近年の暗号資産(仮想通貨)市場の拡大により、日本国内でもブロックチェーンやweb3.0を推進する動きが活発化しています。2023年6月1日には改正資金決済法が施行され、日本国内でもステーブルコインの発行が可能となりました。
こういった状況の中、現在注目を集めているのが、ブロックチェーンを基盤としたデジタル通貨「DCJPY」です。DCJPYは、日本円に連動するデジタル通貨であり、個人や企業が銀行を介さず、デジタル上での直接取引ができるプラットフォームとされています。
2023年10月12日、GMOあおぞらネット銀行が、2024年7月にDCJPYを発行予定ということを発表し、国内の暗号資産コミュニティでも話題となりました。
この記事では、そもそもDCJPYとは?といった概要や特徴、仕組み、ステーブルコインとの違いなどを解説していきます。また、記事の後半では、ホワイトペーパーなどで取り上げられているユースケースについてもご紹介します。
この記事の構成
デジタル通貨「DCJPY」とは?
画像引用元:Amic Sign ポータルサイト
早速ですが、そもそもDCJPYとは?という概要、基本情報をご紹介していきます。以下の4つの項目に沿って、順番に確認していきましょう。
- デジタル通貨フォーラムによる決済プラットフォーム
- DCJPYは銀行預金をベースとしているデジタル通貨
- デジタル通貨フォーラムに参画する企業
- AMIC(アミック)という構成要素をコア概念としている
デジタル通貨フォーラムによる決済プラットフォーム
DCJPYとは、様々な企業・団体・自治体・関係省庁などによって構成された、「デジタル通貨フォーラム」によって検討が進められているプロジェクトです。
企業と企業、企業と個人が銀行を介さずとも、デジタル通貨を通して直接取引できるという、シームレスな決済プラットフォーム・経済圏の開発を目指しています。デジタル通貨フォーラムでは、このようなネットワーク全体のことを「DCJPYネットワーク」と呼んでいます。
デジタル通貨フォーラムは、DCJPYを2024年中に商用化することを計画しています。DCJPYが実装されることで、個人や企業のあらゆる取引が自由で効率的なデジタルマーケットへと移行する可能性があります。
DCJPYは銀行預金をベースとしているデジタル通貨
このような決済プラットフォーム上で使用される通貨が、デジタル通貨「DCJPY」です。DCJPYは、銀行預金をベースとしているデジタル通貨であり、パーミッション型ブロックチェーンの技術が使われています。
日本円と連動した円建てのデジタル通貨として設計されており、民間銀行が発行主体になるという点も特徴の一つだといえるでしょう。また、DCJPYは日本円と同じく1円を最小単位としています。性質的には決済用預金に分類されるため、全額預金保険の保護対象となるとされています。
その他、スマートコントラクトを活用して契約条件や用途をプログラムすることも可能であり、プログラマブルマネーとしても機能します。
デジタル通貨フォーラムに参画する企業
前述の通り、DCJPYは「デジタル通貨フォーラム」によって開発が進められているweb3.0プラットフォームです。
デジタル通貨フォーラムは、100を超える企業・団体・自治体・関係省庁・有識者などによって構成されており、株式会社ディーカレットDCPが事務局を務めています。
2023年11月5日現在、ディーカレットDCP公式サイトによると、以下のような日本を代表する企業や金融機関、また自治体などが参画していることがわかります。
- NTTグループ
- 東⽇本旅客鉄道株式会社
- KDDI株式会社
- SBIホールディングス株式会社
- 関⻄電⼒株式会社
- 中部電⼒株式会社
- 野村ホールディングス株式会社
- 株式会社三菱UFJ銀⾏
- 株式会社三井住友銀⾏
- 株式会社みずほ銀⾏
- 株式会社セブン銀⾏(株式会社セブン&アイ・ホールディングス)
- 株式会社ゆうちょ銀⾏
- 株式会社ローソン
- 東京都
- 熊本県
- 会津若松市
- 浜松市
AMIC(アミック)という構成要素をコア概念としている
画像引用元:DCJPY公式ホワイトペーパー
DCJPYでは、AMIC(アミック)という4つの構成要素をコア概念としています。4つの要素が相互に連携することで、柔軟かつ効果的な取引を実現し、新しい経済圏が構築されると説明されています。
以下の4つの構成要素について、それぞれ順番に確認していきましょう。
- Asset(アセット)
- Money(マネー)
- ID(アイデンティティ)
- Contract(コントラクト)
Asset(アセット)
Asset(アセット)とは、NFT(非代替性トークン)やST(セキュリティトークン)、GT(ガバナンストークン)などのトークン化資産のことを指します。
DCJPYのプラットフォームでは、ユーザーがこれらの資産を作成することができ、その所有権や価値は後述するID(アイデンティティ)によって担保されます。
ブロックチェーン技術を活用しているため、透明性・安全性を確保した上で資産の管理・移転が可能であり、それらの取引を追跡することもできます。
関連記事:NFTとは?特徴や仕組み、購入方法まで初心者にもわかりやすく解説
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Money(マネー)
