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新規事業にBCG。ブロックチェーンゲームのビジネスモデルを解説

解説系記事

日本でもブロックチェーンゲームの認知度は上がり、実際にプレイしている方は多いと思います。一方で、ゲーム制作事業としての可能性に着目している方は少ないのではないでしょうか?

日本はゲームメーカー大国ですが、Web3でもその力は発揮できるはずです。本記事では「ブロックチェーンゲーム」を新規事業という観点から解説します。

BCGの概要

BCG(Block Chain Game)はブロックチェーン技術を使用したゲームです。従来のゲームとは異なり、ゲーム内のアセット(キャラクターやアイテム)をNFT※1として保有できます。ゲーム内で稼いだコインなどもFT※2として他の暗号資産とのトレードが可能で、プレイヤーはゲームをして稼ぐことができます(P2E:Play to Earn)。

※1 NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)は代替不可能な暗号資産です。デジタルアセットの所有証明などに活用できます。
※2 FT(Fungible Token:代替性トークン)は代替可能な暗号資産です。支払い、もしくは他の暗号資産(USDTなど)とトレードが可能です。

新規事業としてのBCG

  • 企業と顧客側双方にメリット
  • 顧客(プレイヤー)参加型でインタラクティブ
  • 様々な業界で新規事業として有効

BCGは従来のゲーム業界にはない新しいビジネスモデルを創出するため、新規事業としての価値に注目が集まっています。また、M2E(Move to Earn:運動をして稼ぐ)やS2E(Sleep to Earn:寝て稼ぐ)などのBCGはゲーム業界だけでなく、フィットネス業界や小売り業界から参入が始まっています。

企業と顧客側双方にメリット

BCGは、ゲーム内で使用されるFTやNFTを通じて、企業側に新たなエコシステムの創造をもたらします。プレイヤー側にとっても新たな消費体験となります。P2Eモデルや招待インセンティブの導入により、プレイヤーはゲームプロジェクトに参加することで利益を得ることができます。

顧客(プレイヤー)参加型でインタラクティブ

ガバナンストークン※3を使用したDAO※4のプロジェクト運営にも注目です。プレイヤーがゲームの進化や改善に直接参加できるようになることで、顧客ロイヤリティを向上させます。

※3 ガバナンストークンは保有することでWeb3プロジェクトの統治/運営に参加できるトークンです。
※4 DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自立組織)はビジネス進行に中央管理者を介さない組織です。

様々な業界で新規事業として有効

BCGの認知度を向上させたのは2018年にローンチされたAxie Infinity(アクシー・インフィニティ)という対戦ゲームです。Axie InfinityはP2Eを可能にし、多くのゲームプレイヤーから支持を得ました。そこからBCGは進化し、M2EやS2E、L2E(Learn to Earn)など様々な収益モデルを確立していきます。BCGはゲーム業界だけでなく、スポーツやヘルス、小売り、教育といった幅広い業界で新規事業として展開されています。

BCGがビジネスとして注目される背景

  • DLTへの期待
  • プレイヤー側の収益性
  • メタバースとの統合

BCGが注目される背景としてDLTによる技術的な革新、プレイヤー側にもたらされる利益、メタバースの進化が挙げられます。詳しく見ていきましょう。

DLTへの期待

DLT※5のプライバシー保護と取引の正当性を証明する機能は、多くの分野で注目されています。BCGでは、DLTによってプレイヤーのアセット(FT/NFT)とトランザクションが保証されます。DLTによって信頼性の高まったゲームは継続的なエンゲージメントと新規参入(顧客獲得)を促進します。

※5 DLT(Distributed Ledger Technology:分散型台帳技術)は参加者が同じ台帳を共有/管理できるブロックチェーン技術です。

プレイヤー側の収益性

従来のゲームではプレイヤーは純粋な消費者であり、支出はエンターテイメントの対価でしかありませんでした。一方、BCGにおいてプレイヤーは生産者の側面も持つようになります。ゲーム内で獲得/生成したアイテムや通貨を他のプレイヤーと交換したり、外部市場で売買したりができます。BCGは開発する企業だけでなく、顧客側(プレイヤー)にも利益がでるビジネスモデルとして、新しい可能性を持っています。

