ブロックチェーンの世界では、日々新たなプロジェクトが誕生しています。一部のプロジェクトは大きなブームに発展し、業界全体にまで影響を及ぼすことも。しかし一世を風靡した大人気プロジェクトでさえ、わずか数ヶ月後には鳴かず飛ばずの状態になってしまう事例も珍しくありません。移り変わりが激しい領域であるため、今まさに脚光を浴びているプロジェクトも5年後にはほとんどが姿を消しているでしょう。
このような理由から、現在のトレンドだけでなく過去に話題となったプロジェクトの振り返りも重要です。そこで今回は、ブロックチェーン業界で話題となった人気プロジェクトを追跡し、現在の状況を取り上げました。WEB3プロジェクトの盛衰から、今後のブロックチェーンビジネスに関するヒントを得られるはずです。
この記事の構成
WEB3業界を騒がせた有名プロジェクトのその後を追跡
NFTプロジェクトからブロックチェーンゲームまで、WEB3の世界では毎日のように新たなトレンドが生まれています。ここでは、過去に大きな話題となった以下のプロジェクトに焦点を当てます。
プロジェクト名 | 2023年4月時点の状況 | 要因 |
InstagramのNFT実装 | 中断 | 注力分野を見直したため |
STEPNの「Move to Earn」 | 下げ止まり | 新規ユーザーが減少したため |
Axie Infinityの「Play to Earn」 | 下げ止まり | 新規ユーザーが減少したため |
NFT Loot | 水面下で進行中 | ゲーム開発に時間を要するため |
漫画・アニメのNFT化 | 可もなく不可もなく | 継続的なNFT売買が難しいため |
The Sandbox | 堅調 | 企業案件を多数獲得しているため |
これまでに一大ブームを巻き起こしたプロジェクトについて振り返り、現在の状況を追跡しましょう。
「Instagram」のNFTシェア機能
2022年5月に大手SNSサービスであるInstagramがNFT機能の試験運用を開始し、大きな話題となりました。しかし2023年4月には、このNFT機能のサービス中止が発表されています。
InstagramがNFT機能を盛り込むという話題は、以下の2つの記事で取り上げました。
2022年初頭にWEB3業界を騒がせた話題が、Instagramの「デジタルコレクティブル機能」です。NFTを「デジタルコレクティブル」という名称で定義し、気軽にNFT作品の投稿ができるSNSプラットフォームを目指していました。実際に2022年5月には、一部のユーザーに限定してテスト運用されていました。加えて2023年1月にリリースされたのが、Instagram内でのNFT取引サービスです。一般ユーザーでも手軽にNFT売買ができるとして、注目を集めました。このNFT取引の詳細について、以下の記事で特集しています。
このように、InstagramでのNFT実装は順調に進んでいるかのように見えました。ところが2023年4月に状況が突如として急変し、Meta社はInstagramでのNFT機能の実装を中止すると発表しました。
NFT機能が中止された理由について、Meta社からの言及はありません。しかし、以下の3点の理由が考えられます。
- Meta社での大規模リストラの影響
- デジタル通貨「リブラ」の失敗
- Appleに対する手数料の存在
2022年11月と2023年3月の2度にわたって、Meta社では大規模なリストラが決行されました。この人員削減により、重要度の低いプロジェクトが凍結に追い込まれたと考えられます。また、Meta社が進めていたデジタル通貨「リブラ」も失敗に終わり、リブラを活用したNFT取引も不可能となりました。加えて、InstagramアプリでNFT取引をした場合、収益の一部をAppleに対して支払わなければなりません。
このような障壁により、InstagramへのNFT機能の搭載が取り止めになったと推測できます。Instagramのような巨大SNSプラットフォームのNFT導入によって、NFTが一気に普及すると期待されていました。しかし結果として、NFT機能の導入は実現しませんでした。
「STEPN」が巻き起こしたMove to Earn