Money(マネー)とは、日本円と連動するデジタル通貨「DCJPY」のことを指しています。DCJPYネットワークでの取引に利用され、個人と企業間でのリアルタイムかつ直接の取引を実現します。
銀行などの仲介者がいないため、仲介手数料を削減できるメリットがあるでしょう。また、スマートコントラクトによって契約条件をプログラムすることも可能であり、プログラマブルマネーとしての機能も持っています。
ID(アイデンティティ)
ID(アイデンティティ)とは、DCJPYネットワークにおける、Asset(アセット)とMoney(マネー)の所有権を表す識別子のことです。
民間銀行の本人確認手続き(KYC)によって発行される仕組みとなっており、取引の安全性や信頼性を担保するものとなります。
Contract(コントラクト)
Contract(コントラクト)とは、一般的なスマートコントラクトを意味しています。
前述のAsset(アセット)やMoney(マネー)に用途、契約条件などをプログラミングしておくことで、取引の効率化や透明性を実現できるでしょう。
DCJPYの特徴や仕組み
ここでは、DCJPYネットワークの特徴やサービス全体の仕組みなどをご紹介していきます。
DCJPYネットワークの全体像に加え、「フィナンシャルゾーン」「ビジネスゾーン」というDCJPYを理解する上で必須の領域について解説していきます。
DCJPYネットワークの全体像
DCJPYネットワークは、2つのブロックチェーンネットワークにて構成されています。下記の画像は、DCJPYネットワークの全体像を表した画像です。
画像引用元:DCJPY公式ホワイトペーパー
DCJPYネットワークは、金融機関を中心とした金融ビジネスの領域である「フィナンシャルゾーン」と、企業や個人がビジネスを展開するための領域である「ビジネスゾーン」に分かれています。これら2つの領域が相互に連携することで、ネットワーク上での商取引や決済を実現しています。
また、IBC(Inter-Blockchain Communication:ブロックチェーン間通信プロトコル)によって、他のブロックチェーンプラットフォームとの相互接続も可能とするエコシステムを構築しています。
フィナンシャルゾーン
フィナンシャルゾーンとは、民間銀行が銀行預金を裏付けとしたDCJPYの発行や償還、移転などをするためのサービス領域とされています。
主に、民間銀行がDCJPYの発行残高を元帳に記録したり、DCJPYとユーザーID(識別子)の相互連携、DCJPYを発行する上で必要になる銀行システムとDCJPYネットワークを接続する役割を持っています。
ユーザーに関しては、フィナンシャルゾーンにてDCJPY口座を開設することで、DCJPYの発行や償還、送金などができるとされています。
ビジネスゾーン
ビジネスゾーンとは、ユーザーがNFT(非代替性トークン)やST(セキュリティトークン)、GT(ガバナンストークン)など、様々なアセットを独自に発行できるサービス領域です。
発行するアセットには、スマートコントラクトによって様々な条件を設定できます。具体的には、アセットの取引条件や利用目的、関与する事業者、取引ルールなどを事前に設定しておくことで、取引の自動化や効率化を実現することが可能です。
例として、損害保険会社のユースケースが挙げられるでしょう。損害保険会社が、保険の適用条件や除外条件、契約有効期限などをスマートコントラクトで設定した保険証書を発行したとします。その後、実際に保険契約者に損害が発生し、事前の適用条件に合致していた場合、保険契約者の口座にDCJPYが自動送金されるといった仕組みを構築できます。
上記はあくまでも一例ですが、DCJPYネットワークを利用すれば、NFTなどのアセットを自由に発行でき、ルールに則った取引を効率的に行うことが可能です。
ステーブルコインとDCJPYの違いについて
大きな注目を集めているDCJPYですが、よく似た特徴のものとして、法定通貨などの価格と連動するステーブルコインが挙げられます。
ここでは、以下の3つの項目に沿って、ステーブルコインとDCJPYの違いを確認していきましょう。
- 発行体の違い
- 裏付け資産の違い
- 安全性の違い
ステーブルコインとDCJPYの違い①:発行体
ステーブルコインとDCJPYの違いとして、まず発行体の違いが挙げられるでしょう。
現在の暗号資産市場では、様々な種類のステーブルコインが発行されており、銘柄によって発行体が異なります。例えば、USDTであればテザー社、USDCであればサークル社、DAIであればDeFiプロトコルのMakerDAOが発行しています。
関連記事:MakerDAO(メイカーダオ)とは?概要・特徴やDAIの発行方法などをわかりやすく解説
一方、DCJPYに関しては、同じネットワーク、技術基盤は利用しつつも、複数の民間銀行が発行する形式となっています。そのため、一般的なステーブルコインのように単一の発行体が存在しているわけではありません。
ステーブルコインとDCJPYの違い②:裏付け資産
ステーブルコインとDCJPYの違いには、裏付けとなっている資産も挙げられます。
例えば、一般的な法定通貨担保型ステーブルコインの場合、現金や短期国債、中には社債やローンなどを裏付け資産としているケースがあります。USDTを発行するテザー社に関しては、BTC(ビットコイン)を裏付け資産の一部として組み込んでいることでも有名です。