メタバースとの統合

BCGはメタバースと非常に相性が良く、メタバース内で展開できる新たなビジネスとして注目されています。プレイヤーはメタバース内でNFTなどを用いて独自のゲームを
作り、所有するアイテムや不動産にリアルな価値を見出します。

また、XR※6技術の進歩によって、メタバースの実用性が高まっています。XR技術は、メタバース内の体験をよりリアルで没入感のあるものにし、プレイヤーに新たなインタラクティブ体験を提供します。メタバースとの統合は、BCGを単なるエンターテイメント以上のものにし、ビジネスとしての潜在力を大きく引き出します。

※6 XR(Extended Reality、もしくはCross Reality)はVR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)の総称です。

BCGのビジネスモデル

BCGのビジネスモデルを理解する上で、トークノミクス(トークンエコノミー)は重要なポイントです。トークノミクス(Tokenomics)はトークン(Token)とエコノミクス(Economics)を合わせた言葉で、Web3ビジネスにおいては「トークン」の価値や使い方を決めるルールを指します。

BCGにおいてはプロジェクトごとにガバナンスや収益モデルが異なります。ここでは一般的なBCGのビジネスモデルについて解説します。

関連記事:「トークンを企業が発行するメリットは?独自のトークノミクスと成長戦略」

1.デジタル資産の作成と管理

ゲームの志向やトークノミクスに沿って、ゲームコンテンツと独自のデジタル資産(FT/NFT)を作成し、ブロックチェーン上で管理します。スマートコントラクトの作成やチェーンの選択プロセスでは専門知識と技術が必要になります。

2.収益モデルの採用

作成するゲームコンテンツに合わせてP2Eだけでなく、M2EやS2E、L2Eなどを採用します。ポケットモンスターのように探索型ゲームにする場合はP2EとM2Eを掛け合わせたモデルを作ることもできます。

3.市場の形成と流動性

作成したFT/NFTを実際に売り出します。BCGビジネスではゲームローンチ前にアセットを売ることで資金調達が可能です。FTやNFTに市場価格が付くことで流動性が高まり、経済システムの健全性につながります。

4.DAO化によるガバナンスとコミュニティ参加

ガバナンストークンを通じて、プレイヤーがゲームの運営やルール決定に参加します。開発側とプレイヤーのインタラクティブな関係を築き、コミュニティ主導の発展を促進します。中央管理型のBCGプロジェクトもありますが、多くがガバナンストークンを導入し、DAO化を図っています。

5.マネタイズと社会的価値の両立

BCGビジネスの最終的な目標は収益だけでなく、社会的価値の提供といった点も重要になります。健康促進、教育、コミュニティ形成など、プレイヤーにとって有益な価値を創造し、長期的なエンゲージメントを目指します。

技術的/法的課題

新規事業としてBCGを始める際は、いくつかの技術的/法的課題があることを認識しておきましょう。

技術的課題

BCGにおいてはスマートコントラクトへの理解が必要です。NFT作成では「Solidity」などを使用します。技術スタッフが社内にいない場合はアウトソーシングも検討しましょう。また、ブロックチェーン独自のリスクを認識することも大切です。

ブロックチェーンのスケーラビリティ

BCGをローンチするチェーンによってはスケーラビリティの問題に直面するリスクがあります。特にイーサリアムネットワークでローンチされた「CryptoKitties」は、人気が高まった際にトランザクションが著しく遅くなりました。BCGビジネスにおいてチェーンの選択は重要です。

関連記事:「L2スケーリングへの移行とは?イーサリアムのネットワーク負荷対策を解説」
関連記事:「NFTは自作可能?スマートコントラクトの作成からミントまでを解説」

セキュリティ

スマートコントラクトの脆弱性は、大規模な損失につながる可能性があります。2016年のTHE DAO事件では、364万ETHが盗まれるという事態になりました。ブロックチェーン技術は個人情報を秘匿し、プライバシー保護を実現させます。一方で、犯罪グループによって秘匿技術が悪用されるリスクもあります。

関連記事:「最終目的は訴訟ではなく、奪還!?Web3サイバー捜査の前線」

DAppsの特性

基本的にBCGに使用されるDApps※7では、中央管理者を介さない取引が行われます。暗号資産の送金でミス(例えば送金先アドレスの間違い)が起こった際はプレイヤーの資金は取り戻すことができません。