2022年初頭から一大ブームとなったのが、「Move to Earn」です。この「Move to Earn」の火付け役が、WEB3ゲームであるSTEPNです。NFTを買って散歩するだけでトークンを稼げるとして、STEPNはたちまち話題となりました。歩くだけでお金を稼げるため、それまでブロックチェーンに無関心だったユーザーまでが流入する事態に。しかし、2023年4月の時点では、「Move to Earn」の勢いは下火になりつつあります。
STEPNや「Move to Earn」ブームについて、以下の記事で特集しました。
この「Move to Earn」のビジネスモデルを持続させるには、新規参入者の絶え間ない流入が不可欠です。なぜなら、ユーザー数の増加がNFTアイテムやトークンの市況相場を下支えしているからです。STEPNでも「Move to Earn」ブームの期間は新規ユーザーが増加し続けました。これにより、STEPNの基軸通貨であるGST(グリーンサトシトークン)の取引価格も上昇トレンドを維持できました。
しかし「Move to Earn」ブームが一服すると、STEPNの状況は一変します。新規参入者数の鈍化によって、NFTアイテムやGSTの価値が急落しました。結果として2022年9月から2023年4月までの期間で、GSTの価値は300分の1まで暴落しています。STEPNでは資金を稼ぎづらくなったため、「Move to Earn」も下火になってしまいました。
このように、既存の「Move to Earn」のビジネスモデルでは、持続的な発展は不可能です。そこで、「お金を稼ぐ」という要素を弱めた新たなゲームも登場しています。その代表例が、「Sweatcoin」や「Aglet」です。これらの「Move to Earn」ゲームについて、以下の記事で解説しています。
「Sweatcoin」や「Aglet」では、トークンを暗号資産(仮想通貨)に換金できないなど、「お金稼ぎ」の要素は薄められています。ユーザーにとっての投機性が低く注目されにくいものの、これらの新しいゲームが徐々に普及し始めました。このように、水面下では次世代の「Move to Earn」ゲームを模索する動きが続いています。
「Axie Infinity」が火付け役のPlay to Earn
「Axie Infinity」の台頭によって、ゲームを通じてトークンを稼ぐWEB3ゲームが話題となりました。しかし市況の悪化により、2023年4月現在では「Play to Earn」やGameFiといったお金稼ぎを目的としたWEB3ゲームは勢いを失いつつあります。
Axie Infinityは、GameFiの代表格です。このAxie Infinityについて、以下の記事で解説しました。
Axie Infinityはトークンを稼げるゲームとして注目を集め、2021年7月ごろから東南アジアを中心として多くのユーザーが参入しました。ブームの到来とともに、ガバナンストークンである「AXS」も相場が急騰する結果に。新規ユーザーの増加とトークン相場の上昇が相乗効果を生み、一躍大人気のゲームに成長しました。ところが2021年11月を境目に、徐々にブームが収束する結果となりました。AXSにおける2023年4月の相場は、ピーク時である2021年11月の6%ほどにまで下落しています。
「Play to Earn」ゲームにおける参加者の目的は、ゲームの楽しさよりもトークン稼ぎです。そのため収益性が悪化すると、ユーザーはすぐに立ち去ってしまいます。よって持続可能なWEB3ゲームを展開するには、投機性を抑えてゲーム自体の面白さを追求しなければなりません。以下の記事では、「Play to Earn」の存在意義について考察しています。
「Play to Earn」に変わるビジネスモデルは、いまだに登場していません。ブロックチェーンならではの面白さを持つ持続可能なゲームについて、今なお模索段階にあると言えるでしょう。
「NFT Loot」の価格高騰
「NFT Loot」は、意味を持たない単語のみが並べられたNFTコレクションです。それにも関わらず高額での取引が相次いだため、大きな注目を集めました。しかし2023年4月時点で、NFT Lootは逆風に晒されています。
NFT Lootでは、与えられた単語からユーザーが自由に連想してゲームを創作します。このNFT Lootプロジェクトについて、以下の記事で取り上げました。