また、ETH(イーサリアム)などの暗号資産を担保としているステーブルコインや、裏付け資産は準備せずにアルゴリズムで価格を安定させるステーブルコインも存在します。
一方、DCJPYは、銀行預金を裏付けとして発行されているデジタル通貨です。そのため、100%日本円で担保されており、一般的なステーブルコインとは準備金の面で異なる特徴を持っています。
ステーブルコインとDCJPYの違い③:安全性
最後に、ステーブルコインとDCJPYの安全性の違いについて確認していきましょう。
USDTなどの法定通貨担保型ステーブルコインの場合、その安全性は発行元が保有している準備金によって担保されています。もし、十分な準備金を保有していない場合、法定通貨の償還が不可能となり、安全性を担保しているとは言い難いでしょう。
発行元の企業は、定期的に準備金に関するレポートなどを公開しています。しかし、準備金の詳細な内訳や内容まで公開されないケースもあり、ユーザーとしては発行元に対して一定の信頼を置く必要があります。
関連記事:【時価総額TOP20】Tether(USDT)について徹底解説
それに対して、DCJPYは銀行預金を裏付けとして発行されます。100%日本円で担保されているため、常に1:1の割合での償還が可能であり、安全性を確保していると考えられます。
また、ホワイトペーパーによると、DCJPYは決済用預金に分類されるため、その全額が預金保険の保護対象になるとされています。仮に発行元の銀行が破綻した場合でも、全てのDCJPYが保護されるため、個人ユーザーや企業も安心して利用できるという特徴があるでしょう。
ステーブルコインについてもう少し詳しく知りたいという方は、ステーブルコインとは?法定通貨などにペッグする暗号資産の特徴やステーブルコインの種類まで徹底解説の記事もあわせてチェックしてみてください。
今後想定されるDCJPYのユースケース
記事の最後に、今後想定されるDCJPYのユースケースについて確認していきましょう。
ここでは公式サイトやホワイトペーパーで掲載されている、DCJPYの2つのユースケースをピックアップしてご紹介していきます。
- カフェでのユースケース
- 不動産賃貸業でのユースケース
カフェでのユースケース
DCJPこの記事では、そもそもDCJPYとは?といった概要や特徴、仕組み、ステーブルコインとの違いなどを解説していきます。また、記事の後半では、ホワイトペーパーなどで取り上げられているユースケースについてもご紹介します。Yのユースケースとして、地方にあるカフェなどでの活用が挙げられます。
カフェなどの地域小売店でDCJPYを導入することで、ウォレットを利用したシームレスな支払いを実現できます。顧客としては、財布を持たずに店舗を利用できることに加え、レジでの待ち時間などを回避できるメリットがあるでしょう。
ここまでは、現状の電子決済サービスでも実現できます。しかし、DCJPYを利用することで、店舗側は顧客の好みやニーズといったセグメント情報を活用できるとしています。これにより、より魅力的なサービスや商品を提供し、顧客満足度を高められる可能性があります。
また、DCJPYはブロックチェーン技術を使っているため、トレーサビリティ機能も活用することが可能です。例えば、そのカフェが野菜農家との取引をDCJPYで行っている場合、顧客は生産地などの情報をトレース(追跡)できます。これにより、食品などの安全性や透明性が、より向上すると考えられます。
不動産賃貸業でのユースケース
DCJPYネットワークは、不動産賃貸業でも活用できるとされています。
一般的に不動産賃貸業は、オーナーや入居者、管理業者、保証会社など様々な利害関係者が存在するビジネスモデルとなっています。そのため、毎月発生する家賃収入の分配をはじめ、複雑な取引構造となっており、人的ミスが発生しやすいビジネスだといえるでしょう。
しかし、DCJPYであれば、スマートコントラクトを活用することで、業務の効率化を実現できます。例えば、毎月の家賃支払いをスマートコントラクトの実行条件に設定し、オーナーや管理会社、保証会社に家賃を自動分配するといったプログラムの設定が可能となります。
また、人的ミスの削減や業務の効率化が行われることで、管理会社などの事務負担が軽減し、入居者の管理費などが低減される可能性もあるかもしれません。
日本円に連動するデジタル通貨「DCJPY」まとめ
今回の記事では、デジタル通貨フォーラムが開発を進めるデジタル通貨「DCJPY」について解説してきました。ご紹介した通り、DCJPYネットワークは企業や個人が銀行を介さずとも、デジタル通貨「DCJPY」を通して直接取引できる、シームレスな決済プラットフォームとなっています。
2023年10月12日、GMOあおぞらネット銀行は他の銀行に先駆けて、2024年7月にDCJPYを発行する計画を発表しました。今後は他の民間銀行も、GMOあおぞらネット銀行の動きに追随する可能性があるでしょう。
デジタル通貨フォーラムは、DCJPYの商用化を2024年中を計画しているため、まだローンチされているわけではありません。しかし、大きな関心を集めているプロジェクトであるため、今後もDCJPYの動向には注目していく必要がありそうです。