自己責任での資産管理はDAppsの特性です。一方で、プレイヤーの多くがWeb3初心者の場合は、しっかりとした事前説明が重要になります。

※7 DApps(Decentralized Applications:分散型アプリ)は中央管理者を介さないアプリケーションソフトです。

関連記事:「DAppsとは?スマートコントラクトで最適化されるWeb3.0ビジネス」

法的課題

BCGが暗号資産を取り扱うということで、いくつか法律的な課題があることも理解しておきましょう。

プレイヤーの年齢について

従来のゲームにも「R指定」という年齢制限はありますが、多くのBCGも利用規約で「成人以上」という決まりを設けています。BCGで使用するFTやNFTを購入するためには、CEX※8を使用する必要があります。そして、国内の多くのCEXでは年齢制限が18歳以上※9に決められています。このため、BCG事業では必然的にターゲット顧客は成人以上となります。

※8 CEX(Centralized Exchange:中央集権型取引所)は企業が取引を管理する暗号資産取引所です。法定通貨と暗号資産をトレードできます。
※9 利用可能年齢を20歳以上としているCEXもあります。

税金について

NFTやFTが財産的価値を持つ資産と交換可能な場合、その取引は所得税の課税対象になります。一方で、市場価格がついておらず、交換不能な場合は課税対象外です。また、ガバナンストークンに関しては、発行法人が保有するトークンは期末時価で評価されます(2024年1月時点)。これはDAO運営をスタートさせる企業側にとって大きな税金負担といえます。BCGビジネスを始める際、ガバナンストークンを導入する企業はしっかりと認識しておく必要があります。

参考:国税庁「NFTに関する税務上の取扱いについて」

成功事例

BCGはゲーム内トークンやNFTのインフレによってプロジェクトが短命で終わることがあります。ここでは、インフレに耐えて幾年もP2Eを成立させているBCGを成功事例として解説します。

Axie Infinitiy(アクシーインフィニティ)

Axie InfinitiyはBCGを代表するプロジェクトです。盛衰激しいBCG業界で2018年のローンチから長きにわたりP2Eを提供しています。ゲーム内トークンやガバナンストークンは2021年(P2Eブーム)時の勢いはありませんが、トークノミクスは未だに健在です。

参考:アクシーインフィニティ公式サイト

STEPN(ステップン)

STEPN(ステップン)は、2021年末にローンチされたM2EモデルのBCGです。ユーザーは運動することで暗号資産を稼ぐことができます。長期的な成功の秘訣は、健康意識の高いユーザー層の獲得と、持続可能なエコシステムの構築にあります。また、顧客ロイヤリティを高めるためにイベント開催などをオンライン、オフラインで行っています。ファン同士のつながりもあり、長くエコシステムを機能させています。プロジェクトの中でマルチチェーン化なども実現させました。

参考:STEPN公式サイト

L2Eを提供するCEX

Learn to Earnは企業側とプレイヤー側双方に直接的なメリットがあります。企業側はプロダクトや技術をPRして売り込むことができます。プレイヤー側は最新のWeb3技術を無料で学び、かつ報酬までもらえます。多くのCEXで導入が進むL2Eですが、一般的な企業でもマーケティング手法として有力なことは間違いありません。また、企業側の宣伝コストが直接振り分けられるので、エコシステムは堅牢です。

参考:Phemex公式サイト

まとめ

BCGはトークノミクスをしっかり理解し、マネタイズと社会的価値の両方をプレイヤーに提供していくことで持続的な運営が可能となります。また、M2EやS2Eなどは企業プロダクトのPRにも役立てることができ、マーケティング手段としても有効です。

以上、新規事業としてのBCGについて解説しました。本記事がWeb3時代にビジネスチャンス拡大に取り組む企業の皆様にとってお役に立てれば幸いです。

AMEHARE

AMEHARE

ITの最新トレンドを発信しはじめて十余年。Web2から3の時代の変革もいち早く察知し、2012年ごろから仮想通貨に注目をし始める。次世代の文化やテクノロジーを情報を掴みつつ、NFT・メタバース・DAOなどの領域であらゆる情報を発信中。
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