ユーザーが主体となってゲームを創作するプロジェクトは斬新であり、一躍ブームを生み出しました。ピーク時である2021年9月のNFT取引価格は、なんと10ETH以上です。ところがブームの終焉と共に価格も下落し、2023年4月には0.4ETHほどまで下がってしまいました。このような経緯で、NFT業界の話題からも消えてしまいました。
NFT Lootの勢いが失われた原因は、「ゲーム開発」というプロジェクトの特性が関係しています。ゲームを作るには、数年単位での開発期間が必要です。よって、一朝一夕で新たなニュースが発表される訳ではありません。しかし、短期間での成果を求める投資家たちはゲームの進捗を待ちきれず、NFTを手放してしまいました。結果として、コミュニティ全体の熱量が低下する事態に。
2023年4月の時点で、NFT Lootでは有志による水面下での開発が進められています。ただ、成果物のリリースに時間がかかる状況でコミュニティの求心力を維持するのは困難です。そのため熱心な協力者を除いて、投資家たちは去っていってしまいました。
NFTプロジェクトでは、コミュニティの熱量が欠かせません。しかし、NFT Lootのような長期間を要するプロジェクトでは、参加者が次第に飽きてしまうリスクも考えられます。プロダクトがない中でどのように参加者を巻き込むかが、このプロジェクトの教訓だと言えるでしょう。
漫画・アニメの有名IPを採用したNFT
アニメや漫画など、日本の人気IP(知的財産)コンテンツを利用したNFTプロジェクトも数多くリリースされました。ただ、どのプロジェクトも一定の実績を上げたものの、ブルーチップNFTに迫るような成果は現れていません。
漫画やアニメを活用したプロジェクトについて、以下の記事で特集しています。
一般的に、日本の有名漫画・アニメコンテンツを活用したNFTは、新興NFT取引所のキャンペーン企画として打ち出されます。このような閉鎖的な取引所では、OpenSeaのようなグローバル市場と比較して外国の投資家は集まりません。結果的にNFTの流動性が低くなり、継続的な売買が行われにくくなってしまいます。
加えて、コミュニティの盛り上がりを演出しづらい点も課題です。有名NFTプロジェクトでは、ユーザーが主体となってコミュニティを盛り上げます。例えば、ユーザーがNFTコンテンツの二次創作を発表するなど、コミュニティメンバーが自主的に活動し熱狂を作り出します。このコミュニティの熱量は、NFTプロジェクトを成功に導く上で不可欠です。一方で、漫画やアニメのコンテンツではすでに著作権が確立されているため、ユーザーの自主性に任せたコンテンツの二次利用はできません。よって、ユーザーを中心とした盛り上がりが生まれにくい構造になっています。
また、漫画やアニメのNFTプロジェクトでは、継続的に新しい話題を供給できません。NFTプロジェクトでは、将来のロードマップや目新しい情報を定期的に発信する必要があります。なぜならマーケットから忘れ去られてしまうと、NFTの相場が徐々に下がってしまうからです。しかし、すでに連載を終えているコンテンツの場合、長期的に新たなニュースを供給するのは現実的ではありません。よって、次第にNFTの取引が減少していきます。
このような理由から、日本の有名コンテンツを活用したとしても、必ずしも成功に結びつかないのが現実です。NFTの販売後にユーザーを継続的に取り込む手法については、今後の重要な課題となるでしょう。
「The Sandbox」で注目されたメタバースプロジェクト
メタバースプロジェクトが発行するNFTも、マーケットで大きな話題となりました。その代表格が「The Sandbox」であり、2023年4月時点でも一定の人気を維持しています。
The Sandboxについて、詳細は以下の記事で特集しています。
このThe Sandboxを支えているのが、数多くの企業案件です。メタバースへの進出を目論む企業にとって、The Sandboxの空間は魅力的です。そこでさまざまな企業がThe Sandboxに出資を行い、メタバース上で自社のコンテンツを展開しています。実際に、以下の企業やコンテンツがThe Sandboxと提携しました。
- ワーナーミュージック・グループ
- アディダス
- コインチェック株式会社
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 漫画「北斗の拳」
