げる暗号資産業界を常に追ってきた。ライター歴は3年で「文章で読者をワクワクさせ、行動に移させる」をモットーに執筆を行う。東南アジア在住、海外留学の経験があり、英語の翻訳記事も得意にしている。
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