- 漫画「キャプテン翼」
このような人気コンテンツとの提携は、エコシステムの拡大にとって重要です。なぜならブランドの発信力が強いため、メタバースに無関心だった新たな顧客をThe Sandboxへ流入させられるからです。加えて企業がメタバースイベントを主催した場合、大きな集客効果を期待できます。これらの企業案件に支えられて、The Sandboxは堅調に事業を拡大しています。
メタバースはブロックチェーンよりも大衆層にとって親しみやすいため、企業も積極的に投資を進めました。次世代の新たな商業空間としても期待されており、さまざまな業界からの参入が相次いでいます。実際にNFT HACKでも、以下のトレンドを特集しました。
グローバル企業の参入によって、メタバースのプラットフォームには一定の需要が続いています。The Sandboxだけでなく、RobloxやDecentralandといったプラットフォームでも企業案件のプロジェクトが盛んです。このような法人顧客からの安定した資金流入によって、2023年4月時点でもメタバースプロジェクトは需要を維持しています。
2023年初頭におけるWEB3プロジェクトの現状
ここでは、過去にブームとなったWEB3プロジェクトの2023年における現状を紹介します。現時点で注目を集めているプロジェクトの将来を見据える上でも、過去のブームがたどった顛末について把握しておきましょう。
投機筋の減少で各プロジェクトとも落ち着きを見せる
2022年4月以降、暗号資産の市況は低調です。過熱気味であったマーケットは冷え込んだため、ブロックチェーンにさほど興味のなかった投資家が撤退しました。これにより、多くのWEB3プロジェクトは落ち着きを取り戻しています。このような過酷な状況だからこそ、今も市場で生き残っているのは真摯にブロックチェーン領域に取り組んでいる者ばかりです。
市況が過熱している局面では、有象無象のプロジェクトが乱立します。加えて、それまでブロックチェーンに無関心だった個人投資家も殺到する事態に。このような好況時には、完成度の低いプロジェクトでさえ、大きな話題となります。しかし2023年初頭の現時点では、そのような実態を伴わないプロジェクトは減少しました。コミュニティの盛り上がりだけでプロジェクトの成否が判断される時代は終わり、ブロックチェーンの実用性が求められる段階に突入しています。
コミュニティの熱量を維持できないプロジェクトも散見される
WEB3プロジェクトを成功に導くためには、コミュニティを中心とした持続的な盛り上がりが欠かせません。しかし、ガバナンストークンの下落や新規参入者の減少によって、コミュニティ内の熱量が低下してしまっているプロジェクトも。
コミュニティの熱量が失われると参加者の減少に繋がり、負のスパイラルに突入します。このような事態に陥ってしまうと、プロジェクトの立て直しは困難です。コミュニティの求心力を維持するためにも、最新情報の発信や新たなプロジェクトの立ち上げなど、話題を提供し続けなければなりません。
WEB3におけるビジネスモデルの模索が続いている
「Play to Earn」や「GameFi」などのブームが生まれたものの、ブロックチェーンの世界では、いまだに成功例と呼べるビジネスモデルが存在しません。なぜなら「Play to Earn」のWEB3ゲームは、持続可能なビジネスモデルではないからです。そのため、さまざまな組織によってWEB3時代に適したロールモデルの模索が続いています。
ブロックチェーン上で、将来にわたって安定したビジネスを構築するには、従来の「Play to Earn」などとは異なる仕組みが欠かせません。2023年以降は、さまざまな組織で持続可能なビジネスモデルを探索する流れとなるでしょう。
有名プロジェクトのその後についてのまとめ
本記事では、過去にブロックチェーン業界を騒がせた有名プロジェクトのその後を追跡しました。ブロックチェーンの世界では、業界を大きく賑わせたプロジェクトがその後に低迷することも珍しくありません。そのため、短期間での情勢に振り回されず、5年〜10年先を見据えた取り組みが重要となります。
自社ビジネスにブロックチェーンを導入する際にも、長期的な視点が欠かせません。業界のトレンドを分析する際は、この記事の内容をぜひ参考にしてみてください。